第346話
「ちょっと、どういうことか説明してもらえる? なんで僕が魔王なの?」
会議は終了したけど、一部の人はそのまま場所を『青薔薇の間』に移して続行だ。
顔ぶれは俺、王様、レオンさんのいつものメンバーに加えて、王太子殿下も参加している。
多分、今後も殿下が参加する機会は増えるだろう。徐々に仕事を引き継いでおかないと、いざって時に困るからな。
まぁ、今がその『いざ』って時にあたるのかもしれないけど。戦争だからなぁ。
開口一番で俺が王様に問い詰めると、殿下がちょっと面食らったような顔になった。俺、人前では子供らしからぬ礼儀正しい貴族を演じているからな。ギャップに驚いたんだろう。
まぁ、別に魔王が嫌ってわけじゃない。自発的にそういうロールプレイをするのはありだと思うんだけど、他人から押し付けられるのは納得できないってだけだ。
「レオン」
「はい。えー、ノランからの布告状を抜粋要約したところ『奇怪な魔法を操り』『数々の魔獣を従え』『歴史と共に築かれた社会秩序を破壊し』『傍若無人の限りを尽くしている』との理由で『”協会”が正式に魔王と認定した』ということのようです」
「概ね間違っちゃいねぇな」
王様がケラケラと笑う。
むう。そうやってピンポイントに拾い上げられると、確かに魔王っぽいかも?
俺の【平面魔法】は一般的な属性魔法とは全く別物だし、ウーちゃんやピーちゃんたちは可愛くて従順だし、王国の貴族派をほぼ一掃したし、領地開拓では好き勝手やらせて貰っている。
うーん、曲解すれば魔王ムーブと言えるか? 無理矢理、ギリギリ、言えなくもない?
「気にすんな。(戦争を)仕掛ける口実に使われただけだ。お前ぇの領地もいい場所にあるからな」
「領地?」
「フェイス伯の領地は王国の最南端ですから」
ああ、ノランは王国の北にあるからな。魔王を討伐するためには北から南まで、王国全土を支配下に置かなければならないって大義名分が使えるのか。なるほど。
「お前ぇがいなかったとしても、ドルトン伯かダンが代わりの魔王に仕立てられてただけだろうよ。考えるだけ無駄だ」
「むー、まぁ、それは理解した。納得はしないけど。それはそれとして、”協会”って何?」
教会じゃないんだよな。
この世界、不思議なことに宗教ってものがない。神様が実在しているのに。
神殿は存在していて、そこには実際に神様が祀られていたり、その権能の一部を貸与された神官が居たりする。民衆はそこにお布施をしたりお参りをしたり、信仰が高じて出家したりするから、信者は存在している。
けど、各神殿毎の教義や戒律というものはない。せいぜい商取引や奴隷制度は公正であれというくらいだ。
それにしたって、ある程度は各国の法律が優先されている。税額とかな。
神様はそれほど厳格じゃない。例外は禁忌くらいなものだ。
そんなわけでこの世界に宗教は無くて、教会なんてものもない、はず。
いや、ある意味『全世界が同じ宗教を信仰している』とも言えるのか。だから布教するための組織である教会は存在していないということだな。
だから協会とやらも宗教関連じゃないとは思うんだけど。
「正式名称は『世界平和統一協会』であったかと思います。活動目的は『世界をひとつにまとめ、恒久の平和を世界に齎すこと』だそうです。主な活動は魔王の指定と勇者の認定です」
ほう。ファンタジーでよく見かけるタイプの宗教団体っぽいな。腐敗の温床の巨大組織ってパターンが多い、アレ。
「ふーん。大きな組織なの?」
「ノランにしかねぇよ。ノランの貴族じゃねぇと入会できねぇからな」
なんだそりゃ。腐ってるどころか、最初から成り立ってないじゃん。
「だから気にする必要はねぇ。前回の侵略のときも、当代の国王が魔王認定されてたらしいしよ。連中の常套手段ってわけだ」
ふーん。体の良い口実作りのための組織ってことね。侵略の先鋒じゃん。
まぁ、国内を纏める手段としては有効かもな。徴兵も徴収も『世界平和のため』っていう大義で押し通せちゃうから。実際は単なる侵略だとしても。
「そっか。まぁ、別に魔王が嫌とかいうわけじゃないから、それはそれでいいや」
「嫌じゃねぇのかよ! まぁ、お前ぇはそれでいいとしても、オレは許さねぇけどな」
「ああ、操り人形扱いだもんねぇ。プププ」
「うっせぇ、笑うな!」
実際、王国じゃ一番偉い王様なのに、魔王の配下扱いだもんな。そりゃプライドが傷つくよな。
「コケにされた恨みは晴らさなきゃならねぇ。ノランは潰す」
王様がテーブルに組んだ両腕を置き、前のめりの姿勢で眉間にシワを寄せて宣言する。全身から怒りを纏った殺気が漏れ出ている。久しぶりに王様、いや剣聖らしいところを見た気がする。
「で、僕は輸送だけでいいの? なんなら殲滅してくるけど?」
殺気を軽く受け流して、今後の予定について詰めていく。
全体会議の場じゃ、俺って地方貴族のひとりに過ぎないからな。魔王認定されて騒動の中心になってたこともあって、意見を出すのが憚られて発言できなかった。
「いや、今回は補助に徹してくれ。お前ぇばっか活躍すると、騎士団の存在意義を問われちまう」
「そっか、了解。でも、負けそうになったら手を出すよ?」
「ああ、それでいい」
ぶっちゃけ、一万くらいの兵なら余裕で
でも、それをやってしまうと、ますます俺は『魔王』、王様は『傀儡』ってことになってしまう。
だから今回は俺じゃなくて、王国の力で撃退しなければならない。
そのせいで人的経済的被害は大きくなるだろうけど、国という組織を維持するためには必要な犠牲というわけだ。王様も辛い判断だよなぁ。
でも、俺はなるべく被害を出したくない。
戦国時代の武将で『勝利は五分をもって最上とす』なんて寝ぼけたことを言った奴がいたらしいけど、勝ちは完勝が最上に決まってる。味方の被害はゼロのほうがいい。
王様から補助はしていいって言質は取った。それって、直接手を出さなければいいってことだよね?
ならば存分に補助させてもらおうじゃないか。手段は問わないよ? 魔王だから。
「父上」
おっと、そういえば居たね、王太子殿下。前の会議も含めて、今日初めての発言かもしれない。真面目でいい人なんだけど、影が薄いんだよねぇ。
「なんだディクソン?」
「フェイス伯が魔王指定されたということは、勇者認定された者もいるということでしょうか?」
ふむ。まぁ、それはそういうことだろうな。普通に考えれば、討伐軍を率いているのが勇者だろう。
「レオン?」
「えー、情報部によりますと、今代の勇者に指定されたのはクランド=ゾロト。三宗家ゾロト家の現当主ですね」
ふーん。
ん? なんか聞いたことあるな? 誰だっけ?
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