第14話 4
木々や蔦、苔に覆われて、その遺跡の入り口はあった。
こういう遺跡はけっこう多い。
<深階>のような漆壁系遺跡は、なぜかゲンブツそのまま残ってるのが多いンだけど。
魔道帝国の遺跡建築は石なんかを削り出してるから、風化したりしてンだよナ。
「――俺、魔道帝国時代の遺跡って、本では知ってるけど、実物見るの始めてだ」
そう告げるオレアちんは、心なしかワクワクしているようだ。
ホント、ずいぶん表情豊かになったモンだよ。
学生時代のオレアちんは、いつも笑顔だったけどサ。
ムリにそういう表情してたの、あたしら知ってたンだぜぃ?
そういう意味では、セリスちゃんにフラれたのも悪くはなかったのかねぃ。
あたしはしみじみ、そう思っちゃうね。
「ステフ、どのくらい古いモノかわかるか?」
あたしを見下ろして尋ねてくるオレアちんに、あたしは首を振る。
「年代測定は専門の魔道器が必要なンだ。
アレ、設置に<兵騎>が必要なくらい、でけーから持ち歩いてねーンだよ。
まあ、ざっくりと推定するなら、周囲の木々の茂り具合やらから、五千年は経ってるんじゃネ?」
地面に埋もれてるような保存状態の良いものだと、もっと詳しく特定できンだけど、ここのは樹木に覆われちまってるから、特定が難しい。
「ナンなら、大学に命じて調査隊出させれば良いョ。
お宝無くても、遺跡そのものに興味のある連中はいっぱいいっからナ」
実際のトコ、魔道帝国と呼ばれている文明がいつ興って、なぜ滅んだのかはいまだにわかっちゃいねーンだよナ。
中原の大半を支配したルキウス帝国の興りが、およそ千三百年前。
それ以前は小国や部族ごとの戦乱の時代だったと言われていて、その時点でもう、魔道帝国は『かつて大陸を支配した国家があった』という扱いだったっつーンだよ。
滅んだ理由は、遺跡の大半が地面に埋もれている事から、なにかしらの大規模な鬼道によるものではないかって学説が主流ダナ。
ルキウス帝国と同じくらい古い国家――ローデリア神聖帝国やミルドニア皇国、ホツマなんかだと、資料が残ってるのかもしんねーけどサ、あたしは平民だから、コネがねーんだよな。
そんな事を考えながらも、あたしは背負った鞄から調査に必要な魔道器を取り出して、みんなに配っていく。
「……なあ、ステフ。
俺、こないだから不思議だったんだけど、なんでその鞄からこういうのがどんどん出てくるんだ?
どう考えても入らないだろう?」
と、オレアちんは手にした大型照明を見ながら尋ねてくる。
「ナンだよ。今頃かョ。
あたしはいつ聞かれるか、愉しみにしてたンだぜぃ?」
あたしは背負った鞄――銅板で補強した、あたしの背中の半分ほどのサイズのモンだ――を降ろして、口を広げて見せる。
「――空っぽ!?」
「……良く見なョ。
底板と横板に積層立体転移陣を刻印してあンだ。
接続先は大学のあたしの研究室」
そうしてあたしは右手にはめた指輪を見せる。
「ンで、この指輪に刻んだ刻印が鞄の中に入ると、陣が喚起されて接続されるってワケ。
理屈は<爵騎>の喚起と同じようなモンだな」
「……未来の猫型ロボットみてーなヤツ……」
「アン? よくわかんネーけど、バカにしてンダロ?」
あたしがオレアちんを睨みあげると。
「いや、便利だなって言ってんだよ!
それ、完成してんなら特許登録しろよ。
商人なんか、輸送にすごく助かるだろ?」
「しようとしたら、刻印が複雑すぎて再現できるヤツがいねえって断られたンだよ!
バカばっかだよナ!
あたしがコレ思いついたの、七つの時なんだぜぃ?」
ゲンブツこさえたのは十歳の時だったカナ?
ガキのあたしにさえ作れたのに、本職の魔道器屋が作れネエとか、理解できないとか、本当に世の中、バカばっかだ。
「……今の特許出願制度の問題か……他者が再現できなくても、モノがあるなら登録は受け付けるべきだろう。
よし、制度を変えさせるから、ソレ、登録しろよな」
と、オレアちんは手帳を取り出して書きつける。
「――オレアちんのそゆトコ、あたしゃ大好きだぜぃ?」
思考が柔軟って言うのカネ?
普通の貴族や王族なら、制度が間違ってるなんて言わねえもんナ。
そうして準備を整えながら、あたしは遺跡の外観を観察する。
なかば地面に埋もれて傾いでいるが、見える範囲は魔道帝国期の遺跡によく見られる直方体の外観。
その大半が樹木や苔に覆われちまってるナ。
中には表面が硝子で形成されてるような変わりダネな遺跡もあるんダけど、ここは石で造られているよう。
「こんなでっかい石を綺麗にくり抜くって、大昔の人はすごい技術を持ってたんですねぇ」
メノアがポツリと呟き。
「いや、コレ……コンクリだろ?」
オレアちんがなんでもない事のように応えた。
「――アン!? オレアちん、この遺跡がどうやって造られたかわかるのかぃ!?」
どこからコレほどの巨石を切り出してきたのか。
そしてどうやって綺麗に立方体に成形したのかは、各国の大学でも議論になっている問題だ。
あたしが身を乗り出すと、オレアちんはしまったと顔を歪め。
「あー、ちょっと思っただけだ。コンクリートつってな。
手順の説明が難しいから、村に戻ったら説明してやるよ。
実際にそうなのかは俺もわからねえし……」
「――絶対ダゾ! ひょっとしたら学会に一石投じるかもしれねーンだからな!?」
権威なんかにゃ興味はないが、それによって新たな発見に繋がるかもしんネーんダ。
こりゃ、意地でも聞き出さなきゃいけないねぃ。
「わかったわかった。
それより早く中に入ろうぜ。
――リック! 一人で行こうとするな!」
オレアちんの言葉に、リッくんの姿を探すと、アイツ、もう入り口に向かってた。
「……マイペースなのも相変わらずなんだぜぃ」
あたしも鞄を背負い直して、オレアちん、メノアと共に入り口に向かう。
遺跡の中は、思っていたより広い空間が広がっていた。
外に露出してる部分より、埋まってる部分の方が多いンだろな。
ホールのようになっていて、奥の方には上下に繋がる階段が見える。
上に繋がる階段は崩落しちゃってるナ。
「――ここで<古代騎>を見つけたんだ」
と、リッくんが照明器で照らし出したのは、入り口から少し先にある丸くて太いの横。
台座のように地面が四角く盛り上げられたところだった。
オレアちんは周囲を見回して、腕組みしながら鼻を鳴らす。
「工房って感じじゃないな。
――おい、リック。
手に入れた<古代騎>って、おまえん家の<子騎>と比べてどうだ?」
「強さか?
段違いだな。<古代騎>のが力も頑丈さもある」
リッくんのモルダー家は大戦にも参戦してて、最前線を支えた騎士の家系だかンな。
今でも実戦仕様に改装を重ねてて、見栄えを求めたような上位貴族の<爵騎>より強かったりするらしいンだよな。
「……となると、ワンオフの騎体を展示していたって事なのか?
ステフ、おまえ確か、あのサル勇者がいた鉱山で見つかった遺跡を見たって言ってたよな?」
「おうサ。
けど、アソコはここと違って、工房ってカンジだったぜぃ?
朽ちた素体なんかも転がってた。
規模ももっと小さかったねぃ」
あたしの言葉に、再び考え込むような仕草を見せるオレアちん。
なぁに考えてンのか知ンねえけどさ、せっかくあたしがいンだから、もっと頼ればいいンじゃネ?
オレアちんって、昔っからそうだよナ。
ある程度考えがまとまってからじゃねえと、口に出さねンだ。
まあ、いまさら言っても本人の性根の問題ダ。
そうやって今まで、なんとか上手くやって来たのがあたしらの距離感なんだから、いまさらどうこうしようとは思わないけどナ。
オレアちんがなんか思いついて、あたしとリッくんが突撃して、ザクソンが修正しつつ、ソフィアちゃんとヴァルトが纏める。
それがあたしらのスタイルってモンだ。
それで上手く回ってたんだよねぃ。
「――リック、あの階段の先には行ってないんだよな?」
「おう。なーんかヤな予感がしてな。
欲をかいてひどい目に遭いたくねえから、引き上げる事にしたんだ」
頭を掻きながら苦笑するリッくんに、オレアちんはうなずく。
あたしもオレアちんも、リッくんの勘の良さはよく知ってっからナ。
「――メノア。ここからは気を抜くな。
地下に行ってみるぞ」
オレアちんはメノアにそう促して、剣を抜く。
リッくんも背負っていた大剣を抜き放ち、オレアちんの横に並んだ。
「ホレ、アンタはいつでも
「は、はい~!」
あたしはメノアのケツを叩いて活を入れると、自作の魔道器をいつでも喚起できるように準備しつつ、ふたりの後を追った。
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