秘密

バーネットが用意してくれた部屋は落ち着きがあり何より暖かい。

エアノアはこのことがまずありがたかった。


「あの…できれば一人で行いたいのだけど…」わずかにエアノアの頬が赤くなる。


「どうして?」バーネットが真っ直ぐ見つめる視線が少し冷たい。


「…その」エアノアの口が重い。


「わかったわ。それも約束ですもの、無理強いはしない、要望は優先するわ。ごめんなさい。」ニコリと笑う。


「こちらこそ、ごめんないさい。」


「何を謝ることがあるの、事前に決めた約束ですものしっかりと守らないといけません。」毅然としたバーネットの態度にエアノアは少し安心した。




送られてきた封筒を手に取る。


繊維の長い上質な紙に黒いインクで宛名が記されている。字にも落ち着きがあり送り主の総長への敬意が感じ取れる。


次に紙片を手に取る。

やはり変だ、とエアノアは思った。初めて見た時も感じたが切れ端の紙に書かれている。封筒の精緻な印象を与える書き方と中身があまりにもアンバランスに感じた。


「届いたのはこれだけなのですか?」


「ええ中身はこれだけ他には何もなかった。あなたもおかしいと思うわよね。」バーネットが同じ違和感を感じたようだった。


「どんなことが、考えられかしら?」バーネットが訪ねる。その紫の瞳が好奇心に輝いている。どうやら滅多にない状況を楽しんでいるようであった。それとも自身の知的好奇心を満たせるような状況が面白いのであろうか。

エアノアは思わず固唾は飲み込む。


「そうですね。今のところは二つあるでしょうか?」

一つは、この紙片と封筒の状態事態に何らかメッセージが隠されている。便箋をあえて切れ端にすること事態に作者の意図がある。仮にそうであっても今の段階でそれはわからないですと注釈した。


もう一つは、封筒を書くときと中身を用意するときでは状況が全く異なっている。つまり、封筒に宛名を書くときはゆとりがあったが、いざ中身を書く段階になったら余裕は無くなっていた。急いで出す必要があった。もしくは、中身を慌てて差し替える必要ができた。この場合、事態は緊迫した状況にあるかもしれませんが…


「そうね。やはり貴女にお願いして正解だったわ。」バーネットがうっすら笑みを浮かべる。どうやら自身の納得いく答えであったようだ。エアノアは少し怖さを感じた。


「ハハ……」エアノアは少し乾いた笑いをして口を噤む。

「やはり一緒にとは行かないようね。」

「すいません…」

「約束は約束ですもの、何かあったら呼んでください。隣のお部屋にいますから。」そう言うとバーネットは出ていった。


後ろ髪を引かれるようにとはこのことだろうかと思うほど、二回もことらに振り向き見つめてくる様であった。

エアノアは目を見つめることはできなかった。



エアノア以外は誰もいなくなった部屋で決心を固める。

この探査魔術は、強い集中状態に入るため、服を脱がなくてはならないのであった。


手には触覚があるが、その触覚を全身で感じるようにして対象物に集中するとイメージが湧き上がってくる。しかし、衣服を着用しているとどうしても感覚が鈍ってしまう。なので一糸纏わぬ姿になる必要があった。


エアノアは躊躇しながらも服を脱ぎ横に畳置いた。暖炉のおかげで寒さはほとんど感じない。

いつもは自宅で行うだけなので、慣れない場所で全裸になるのは緊張する。

エアノアの白い肌は暖炉の炎を映しわずかに赤く揺らめいている。そのゆらめきはエアノアの心情を映しているように頼りない。


白い肌に明るい茶髪が映えている。体は幾分丸みを帯びているが、少女の名残も感じさせる。鍛えてこそはいなが、均整の取れた体つきは自然な美しさであった。


エアノアはゆっくりと意識を集中させる。


攻性魔法は自身の想像力を五感に乗せて、対象に叩きつけるようなイメージである。ある程度の感性があればそれほど難しいことはない。

ただ、これからやろうとする探索魔術は全く逆で自身の感性を極限まで無くして目の前の対象に集中する。

そうすると対象に残る残留思念のようなものが感じられるようになる。

うまくいけば、対象が残した感情や思いが映像になって見えることしらある。



集中し、さらに気持ちを鎮めて、感覚を研ぎ澄ます。

そうすると自分に感性が薄皮のように感じられてくる。そうなればその感覚の皮を一枚一枚脱いで行くように集中を高めると、対象の思念が自身の感覚に繋がる瞬間が訪れる。


今回は、場所が異なるので不安であったが、その瞬間は思いのほか早く訪れた。

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