レベル1の最強テイマー~幸運極振りの初心者ゲーマーはもふもふ軍団を従え最強へ至ります~

ジャジャ丸

第1話 ゲーム配信とキャラメイク

紅葉もみじー! 例のあれ届いた?」


 ガヤガヤと賑やかな談笑の声が無数に飛び交う学校の休み時間。私に話しかけて来たのは、親友の清水しみずなぎさだった。


 いつになくはしゃいだ様子の彼女に、私はこくりと頷きを返す。


「うん、ちゃんと届いてるよ。これで私も、ゲーム配信者としてデビュー出来るね!」


 ふんすっ、と拳を握りしめながら、人のことを言えないくらいワクワクしている自分の内心に気づいて、思わず苦笑する。


 私達が話しているのは、今話題沸騰中のVRMMORPG、《テイマーズバトルオンライン》。通称TBOのことだ。


 プレイヤー全てがテイマーとなり、相棒となるモンスター達を集めながら一緒に戦ったり、未知の大陸を冒険する……というようなコンセプトの、全感覚没入型VRゲーム。


 なんでも、プレイヤーがVR世界に行くだけでなく、育てたモンスターをスマートフォンなどのAR機能を使って現実リアルに呼び出すことも出来るとかで、モンスター達の愛らしい挙動から一般層の間でも流行りつつあるんだとか。


 そんなゲームに私が挑戦する理由は、シンプルにお金のため。


 ゲーム配信で有名になって、いっぱい稼いで、私を養うために日夜仕事を頑張っているお姉ちゃんに、少しでも楽をさせてあげるのだ!


「なら良かった、これで一緒に遊べるね」


「あはは、まあ軌道に乗るまではちゃんと自力でやらないとだけどね。最初から渚におんぶに抱っこじゃ、私の配信にならないし」


 渚は、既に私より一ヶ月ほど先んじてこのゲームを始め、配信者として有名になってる。その力を借りれば、最初からある程度の伸びが期待出来るかもしれない。


 でも、それじゃあ良くて渚の劣化コピーにしかならないと思う。どうせやるなら、ちゃんと自分で考えて、自分のやり方で視聴者を集めなきゃ!


「おーおー、分かってるじゃない紅葉。褒めてしんぜよう」


「ぬわーっ、そんな乱暴に頭撫でないでよ、髪乱れるでしょー!」


 わしゃわしゃと私の髪を撫で回す親友に向けて腕を伸ばすも、サイズの違いから全く届かない。


 こうして教室で一緒に話していることからも分かる通り、私達は同じ学年で同じクラス。ついでに、幼稚園の頃から一緒だった幼馴染なんだけど……見た目はまさに凹凸コンビと言ったところ。


 すらりと細い手足に、学年平均で見ても大きな胸と滑らかな曲線を描く腰回りを持つ渚は、もうただそこにいるだけで色々とキラキラオーラ全開の超絶美少女。


 対する私は、高校生にもなって未だ小学生と勘違いされるようなちんちくりん。当然胸なんてぺったんこで、二人一緒に歩いてると姉妹と勘違いされるレベルだ。


 そのせいか、渚もどこか私を妹か何かみたいに思ってる節があって、ちょくちょくこうして子供扱いしてくるんだよね。


 ぐぬぬ、いつか絶対渚より大きくなって、高笑いしながら見下ろしてやるー!


「あはは、ごめんごめん。でもさ、困ったことがあったらいくらでも頼ってよね。力になってあげるからさ」


「むぅ、分かった、その時はよろしくね」


 撫で回す手を止めて、乱れた髪をサササッと整えてくれる渚。

 こうやって撫でられた時に限らず、朝登校した後に寝癖が残ってるといつも直してくれたりするから、その手付きは慣れきっていて淀みがない。


 最後に終了の合図代わりに優しく撫でてくれる親友に笑顔でお礼を伝えると、その表情がにへら、とだらしなく緩み、そのまま私の体を抱き締められた。むぎゅっ。


「あーもう、こんなマッチポンプでおさわりしてもにっこにこでお礼言ってくれるなんてほんと紅葉は可愛いなぁーもー。やっぱ配信とか止めない? このチョロ可愛さが全国区になると色々と変な男が寄ってきて危ないよ? お金なら大丈夫、私が紅葉を養ってあげるから!」


「うん、色々と突っ込みが追い付かないけど、渚のそういう正直なとこはいいことだと思うよ」


 やられた本人を前にマッチポンプとかチョロ可愛いとか言うんじゃないよ、全く。


 なんてことをしていると、ちょうど授業開始のチャイムが鳴り、ガラガラと扉を開けて教室の中へ先生が入ってきた。


「おーいお前ら、早く席に着けー。特にそこの朝っぱらからいちゃつくバカ共ー」


「先生、私はもう席に着いてるし一方的にやられてるだけなので渚とセットでバカ扱いはひどいと思います!」


「そうですよ先生、紅葉の席を私の膝の上にするという私の懇願を聞き入れてくれれば万事解決なんですから!」


「清水のバカな懇願は検討の余地もなく却下するとしてだ」


「ええー」


「一条はバカ扱いされたくないなら、せめてテストで三十点以上取ってから言ってくれ。この前の数学の小テスト、放課後に再々追試だ」


「ええーー!?」


 渚のバカなお願いがどうでもいいのは同意だけど、再々追試は勘弁して! 今日は記念すべき初ゲームの日なのに!


 などと叫んでみたところで、再々追試の現実が変わるわけでもなく。

 がっくりと肩を落とす私を慰めるように、渚はいつまでも……先生に首根っこ掴まれて席に戻されるまで、私の頭を撫で続けていた。





 再々追試を無事……無事? 乗り越えた私は、どうにか家に帰り着くことが出来た。


 部屋着に着替え、軽く水を一杯飲んでゲーム前に事前の水分補給。さーて、やるぞー!


『キャラクターの容姿を設定してください』


 既に初期設定は終わらせてあったVRギアを被り、ベッドの上でTBOを起動すると、まず流れてきたのはそんなガイドメッセージ。


 辺り一面真っ黒で明かり一つない電脳世界に、鏡映しのように私そっくりなアバターが浮かんでいる光景がはっきりと見える。


「さてさて、容姿設定と言っても、どうしようかな?」


 目の前に浮かぶウィンドウから、設定可能な項目を一通りチェックする。


 どうやら、目鼻立ちや髪、目、肌の色、多少の体格は変えられるけど、身長は弄れないみたい。


 ぐぬぬ、一番変えたかったところなのに……けち!


「まあ、そもそも歩くのも難しくなる可能性があるって言われちゃしょうがないか。じゃあ、えーっと……」


 流石に、配信しようって言ってるのにリアルそのままのアバターにするほどの勇気はない。

 というわけで、まずは手近なところ……全体の色から変えていこう。


 配信者なら目立ってなんぼ、ということで髪の色は思いきって金色に。面倒だからって普段はショートだけど、せっかくのゲームだしめちゃくちゃ長くしてみよう。地面にギリギリ着かないくらい。


 後は瞳を赤色にして、肌も少し白っぽく。服装は変えられないみたいだけど……うーん、野暮ったくて微妙。

 まあ、この辺りは実際にゲームの中で好きなの探してこいってことかな。


 それから……胸のサイズも少し盛っておこう。

 渚は「ロリ巨なんて邪道!!」とか言ってたけど、そもそも私ロリじゃないし。立派な女子高生だし。


 だから胸を盛ったって問題なし!! リアルの私にはない大人の色香を手に入れるのだ!!


「むふふ、よし完璧」


 出来上がったアバターを見て、私は満足げに何度も頷く。

 大人の色香……は若干意見が別れるところかもしれないけど、目立つキャラクターになったのは間違いないはず。


「最後は……ステータスの割り振りか」


 ステータスポイントが100pt渡され、それを割り振って初期設定するらしい。

 よく分からないなら自動で割り振ってくれるみたいだけど、ここはちゃんと自分で決めないとね。今後の方針にも関わるし。


「うーん、悩むなぁ」


 渚から事前に聞かされた、このゲームにおけるプレイヤーのスタイルは大きく分けて三つ。


 一つは、モンスターと一緒にガンガン前に出て戦う戦闘職タイプ。


 二つ目は、前衛をモンスターに任せて後方から支援魔法や指示出しに徹する司令塔タイプ。


 そして最後に三つ目が、フィールドワークをモンスターの自動探索に任せ、自分はモンスターが集めてきてくれたアイテムを使った生産活動で経験値を稼ぐ生産職タイプだ。


「運動音痴な私には戦闘職なんて荷が重いし、頭悪いから司令塔とか出来る気がしないし……となると、生産職?」


 いやでも、フィールドワークなしって配信者としてどうよ?

 まあ、それはそれでニッチな需要はありそうだけど、初心者の私がいきなりそれはどうかと思う。


「ああ、でもいくら生産職でもモンスターのテイムは自分で出向いてやらなきゃダメなんだっけ。ならいいかな?」


 基本的な戦闘スタイルは、モンスターにお任せ。

 自分の足でアイテムを集めて、モンスターを集めて、探索と生産の両取りを狙う。


 うん、悪くないんじゃないのかな?


、悪くないんじゃないのかな?


「となると、どっちにも効果がありそうなステータスを上げた方がいいよね。どれがいいかな……」


 定番の体力HP魔力MP、物理攻撃力の《筋力》、受けるダメージを軽減する《防御》、移動速度の《敏捷》、魔法攻撃力の《知力》や命中率に関わる《器用》などの項目が並ぶ中、私は一番下にピンと来る物を見つけた。


「お、これなんていいんじゃない?」


《幸運》

・モンスターのテイム成功率や、生産活動の成功率に関わる数値です。高いほどそれらの成功率が上昇します。


 生産とテイムが私の本分になるわけだし、それ以外は鈍くさい私には厳しい。

 となれば、このステータスの高さが私の強さを決定づけると言っても過言じゃないよね。


「よーし、ポイント全部振っちゃえ」


 というわけで、私は初期のステータスポイントを全て幸運に注ぎ込むことにした。


 後はキャラクターネームを決めて……これでよし!


「これで決定!」


 準備が全て完了し、私は迷わずウィンドウをタップする。


 するとそれに合わせ、キャラクターメイクの間ずっと黙っていたガイドメッセージが再び流れた。


『それでは、プレイヤーネーム《クレハ》様。ようこそ、《テイマーズバトルオンライン》へ。数多のモンスターとの出会いと冒険の果てに、貴女が求める理想郷があらんことを』


 意味深なメッセージを最後に、私の視界は眩い光で満たされていく。


 よーし、私にとっては初めてのVRゲームだ。がんばるぞー!!




名前:クレハ

レベル:1

体力:10/10

魔力:10/10

筋力:1

防御:1

敏捷:1

知力:1

器用:1

幸運:101

スキル:《テイム》

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