第011話

 さて、当面の危機は去ったということで、新たな五ヵ年計画である。計画経済は容易に破綻するんだけども、無計画というのも大人としてね。まぁ、五歳児なんですが。


 ということで、ここまでの俺の人生五年の振り返りだ。成果の評価と問題点の洗い出しをしてから、今後の方針を出す。


 ぶっちゃけ、概ね順調で、予想以上の成果だったんじゃないだろうか?

 この世界の事は結構分かったし、俺が魔法を使えることもバレてないと思う。前世の記憶を持っていることについても、恐らくバレてない。

 俺が何かしら隠してる事に村長あたりは薄々感づいてるかもしれないけど、今のところ表だって訊ねてくる様な事にはなっていない。結構大らかな人柄だから、村に害が無いなら放っておこうとか考えてるのかもしれない。両親は村長に輪を掛けて大らかだから、子供が元気に育っていればそれ以外はどうでも良さそうだ。

 当面は、これ以上怪しまれない様に大人しく(子供だけど)しておいて様子見かな。懸念点はそれくらいだ。


 次は現状の確認。


 正直、『生活が中世レベルで魔物という脅威が身近に居る世界なんて、碌なもんじゃねぇ!』と思ってた時期が俺にもありました。うん、過去形。

 スローライフも、慣れると意外に悪くない。自然の中で生きるってのは、なんとも言えない充足感がある。

 ここいらの魔物は既に脅威じゃ無くなってるし、唯一の不満だった料理も、自分で前世の味を再現すればいいと気付いたし。塩が足りないから限界はあるんだけど。


 奴隷っていうのは、前世の倫理観からすると、ちょっとばかり抵抗があるけど、こっちの世界では普通にある社会階級で、俺の主人の村長は良い人だ。前世の『ブラックスレスレ企業の社畜』よりは数段マシだと断言できる。


 それに、開拓村という言葉から受ける『過酷』『飢餓』『貧困』なんていうマイナスイメージはこの村にはない。

 過酷なのは魔物との闘いくらいのもので、環境や労働が厳しいということはない。

 気候が安定していて旱魃や水害も起こりにくいから、畑もそうそう不作にはならないため、飢えることもない。

 貧困に関しては、村民のほとんどが奴隷だから貧乏って事に実感が湧かない。

 そもそも、村の中でお金ってものをほとんど見たことがない。なにしろほとんどが奴隷だから、収穫も収入も全て主である村長のものだ。必要なものは村長から分配されるから、物々交換すらない。

 金銭での売買なんて、たまに来る行商人と村長のやりとりでしか見たことがない。


 総じて、今の生活は悪くない。ぶっちゃけ、結構楽しかったりする。毎日が『ぼくの夏休み』だ。うん、ハードモードなんて思ってごめんなさい。


 しかし、今の状況に甘んじるつもりは全くない。

 折角の異世界なのに、このままではこの村の中だけで人生が終わってしまう。ダンジョンもドラゴンもケモミミも見ずじまいだなんて、そんなのは嫌だ!


 ダンジョンでブイブイ言わしてドラゴンにパチキかましてケモミミをモフり倒すんや! せやなかったら、異世界に何の意味もあらへん!


 と、俺の中の何かが叫んでる。


 何はともあれ、行動の自由を得るには、奴隷からの解放が必須だ。

 実は、これについてはその手段が判明している。


 この世界の奴隷制度というのは、厳格に法で定められている。驚くなかれ、全世界共通の法だそうだ。

 それによると、俺は一般奴隷という種別に分類される、金銭での売買が認められた奴隷だそうだ。

 その価格は能力や経験に左右されるけど、五歳以上十歳未満の子供は基本金として大金貨五枚。これに色々な付加価値、例えば見目が麗しいとか元貴族だとか借金の肩代わり分だとかでプラスアルファされる。俺の場合は、魔法が使えるってことを明かしたら分からないけど、そうでなければ大金貨五枚だ。

 そもそも奴隷の子が魔法を使った事例が無いそうなので、値段の付け様が無いだろう。つまり、俺は大金貨五枚で自分を買い取ればいいのだ。うむ、分かりやすい。


 しかし、ここで問題が一つ。大金貨五枚がどのくらいの価値なのかということだ。

 俺はこの世界のお金というものを手にしたことがないから、それがどれほどの価値なのかわからない。これはなるべく早めに調べておきたいな。最優先事項だ。


 ということで、今後五年の目標が決まった。

 先ずはお金について知る。

 これはたまに来る行商人のおっちゃんと村長のやり取りを見て覚えよう。自分からおっちゃんにそれとなく尋ねてもいいし、護衛の人達に話しかけてもいいかもしれない。


 それに並行して、村を抜け出して魔物を狩る。

 価値が高いと言われる魔石を集めておいて、自分を買い取るための資金にするのだ。素材なんかは日にちが経つと状態が悪くなるだろうから、残念だけど諦めるしかない。売る手段が無い以上、仕方ない。

 集める魔石は多ければ多いほどいい。出来れば両親も解放したいしな。

 両親は俺よりも高値だろうから、いくら必要になるのか、正直先が見えない。しかし俺だけ解放されるのも違う気がするし、コツコツやっていけばなんとかなるだろう。


 そして、継続して魔法と体を鍛える。いつか行くダンジョンと、いつか出会うドラゴンのためだ。あとケモミミ。


 何か、今までと大して変わらない気がするな。まあいい、これまでの事は間違いじゃなかったってことさ。

 ……変えるのが面倒くさかったとかじゃないよ? ホントウダヨ?

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