掌編小説・『お見合い』~サキュバス魔美異第3章~

夢美瑠瑠

掌編小説・『お見合い』~サキュバス魔美異第3章~


掌編小説・『お見合い』



 サッキュバスの、魔美異(まみい)は、まだ結婚を考えたことはなくて、星の数ほどの男性経験はあったものの、子供も二人いるものの、あまりに移り気なので、1ヶ月以上一人のオトコと交際したこともなかった。


 これまでに一番好きになった異性は、ヴァンパイアロードのクリフォードという貴族で、いわゆる油壷から抜け出たような麗人、長髪で痩躯、全身が筋肉の塊という、どんなオンナも一目で虜(とりこ)になるタイプだった。


 吸血鬼らしく、全身がダークなニュアンスを帯びていて、それが女性の内なる男性像、“アニムス”を刺激するので、少し背徳的な、痺れるような快感を、いつも少し触れあう度に与えてくれる。


 魔美異にはクリフォードのそういう処がたまらなかったのだ…


 究極的にすべてさらけ出し合う時には、クリフォードはサディスティックになって、まるで魔美異が、エロティックなマペットででもあるかのように、責め苛み、

蹂躙する。その感じも、どちらかというとマゾっぽい魔美異には、理想的にしっくりくるパートナーだった…


 が、クリフォードは同じヴァンパイアの、名門の貴族の若い娘を娶(めと)って、

魔美異は捨てられる格好になった。手切れ金代わりに「水龍の涙」と名付けられている、大きなサファイアを貰ったが、これは細工師に頼んで、魔美異のお気に入りの剣である、「銀狼のリジル」に、象嵌してもらった。剣はグレードアップして、

「水龍の聖剣」となり、斬れ味やら、攻撃力が「エクスカリバー」並みの、妖剣となった…


 そういうわけで、魔族の日常というのはもちろんファンタジーそのものなのだが、そういう日々の中で、突然母親のサキュバスである、魔訶帝(マカティ)が、極めて日常的な、「お見合いの釣書」を、持ってきた。


「すごくいい人なのよ。国立のブラックサタン魔法大学院を首席で卒業して…

今、32歳。「面食い」らしくて、お見合いを35回断ったらしいわ。

グレーターデーモン種族で、名前は「金剛牙」(こんごうが)っていうのよ。

かっこいいでしょう?ほら、写真では笑っているけど、すごくニヒリスティックで、

実際には殆ど笑い顔とか見せないらしいわ。

 纏まるかどうかわからないけど、こんないい人滅多にいない。

 千載一遇のチャンスじゃない?どうする?」


 魔美異は、魔訶帝に顔を寄せて、件のグレーターデーモンの写真と経歴その他をつくづくと眺めてみた…


…「すごーい。何だか「魔界の大魔王」、っていってもおかしくないような迫力のある風貌のオトコねー兇暴な感じにすら思える。

 こんな頼れそうな人ならいいわー会ってみたいですー

 精々おめかしして、気に入られるようにしなくちゃ。ウフフ」


 魔美異は、蕩けそうな目つきになってもうその「金剛牙」とやらに、首ったけになった、という趣だった。

 大体惚れっぽいのだが、今度は一目で本当に夢中になったらしい…


 一週間後に、魔界きっての大料亭「怪力乱神」に、両家の代表の親族、仲介人、そうして本人同士が集った。

 魔美異は、髪をアップにして、禍々しい尖った耳を丸出しにしていた。悪魔であることを強調した、隈取をして眼を大きく見せて、彫りも深く見せる、プリミティヴな?畏怖の念を呼び起こす、チャーミングなメーキャップをして、服装はシンプルに、バニースーツ風のレオタードと、網タイツを履いた。


 自分で「ふふっ、どんなオトコもイチコロ、」と鏡を見てほくそ笑んだ、完璧な

いでたちだった。


「金剛牙」氏は、シンプルに黒いスーツ姿だった。ネクタイは金色で、これは自分の名前と掛けているらしい。紺青色の眼光は炯々としていて、身体中から湯気が立たんばかりの精気が漲っていて、寧ろ野獣のような、そういう強烈な印象を与えるいかつい風貌だった。予想に違わぬ、いや凌駕している、本物のオトコらしいオトコだった。

(きゃーーーー!!)

 魔美異はハートの目になって心の中で叫んだが、表面では無表情を装っていた。

「初めまして。魔美異と言います。よろしくね。」

 グレーターデーモンの紳士は、髭だらけの口元を緩めた。真珠色に輝いていて、餌食になる立場なら震え上がるような鋭く尖った真剣の刃のような歯列がギラリと覗いた。

「金剛牙です。今日はわざわざありがとうございます。すごく素敵な美人ですね。一目で虜(とりこ)になりましたよ。結婚してください。」

(えっつ!?)

と魔美異はうろたえた。これからお見合いなのに、もうプロポーズ?なんて型破りで直情径行な人…でも、それもいいかも。

 つまり、お互いに一目ぼれで、ややこしい会話は不必要、アイコンタクトで、直観力に長けた金剛牙はそう判断したのだった。

(外見だけじゃない。本当にカシコいオトコだわ。この人にならついていける…)


… …


出会って数秒、というスピード婚?で、魔美異はむくつけき容貌魁偉のグレーターデーモンに嫁ぐ、そういう運びになった。


 虚礼を嫌う夫の意向で、結婚式は極めて簡素で、悪魔教会の最高位の大司教を呼んで、二人だけで誓いを立てただけだった。

 新婚旅行は、ガーゴイルの背中に乗って、前人未到の灼熱地獄渓谷に出かけた。

 冒険者よろしく一触即発の危険地帯をハラハラドキドキしながら経めぐって、

まだ知り合って間もない夫と妻の絆を深め合った。

 そうして、夜には火砕流の渦巻く峡谷の傍らにある、洞窟の藁のベッドで初夜を迎えた。


 悪魔同士のカップルに相応しい、凄まじいようなシチュエーションで、地獄のただなかなのに、魔美異は蕩けるような天国に何度も羽化登仙させられて、頼もしいオトコの中のオトコに、その逞しい腕に、何度も歯を立ててしまうのだった…


Congratulations!!! 若い二人の先行きに幸多かれ!



<了>

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