魔術

随分と奇妙なことに巻き込まれた。と学園から帰宅しながら、エアノアはその日のことを思い出す。


まさか自分が首飾りの伝説に関わることになるとはと噂話をどこか、ひきめで見ていた自身の態度を思い出す。


ひとまず依頼は受けたが、あまり期待はされていないようである。


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「わかりました。ご依頼はお受け致します。私個人としての活動ということでよろしいしょうか?」


「もちろんその方がこちらにも好都合ですので」


エアノアはいくつか条件を説明した。


探偵部や学園の活動が優先して、休日やクラブの無い日捜索を行うこと、バーネットとのやりとりは結社を通さずに通常の生徒のやり方で行うこと、エアノアの要望が優先され、無理強いはしない。以上であった。ただ探偵倶楽部に協力をお願いすることはバーネットが難色を示した。


「この紙片を持って帰ってもよろしいのですか?その魔術にはかなり精神を研ぎ澄ます必要があるので」


「できればこれは手元に置いておきたいのだけど、ここでは無理かしら」


捜索魔術は限界まで自身の精神を研ぎ澄まし深く集中して対象にアプローチする必要がある。なるべく邪魔はされたくはなかった。


「ちょっとここでは、静かな部屋を借りればできないこともないですが」


「わかったは次の休日にお部屋を用意しておきます。それでよろしいかしら?」

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エアノアは先ほどまでの、バーネットとの会話を思い出した。

探偵倶楽部に対して警戒しているようで、違和感のようなものを覚えた。



家族には内緒にする必要があるだろうか?バーネットはに聞きはしなかったがしばらくは黙っていた方が良さそうだ。


母は私に負けづおとらす口が軽い。母とエアノアは親子というより女友達のような部分が強かった。


エアノアの家は学園から徒歩圏内にある。裕福では無いものの不自由ではなく一人娘として大切に育てられてきた。母は家庭料理の講師として仕事をしてはいるがそれほど忙しいこともない。父は海外勤務が長く会えないが手紙を頻繁に送りあうなど家庭思いの優しい父でありエアノアは父が好きであった。



次の休日までは、何ら普段と変わらない学園生活であった。

しかし、エアノアは見るもの聞くことが新鮮で刺激的であった。

首飾りの伝説·····はエアノアにとっても心高鳴るもので、日常の光景まで変えてしまった。彼女も自覚していた。


休日の夕暮れにバーネットと約束した時間に再度結社本館を訪れる。

学園に向かうエアノア、夕暮れといってもこの時期は薄暗く自身の前を進む影は随分長くなっている。帰る頃にはもういなくなっているだろうと思う。

学園に着く手前で声をかけられる。


「こっちよ。エアノア」の声にエアノアはこれから行う魔術のために集中力を高めるため、ぼーっとしていたのか体が硬直した。


声の方向に振り返るとバーネットの姿があった。

「ごめんなさい。驚かせた?」はにかむような笑顔があり、先日結社内で見たような硬い態度は感じられなかった。


エアノアは何か声を出そうと思ったが、バーネットの快活な態度に押されてしまった。

結社内では月とすると今はさしずめ太陽のようであった。

なるほど小麦色の肌にはこっちの方がよく似合う。と一人納得した。


「約束でしょ?結社は通さないって。今日は別の場所を用意したの、もちろん結社とは関係はない。」バーネットは手招きしてエアノアを呼ぶ。


そこは学園校舎から少し離れた寮舎に向かう入り口であった。

遠方から来ている学生の寮であるが、かなり高額な費用がかかるため平均的な家庭のものはほとんど住んでいない。


立派な門構えの正門がある。警備の職員も在中しておりセキュリティも備わっている。

鉄製の古めかしい門は来るものを拒むような威圧感さえある。

エアノアは自身には縁のないことばかりここ数日見に降りかかると嘆息した。


門から寮の入り口はでは手入れされた庭に小径があり静かな雰囲気がある。

今は冬なので、緑はほとんど葉を落としており寂しさは感じるものの、決して物足りないことはなく、それはそれで趣を感じれた。

よほど腕のあるものが設計した庭園だと思われた。


これまた威圧感のある玄関の扉を開けるとエントランスは当たり前のように総大理石であった。

「へぇー」エアノアは気の抜けたような嘆息を漏らす。

そして、12月だというのになぜか暖かい。このひろい空間をどうやって暖めているのか?疑問に思うが、どうやら暖炉もない。


「ここからはもう上着はいらないわ。温水が床に流れているの。」バーネットが説明する。

「へぇー」またも嘆息する。床に温水?聞いたこともない。

「あなたため息ばかりね。ふふ」

「こんな素晴らしい所とは知りませんでした。縁がない所でしたから」エアノアは驚きを正直に表現する。


「さああまり時間もありませんし始めましょう。こちらです。」バーネットが奥の一室へ通す。案内された部屋は談話室用のようであったが非常に厚手のカーテンが弾かれており、暖炉の光と薄暗い照明だけが室内を照らしておりどこか妖しい雰囲気があった。


床材はヘンリボーンで落ち着きがあり革張りのソファーがゆとりを持って置かれていた。

「さあ始めましょうか。あまり遅くなるといけないから…」バーネットがソファーに座るように促す。

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