第16話 あまねと司
2限目と3限目の間の十分間の休憩時間。三階堂あまねは鋭い目つきでクラスメイトたちを睥睨していた。男子たちはヘラヘラし、女子たちはお互い気を遣い、馴れ合っているのがあまねの機嫌を悪くさせていた。
あまねは眉間にしわを寄せ、指を鳴らしていたら、声をかけられた。
「今日も犬の散歩するのかい?」
あまねは肩を上げ、びっくりした。なぜならあまねに話しかけようとする者は今までいなかったから。話しかけてきたのは昨日公園で会った、バットを素振りしていた少年だった。彼の名札を見ると中野司と書いていた。
「犬の散歩は毎日の日課や」
あまねは無愛想に答えた。でも心の中は話しかけられてうれしかった。しかしそれを表情や言葉で表現するのは憚られた。
「あの犬、なんて名前?」
少年は顔を近づけて聞いてきた。
「パトリーや」
あまねは目を合わせずに言った。
「可愛い名前だね」
「…」
あまねは黙った。いつも卑屈な言葉遣いをするあまねも、この少年の前では素直に返答している。あまねがそのことが恥ずかしく、下を向いた。
「あっち行け、ほら、しっしっ」
あまねは手を払うジェスチャーを少年にした。
少年は無表情にあまねの席を離れた。
あまねは小声でつぶやいた。
「なんやあいつ、私に気ぃあるんか」
あまねは今まで男子から話しかけられるということがなかったが、偶然にも昨日公園であった少年と今話した。短い会話だったが、あまねの心は温かくなった。
あまねはうつむいたまま少し笑った。
あまねはふと視線を感じた。
クラス後ろの席の山本美咲がこちらを物憂げな目で見つめていた。
なんや美咲、こっち見るなやと言ってやりたかったが、あまねの心地よい気分がそう言わせなかった。あまねはあの中野司という少年に話しかけてもらってうれしいのだ。
あまねは美咲に向かって、あっかんべーをした。
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