第080話
かつて昭和のアイドルグループは『都会で大事な何かを失くしちまった』と歌っていたけど、俺はお風呂で大事な何かを失くすところだった。
際どいところだったけど、なんとかギリギリのところで最後の一線は守りきれた。いくらこの国にはそういう法律が無いと言っても、流石に年齢一桁でそういうのは不味いと思うのですよ。命の軽いこの世界だからこそ、子供は保護されるべきだとオジサンは思うわけですよ。
ヘタレじゃないです。ええ。
けど、その日以降、何故かお風呂は皆で入るという暗黙の了解ができてしまった。『男女は別に入るべきだよ!』と主張したのに、『奴隷はご主人様に奉仕する義務がありますわ。お背中を流すのは当然奴隷の仕事。そしてこの屋敷で奴隷でないのはビート様ただおひとり。ならば皆でビート様にご奉仕するのは当然ですわ!』と押し切られてしまった。
言ってることは分からないでもないけど、『なぜお風呂だけ全員で?』と思わないでもない。他の家事は分担してるのに。
しかし、俺以外の総意だと言われると反対しづらい。多数決は数の暴力だと思うのですよ。暴力反対。
ちなみに、ルカとアーニャは普通、クリステラはちょびっと、デイジーとキッカ、それと意外にもサマンサはツルツルだった。何についての話なのかは敢えて伏せておく。
このSSは門外不出の最重要機密指定だ。大きくなったら楽しませてもらう。どうもありがとうございます。
◇
そして異世界転生の定番ではあるけど、俺も石鹸とシャンプーを作った。
なんで皆石鹸を作るんだろうと思っていたのだけれど、実際に石鹸が無い生活をするとその有難味が分かる。サッパリ感が全く違うのだ。
現代社会の清潔感を知っている身としては、この世界の汚れ具合には苦痛を感じてしまう事も多い。やっぱ必要だわ、これ。
なにより、お風呂上りにほんのり香る石鹸の香りは捨てがたいからな。特にうなじ。ただし美女美少女に限る。
素材集めから始めるのはなかなか面倒だったし、できた物が思ってたのと少々違ったりもしたけど、平面魔法を駆使した甲斐もあって、何とか実用レベルの物ができたと思っている。実際、自分で使ってみた限りでは問題ない。皆の反応も上々だ。
これで充実したお風呂ライフが送れる。日本人で良かった。今は日本人じゃなくて王国人だけど。
◇
さて、いよいよ年末である。前世での大晦日にあたる十二月三十日だ。
時刻は昼過ぎ、後はいつもより豪華な夕食を食べ、お風呂に入って寝るだけだ。
「皆に大事な話があるから、リビングに集まってね」
そう言って俺は皆をリビングに集めた。そして握りこぶしふたつ分程の大きさの巾着を、それぞれに手渡していく。
「ビート様、これは?」
「今年の僕の儲けの一割だよ。奴隷に対する正当な報酬ってやつだね」
俺は皆に月々の報酬として金貨一枚ずつ、クリステラだけは奴隷頭の手当として金貨一枚と大銀貨五枚を渡している。前世の感覚だと十万と十五万だ。安月給だと思わないではないけど、住み込みで食費や光熱費、衣料費が掛からない事を考えれば、そこそこいい額だと思う。物価も安いし、この世界じゃスマホ代も要らないしな。
今回支払ったのは、それとは別だ。彼女たちが仲間になってから俺が稼いだ金の利益の一割を、人数で頭割りしたものだ。ここでもクリステラだけは少し付き合いが長い為、若干多く渡している。
「……うわっ!? 大金貨がようけ入っとるっ!?」
「あらあら、ひいふう……三十枚以上入ってますね」
「あ、アタイ、こ、こんな大金持つの初めてだぜっ?」
「みゃあ、これだけあったら何匹ギンアジが買えるみゃ?」
「……店ごと買えるかも」
皆が仲間になってから俺が稼いだ利益額は、ざっと大金貨二千枚ちょっとだった。約二十億円相当、とんでもない額だな。その一割を六人で割ると、ひとりあたり約大金貨三十三枚ということになる。なのでボーナスとしてちょっと色を付けて、皆には大金貨三十五枚を、クリステラには大金貨三十六枚を支給した。約三千五百万くらいか。前世でもお目にかかった事のない額だな。
「ほ、ほんまにコレ貰ってええのん? ものすごい大金やで?」
「アタイら、特に何もしてねぇぜ? 貰う理由がねぇよ」
ふむ、大金過ぎて皆動揺してるっぽいな。
「いいんだよ。皆が家事や身の回りの世話をしてくれたから稼げたんだしね。正当な取り分だから、遠慮なく取っておいてよ。じゃないと、僕が法と商売の神様に怒られちゃうからさ」
俺がそう言うと、完全ではないものの納得してくれたようだ。
あれ? そういえばクリステラが何も言ってこないな。いつも何かしら言ってくるのに珍しい。
そう思って彼女の方を見ると、滂沱の涙を流して静かに泣いていた。一体何事!?
「ど、どうしたの、クリステラ!? 何かあった!?」
「ビート様……もうわたくしは不要ですの?」
「……はぁ?」
いかん、ちょっと間抜けな声が出てしまった。この娘は突然何を言い出すんだ?
「ちょっと言ってる意味が分からないんだけど、どういう事?」
「……これだけのお金があれば、わたくしたちは自分を買い戻せますわ」
クリステラがそう言うと、他の皆が息を飲むのが分かった。
なるほど、そういう事か。確かに充分な金額だ。自分を買い戻して、自分の好きなように生きることができる、自由を買える金額だ。それはすなわち、俺の奴隷ではなくなるという事だ。
「そうか……それは寂しいけど、クリステラがそうしたいならそれでもいいよ。クリステラの人生だからね」
「嫌ですわ、わたくしはずっとビート様に仕えると誓いましたもの! この命果てるまでずっと御側に侍らせていただきますわ!!」
激しい剣幕で捲し立てるように言い切るクリステラ。涙を溜めた目で、俺の目を真っ直ぐに見つめて来る。
俺、ここまで慕われるような事したかなぁ? まぁ、美少女に慕われて悪い気はしないけど。
「わかった。なら、そのお金はいざという時の為にとっておくといいよ。僕もクリステラに居なくなられると困るしね」
「っ! それはっ! はいっ、これからもよろしくお願いしますわ、ビート様!!」
クリステラの顔から不安が消えた。うん、やっぱ美少女は笑顔がいいね。
「皆も、自分を買い戻したかったら言ってね。言い出し難かったら手を上げるだけでいいから」
他の皆にも聞いてみる。普通は奴隷なんて一刻も早く辞めたいはずだからな。
……誰も手を上げないな。はて?
「皆、いいの? 奴隷から解放されるんだよ?」
「いや、意味無いやろ? 解放されて街で働いても、ここよりええ暮らしもできんし美味いもんも食えんで?」
「そうですね、ここはキツイ労働も有りませんし、お風呂にも毎日入れますし」
「毎月の給金も十分貰ってるしな。アタイなんて、毎日こんなに自由でいいのかと思ってるぜ?」
「住み込みメイドしてた時より何倍も楽ちんだみゃ! ご飯も美味しいみゃ!」
「……天国。太るのだけが問題」
あら? 村での生活より多少楽だとは思ってたけど、そんなにここの生活は快適なのか?
まぁ、雇い主としては嬉しい事だ。福利厚生は充実してますよ?
それとデイジー、君は元々痩せ過ぎなくらいだったから、多少肉を付けた方がいい。まだまだ成長期だしな。沢山食べて大きくなりなさい。ただし胸だけは俺好みのチッパイのままである事を切に希望。
「ふーん。そういう事なら、まぁいいか。じゃあ皆、これからもよろしくね」
そんな感じで締めくくってから、皆で年末のごちそうを食べた。
俺が教えたBBQソースにひと手間加えたステーキや、普段あまり食べない、海藻を使ったサラダが美味しかった。ルカはまた腕を上げたようだ。
今年は色々あったけど、終わり良ければ全て良しだ。面倒臭い戦争関係の問題はまだ残ってるけど、それはお偉いさん方に任せておこう。
今年は念願の奴隷解放もされたし冒険者にもなれた。充分にいい年だったと言えるだろう。来年もいい年でありますように。
◇
余談ではあるけど、その日の入浴では、いつにも増して念入りに全身を洗われてしまった。気持ちよかったけど、貞操の危機をひしひしと感じた。やばい、皆の愛が重い。
もっと強くならないとな。特に心。
この課題は来年に持ち越しだ。やれやれ。
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