隣家の飼い猫が事情によりうちのコになりました

平 遊

P.1

「あら、チャーちゃん?」


カリカリと、ガラスを引っ掻くような音に顔をあげると、そこには隣家の飼い猫、チャーの姿があった。

全身をモサモサの毛に覆われているとは言え、冬の夜の寒さは、さすがに堪えるに違いない。

理菜は慌ててベランダに続くガラス戸のロックを外すと、戸を開けてチャーを招き入れた。


「どうしたの?また閉め出されちゃったの?」


我が家のごとくすんなりと理菜の部屋に入り、ヒーターの前に座るチャーの頭を撫でると、驚くほどにひんやりとしている。

長いこと外にいなければ、これほどまでに冷えることは無いはずだ。


「遠慮しないで、すぐ来れば良かったのに」


喉元を撫でる理菜の手にゴロゴロと喉を鳴らすチャーを見ながら、理菜は呟いた。




理菜がチャーと初めて会ったのは、チャーの飼い主が理菜の隣の部屋に越してきた日。

理菜が住むアパートはペットの飼育は禁じられていた。

にも関わらず、ある日仕事から帰った理菜が目にしたのは、隣の部屋の前でじっと、ドアを見つめて座っている、猫の姿。

猫にしては少し大きめで、長毛種なのだろう、モサモサとした毛に覆われてはいるが、ロクに手入れもされていないのか、所々に毛玉ができてしまっている。


「どうしたの、キミ。ここのコかな?」


そう言えば、隣に新しい人が引っ越してくると大家さんが言ってたな。

そんな事を思い出し、理菜は隣家のインターホンを鳴らした。


「・・・・はい?」


ほどなく、警戒顔の女性が顔を覗かせる。


「あっ、私、隣の者ですが、もしかしてこの猫ちゃん・・・・」

「え?・・・・あーっ、チャー!どこいってたの!」


足元の猫に気づくと、女性は慌てたように抱き上げて、部屋の中へ下ろす。


「良かった、ドアの前で座ってたので」

「誰にも言わないで、お願い!」

「あ・・・・はい」


理菜が小さく頷いたのを確認すると、女性は直後にドアを閉めた。

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