第348話
デ◯ライナー式の『進む直前にレールと枕木が敷かれる』ギミックを無駄に披露しながら『無限列車九百九十九号』は、一路北へと空を駆ける。
眼下では、進行方向左側には深く蒼いリュート海、右側には奇岩の林立する海岸線が流れていく。なかなかの絶景だ。
王国南部ではそろそろ冬の訪れを告げる曇天が広がる時期なんだけど、このあたりは気候が違うからか、爽やかな秋晴れが広がっている。海岸線の向こうに見える山々では紅葉も進んでいて、落葉樹の朱や黄色、ところどころに常緑樹の緑が山肌に斑模様を描いている。
これがただの観光ならゆっくりと風景を楽しめるんだけど、残念ながらお仕事なんだよな。しかも、かなり急ぎの過酷でキツいブラックな……いや、
「ほう、結構ゴチャゴチャしてるんだな。なんか意味あんのかコレ?」
「お客様、ここは運転席です。座席にお戻りください」
「
先頭の機関車の運転席で操作していたら、二両目の豪華客車から王様がやってきた。じっとしていられないとか、お子様かよ。
まぁ、操作と言っても移動させているだけの楽なものなんだけど。車輪や線路のギミックは移動に連動して自動で作動させてるし。
自動車とか自転車とか、こういう連動ギミックを制作する機会は前世でも結構多かったから、作るのも慣れたものだ。
「まぁ、意味は無いよ。なんとなく作ってあるだけ」
「ふーん」
実際、かなり本物っぽく作ってあるけど、全部ダミーだ。圧力計や水位計の針がゆらゆら動いているのは、設定したウィグル関数で勝手に揺れているだけ。実際の数値じゃない。
釜の中で赤く燃えているのはパーティクルで再現した偽物の炎だし、煙突から出ている煙も同じくパーティクルだ。時間経過で消えてなくなる。雰囲気作りのための飾りだな。
「それにしちゃ細けぇな。これもお前ぇの前世に関係あるもんなのか?」
「まぁね……って、えっ!?」
今、王様はなんて言った!? 前世!? 俺、言ったっけ!?
やばい、気を抜いて不用意な返事をしてしまった! なんとか誤魔化さないと!
「いや、前世って? 何の話?」
「誤魔化すこたぁねぇ。もうバレてっから。っつうか、お前ぇ、こんなもん作っておいて誤魔化せるわきゃねぇだろう」
「あー」
それはそうだな。輸送機とか巨大旅客船とか拠点の自転車とか、この世界に無いものを作りまくってるからな。気づく人は気づいて当然か。
でも作りたかったんだからしょうがない。それはクリエイターの本能だからな。作らなきゃ死んじゃう。メイク・オア・ダイだ。
「いつからバレてた?」
「もしかしたらと思ったのは、ジャーキンを襲った謎の巨大リビングアーマーの件だな」
めっちゃ昔じゃん! 冒険者になって一年目じゃん!
マジか、そんな頃から目を付けられてたのか。
「転生者は、なんつったか……そう、『巨大ろぼっと』ってやつを作りたがるんだよ。だから、もしかしたらと思ってな。色々調べさせてもらったぜ?」
「あー」
なるほどなぁ。ロマンを追い求めるのは俺だけじゃなかったか。ヲタの魂は転生しても失われないものなんだな。って、
「僕以外にも転生者がいたの?」
「おう。っつうか、直近じゃジャーキンの元皇太子が転生者だったじゃねぇか。お前ぇも気づいてたんじゃねぇのか?」
ああ、そういえばそうだったな。一連のクーデター騒動の元凶のジャーキンの元皇太子。前世じゃいじめられっこのミリタリーマニアだったらしいあいつ。
「まぁね。でも、あいつは巨大ロボットは作ってなかったでしょ?」
「いや、押収した開発資料の中に、最終目標って感じで書かれてたぞ? まだ設計図もなかったみてぇだけどよ」
マジか。あいつもロマンを追い求めるヲタのひとりだったのか。ただの自己中ミリオタかと思ってた。
「昔から、たまに出てくるんだよ、転生者ってやつはな。で、大抵が世の中に大混乱を起こして粛清されてんだ。あの元皇太子なんて、その典型だな」
むぅ、粛清か。
あれか? 急激な変革のせいで割りを食った既得権益者が、逆恨みして報復したって感じか?
この世界は基本的に封建社会だから、既得権を持ってるのは大抵が王侯貴族だ。その恨みを買えば、粛清やむなしってわけか。
「じゃあ、僕も粛清するの?」
「いや、お前ぇは上手くやってっからな。今のところ、その予定はねぇ」
「ふぅん……」
今のところ、ねぇ。やりすぎたら首切るぞってわけだ。物理的に。
まぁ、簡単に切られてやるつもりはないけどな。その時になったら、世界を敵に回してでも戦うつもりだし。
ぶっちゃけ、普通の軍隊相手なら、相手が何万人いても負ける気がしないしな。俺の【平面魔法】のデタラメさの敵じゃない。
さすがに神様相手となるとヤバいだろうけど。属神ならなんとかなりそうだけど、主神レベルを相手にするのは無理だと思う。あの連中はヤバさの桁が違う。
「で、僕をどうするつもり? 監禁して知識を吸い取る?」
「いや、どうやってお前ぇを監禁するんでぇ? オレぁ現実主義なんだ。できねぇことはやらねぇよ。お前ぇはこれまで通りでいい。技術を開発しても独占はしねぇし、変な思想もねぇみてぇだしな」
ふむ。今まで開発した製品の技術や製法なんかは、ほとんどを商業ギルド限定だけど公開してるからな。その使用料として入ってくる不労収入が美味しいんだコレが。
俺としては自分で作るのが面倒だから委託したって感じなんだけど、それが王様的には好感触だったらしい。国としては、個人が技術を独占するより商業規模が大きくなって税収が上がってウハウハっていうのが良かったんだろう。
変な思想っていうのは何だ? 奴隷解放とか民主主義とかか?
この世界は封建社会だからな。身分制度を否定するのは完全にアウトだ。百年かけて意識改革するつもりじゃないと無理。
「まぁ、ぶっちゃけ、強すぎて手が出せねぇってぇのが正直なところだがよ。神様との繋がりもあるみてぇだしな」
「まぁね。賢明な判断だと思うよ」
一国の王様が個人に対して『手が出せない』って言うのは沽券に関わると思うけど、今聞いてるのは俺と王様、それと俺の足元で丸くなってるウーちゃんだけだ。弱音を吐いても、それが外部に漏れる心配はない。
「オレぁ、自分で言うのもなんだが実利主義だからよ。無駄なことはしたくねぇんだ。だから、貴族関連で何か気に食わねぇことがあったら、暴れるより先にオレに知らせろ。できる限り擦り合わせてやっから」
「……うん、我慢できたらね」
「いや、そこは我慢しろよ!」
王様としては最大限の譲歩なんだろうけど、確約はできないなぁ。周囲の人が理不尽な目に遭ってたら、損得無視で報復すると思うし。
例えば、もしウーちゃんが他の貴族に銃で撃たれたりしたら……うん、即、微塵切りだな。一族郎党まとめてスライムの餌だ。余裕で想像できた。
ちょっと漏れた俺の殺気に、一瞬王様が身を固くする。ウーちゃんはちょっと耳を立てただけで、変わらず丸くなっている。俺がウーちゃんを傷付けることはないって理解しているからな。絆だ。
「はぁ。わかった、できる範囲でいいからよ。我慢する努力はしろぃ」
「うん、わかった。努力ね、努力」
王様が盛大にため息を吐いた。苦労してるね。俺が言っちゃ駄目なんだろうけど。
なんか、またひとつ秘密がバレてしまったけど、そもそもかなり以前からバレてたみたいだし、そういう意味では今までと変わらないってことだよな?
だったら、気にするだけ無意味だよな。これまで通り、好きにやらせてもらおう。
なんて話をしていたら、前方にリュート海北岸が見えてきた。その向こうに見える山脈の谷間が目的地のツリーバッツ峠だ。目的地は近い。
景気づけに、王様のため息に負けない大きさで汽笛を鳴らすとしますか。
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