幼馴染と生娘独楽回しをした話
月之影心
幼馴染と生娘独楽回しをした話
「ねぇねぇ。」
「ん?」
「やってみたい事があるの。」
「やってみたい事?」
寝転がって漫画を読んでいた俺、
「うん。これこれ。」
茉優は俺に雑誌を開いて見せて来た。
そこには、絵の事はよく分からないけど浮世絵っぽい画風で、男(悪者?)が女の着物の帯を持って引っ張り、女が回っているような感じのイラストが載っていた。
「何だこれ?」
「ほら、時代劇なんかであるじゃん。悪代官とか金の為なら何でもやるような悪い商人のおっさんが借金の方に連れて来た生娘の着てる着物の帯を引っ張って脱がそうとして『あぁぁれぇぇぇぇぇ!』ってなるやつ。」
「どんな時代劇だそれ。てかなんちゅう雑誌読んでんだ。」
「ねぇねぇ、やってみようよぉ。」
「何でじゃ。」
すっと立ち上がった茉優は黙って部屋を出て行った。
かと思ったら数分後に戻って来た。
着物……じゃなくて浴衣に着替えて。
何故か隣の
しかも恐らくではあるが、さっきまで着ていたトレーナーもスカートも脱いで浴衣の下は最低下着姿だろう。
「これなら出来るでしょ?」
出来る出来ないよりも今はまだ冬だぞ。
冬の浴衣姿がこんなに違和感があるとは思わなかった。
「寒くないの?」
「寒い。」
「バカだろ。」
「寒いから早くやろうよっ。」
言い出したら茉優は引かない。
俺は溜息を吐きながら立ち上がり、茉優に渡された帯の裾を持った。
「引っ張るよ。」
「うん!」
俺は手に持った帯をゆっくり引っ張る。
引っ張る早さに合わせて茉優が『トテテテ』という感じで俺の方に寄って来る。
「……」
「……」
「寄って来てどうすんの。」
「だって転ばないようにと思ったら引っ張られる方に足を運ぶでしょ。」
「それはそうだけど……じゃあもう少し早く引いてみる。」
「うん!」
茉優が元の位置に戻ったのを確認すると、少し反動をつけて強めに引っ張ってみる。
「ぐぇっ!」
茉優がカエルを潰したような声を上げる。
「何て声出してんだ。」
「ごほっ……少しって言ったから気を抜いてたわ。と言うか思った以上に苦しいのね。」
茉優は帯を直しつつ『ふぅむ』と思案の表情をしていたが、両手をぽんっと鳴らして笑顔で俺の方を見てきた。
「これはシチュエーションを共有出来てないから失敗するのよ。」
「シチュエーション?」
「そう。抑々『あぁぁれぇぇぇぇぇ!』ってどういう状況かしら?」
「ん~……悪代官が生娘を襲おうとしている?」
「それよ。陽太も私もただ『帯を引く/引かれる』だけしか考えてなくてその前後の状況を思い描けていないの。」
何だか舞台演出の講義みたいになってきた。
「私は借金のカタに悪代官の屋敷に連れて来られた生娘で、陽太はその生娘を襲って自分のものにしようとしてる悪代官。」
「茉優んちそんな貧乏じゃないだろ。俺だってただの高校生だぞ。」
「だからシチュエーションだって言ってるでしょ。そういう状況を頭に浮かべながらすれば出来るんじゃないかな?」
「分かった。もう一度やってみよう。」
再びお互い元の位置に着き、俺は帯の裾を持って構える。
「引くぞ。」
「違うでしょぉ。」
「何が?」
「今から生娘を襲おうとしてる悪代官なんだからもっと適切な台詞があるでしょ?『引くぞ』って何よ。」
「何て言えばいいんだ?」
「そうね……時代劇なんかだと『よいではないかよいではないか』とか?」
「良く知ってんな。」
「いいからやり直し。本気でやってよね。」
いくら茉優の酔狂とは言え、何でこんな状況になってしまったのか。
しかし拒否ったところで茉優は引かないだろう。
昔からそうだ。
俺は改めて溜息を吐いて覚悟を決めた。
「オマエはオヤジの借金のカタに儂の元へ来たのじゃ。諦めて儂のモノになれぃ!」
雰囲気を出してそう言いながら帯を引くと、茉優は最初のように『トテテテ』と俺の方に寄って来た。
「……」
「お前アホだろ。」
「いや、陽太の迫力に気圧されて……」
「本気でやれって言ったじゃん。」
「言ったけど……にしても陽太、演技上手よね。さすが演劇発表会の主役だっただけあるわ。」
「幼稚園の頃の話だろそれ。いいからさっさとやって終わろうぜ。」
「うん、ごめん。今度は私も本気出すから。」
三度、元の位置に着いた俺と茉優はお互いの目を見つつ、ほぼ同時に小さく頷いた。
「ええぃ観念致せ。よいではないか減るモノでもあるまいし。」
「あぁぁれぇぇぇぇぇ!」
俺が帯を引くと同時に茉優がくるくると体を回す。
茉優の締めた浴衣の帯が、俺が引くのと茉優が回るのとで徐々に解けていく。
そして完全に解けた帯がぱさっと床に落ちる。
茉優の体が回った反動を支えきれずにふらつき、俺の方によろけて来る。
「おっと。」
倒れそうになった茉優の体を受けて抱き止めると、少し驚いたような表情の茉優が俺の顔を見上げていた。
「大丈夫か?」
「う、うん……ありがとう。」
と、俺の目に飛び込んで来たのは、少し頬を紅潮させた茉優の顔と、その下に覗く深い谷間。
小さい頃は一緒に風呂に入ったりしていたから茉優の肌なんか見慣れていたとは思ったが、さすがに最近は見ていなかったのもあってこれはなかなか……。
それにしても想像以上に立派に育ちやがって。
なんて事を考えつつも凝視するのも良く無いだろうと目を逸らしたが、その視線に気付いたのか茉優が俺の視線を辿るように目線を下げた次の瞬間だった。
「きゃぁぁぁぁっ!陽太のえっちぃ!」
パシッ!
体を引き剥がすと同時に左頬に茉優の平手がヒット。
理不尽過ぎるだろ。
「見たでしょ!?」
「そりゃ……まぁ……それだけ前がはだければ……」
「う”う”う”う”う”……」
「大体、何でそこまで脱ぐ必要があったんだ?普通に着てた服の上に浴衣羽織って帯しとくだけで良かったのに。」
「見られて気が付いたんだよぉっ!私のばかぁ!陽太のばかぁ!も、もぅ……おヨメに行けない……」
茉優は顔を真っ赤にしてはだけた浴衣を胸の前でぎゅっと閉めたまま俺を睨み付けている。
「え?茉優って俺の嫁さんになるんじゃないの?」
茉優の動きが止まる。
「は?な、何それ?」
「だって昔、茉優がよく言ってたよ。『よーたのおよめさんになる!』って。」
「そそそそれは小さい頃の話でしょぉ!?幼稚園にも行ってなかった頃の話じゃない!」
「えぇ?じゃああれは嘘だったんだ。」
「う、嘘ってわけじゃ……てか何で覚えてるかな……」
俺は茉優の顔を覗き込んだ。
茉優は俺の顔を涙目で見ながら少し肩を竦めて身構えている。
「そりゃ覚えてるよ。何度も言ってくれて嬉しかったんだから。」
「あぅ……その……」
「あれが嘘だったんならそう言ってくれ。俺も諦める。」
「え……」
茉優真っ赤な顔のまま大きな目を見開いて俺の顔をじっと見ていた。
「あ、諦める……って……え?陽太って……私のこと……?」
「好きに決まってるじゃないか。でなけりゃ四六時中一緒に居やしないよ。それに……」
「そ、それに……?」
「茉優だって俺の事好きじゃん?」
「な”っ!?何で知ってんのよっ!……って、はっ!」
「気付かないわけないだろ。」
俺は茉優が俺の事を好きだと判断した理由をつらつらと語った。
毎朝起こしに来た時に俺に気付かれていないと思って頬にキスしている事、毎日作ってくれる弁当には必ず俺の好物を混ぜた栄養バランス完璧な弁当である事、休みの日は特に用事が無ければ朝から晩までいつも一緒に過ごしている事、バレンタインのチョコは他の連中に渡した義理チョコとは明らかに違っていた事、クリスマスとお互いの誕生日と年末年始は必ず一緒に過ごせるように予定を調整していた事……。
「ご、ごめんなさい……私が悪かったわ……確かに言われてみれば嫌いじゃ出来ないレベルの話ばかりだし……これで気付かない程陽太はラノベ主人公属性持ちじゃなかったわね……と言うか私の方が属性持ちみたいじゃない……」
顔を赤くしたり青くしたりしながら、茉優はがっくりと肩を落として降参した。
「で?返事は?」
「子供の頃に言ったのは嘘じゃない……私も前から陽太の事……す、好きだったから……っ……ひゃぅっ!?」
俺は茉優の体を引き寄せてぎゅっと抱き締めた。
「よ、陽太……?」
俺の腕の中に閉じ込められた茉優。
だがもう逃げようとしている風では無い。
「良かった……これで茉優は俺のモンだ……」
「陽太……」
「このおっぱいは誰にも渡さん!」
「は?」
部屋に茉優が俺の頬を平手打ちした音が響いた。
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