第10話 母
【前書き】
「第3話 大いなるバビロン」の戦闘シーンを加筆修正しました。
大筋に変化はありません。
【本文】
長いようで短いニュクスとの闘いが終わり。
それから、クーデターは速やかに終結した。
初手で首都全域まで部隊を浸透させられていたこと、真かくれんぼのスキルからのダイレクトアタックで多くの敵マスターを戦闘前に無力化できたこと……これらの要因により、勝敗は最初はからついていたと言える。
それでも敵にニュクスと特記戦力(B+マスター)が健在ならば盤面をひっくり返せる可能性もあったが……それが敗れた以上、後は消化試合でしかなかった。
長引いたのは、むしろそこからだった。
一口に正統日本首都と言っても、その実態は複数の異界クラスの異空間型カードからなる集合体だ。
当然その中には、いくつかの小都市が存在する。
いわば、政治の中枢となるシェルターがある異空間型カードを東京都の23区とすれば、それに隣接する形で八王子市やら立川市のような異空間型カードがくっついている感じか。
正統日本の23区と呼べる部分は制圧した俺たちだが、その周辺の衛星都市がまだ残っていた。
それらの衛星都市も速やかに制圧して、これでクーデターも終わったかと思ったら……むしろそこからが本番だった。
財産をもって逃亡しようとする正統日本上層部の捕獲、一部レジスタンス隊員による敵捕虜への私刑(リンチ)、パニックを起こす一般市民への説明、周辺エリアのスラム民による首都への襲撃……。
次から次へと降り注ぐ様々なトラブル。
そして何より面倒なのが、各国との関係だった。
今回の作戦は、クーデターに参加した各勢力にも少なくない衝撃を与えた。
絶対結界という最高クラスの防御スキルで守られた首都であっても、奇襲を受ければ数分で落ちてしまうことが証明されてしまったのだ。
B+カードが健在でも、首都の大半とその住民たちを抑えられてしまっては、国として終わりだ。
特に首都の制圧に関しては、俺のカードのスキルに大きく頼っている。
各勢力のBランクカードの枚数差など関係ない。限界突破と後天真スキル持ちの全体装備化があれば、Fランクカードであっても並みのBランク以上の戦力にすることができる。
数よりも質が重要とされるカードにおいて、数をそのまま力にすることができるわけだ。
これを防ぐには、絶対解除で全体装備化を解除するしかない。
だが、俺が中々絶対解除持ちのBランクカードを手に入れられなかったように、絶対解除スキルは希少中の希少。
限界突破と後天真スキル持ちの全体装備化に、ハーメルンの笛による神出鬼没の転移を持ち、B+マスターで、しかも星母の会との繋がりがある……。
これで、警戒しないわけがない。
そこにきて、俺がニュクスを手に入れたことがバレた。
ついでに、アテナのパラスアテナの変身と、メアの大淫婦バビロン&黙示録の獣と、ユウキとイライザの絶対解除でも解除できない固有装備化スキルもバレた。
もちろん、俺からバラしたわけじゃない。
俺とニュクスの戦いを、各勢力が観測していたのだ。
千里眼などで遠隔からリアルタイムで見ていたのか、あるいは三明の剣のような過去視か……。
方法は定かではないが、俺の手札が各勢力に知れ渡ってしまった。
これにより各勢力の警戒心は限界突破。
REIKAなどからも、「あれれ~? 霊格再帰の数が聞いてた話と違うなぁ。それに、大淫婦バビロンもコントロールできてない?」とチクリと刺された。
それに「アテナの変身は霊格再帰じゃないんで」「絆の力で土壇場で大淫婦バビロンが使えるようになりました」などと言い訳しつつ、それ以外のこと……固有スキルなどは「言う必要はない」と突っぱねた。
まぁ、隠し事があるのは各勢力も同じなので、追及はそれで躱せたが、ニュクスに関しては流石にそうはいかなかった。
ニュクスの強さは、各勢力にも戦慄と共に知れ渡っており、それをコントロール可能な状態で手に入れた俺は、パワーバランスを大きく崩す存在と見なされたのだ。
事前の話し合いでは、ニュクスの扱いについては戦後に改めて話し合うということになっていたのも痛かった。
ニュクスに関しては、「対帝国同盟での共同所有となるだろう」というのが概ねの想定で、そこを俺が横からかっさらっていった形となるからだ。
このままでは、対帝国の同盟が崩れかねない。
そう判断した俺たち(俺とアンナパパ)は、生け捕りにした元正統日本のB+マスターとB-(零落スキル持ちBランクカード)マスターを連邦と共和国に配分することにした。
特記戦力Aこと北欧神話のロキのマスターとB-マスター三人は、連邦に。
特記戦力Bことケルビム(智天使)のマスターと、酒吞童子のマスターは、共和国に。
そしてリリスマスターはそのまま新正統日本(仮)の元に。
これに「新正統日本(≒冒険者連合)にもB+マスターを配分するのではパワーバランスの調整にならない」とか「一人の特記戦力も出さなかった共和国が、B+マスターを二人も持っていくのか」などの意見は当然あったものの……。
リリスマスター(アンナママ)の存在は絶対に譲れないし、共和国が二人も持っていくことに関しては旧正統日本の資産の共和国の取り分を連邦と鳥取エジプト王国に譲り、その他諸々の便宜を図るという形で最終的に話がついた。
そして、クーデターから三日が経ち、諸々の戦後処理や話し合いも一段落ついて。
「アンナ!」
「ママ!」
――――ついに、アンナとアンナママが再開する時が来た。
立川の部室にて久方ぶりの再会を果たした母子が、熱い抱擁を交わす。
娘にとっては数か月ぶりの、母によっては実に数年ぶりの再会だ。
アンゴルモアでは両親とは別行動とすると、自らの意思で決めたアンナだが、それは両親への愛が無いことを意味しない。
アンナパパの生存を知った時には安堵し、そしてアンナママの所在を知った際には胸を痛めた。
無論、アンナママにとっては愛するたった一人の娘であることは言うまでもない。
本来ならば、クーデターが終わってすぐ娘と再会したかっただろうが、それが三日も遅れたのは、アンナママ(リリスマスター)の処遇を巡っての話し合いが長引いたからだ。
その話し合いも終わり、無事にアンナママを確保できたことで、こうして立川へと連れてくることができたというわけだった。
「……あれ? ママ、なんか若返った」
しばし抱きしめあっていた二人であったが、やがて体を離すとアンナが不思議そうに言った。
「ええ、ちょっとだけ、ね」
「いや、ちょっとってレベルじゃないでしょ」
若返ったアンナママは、抱き合う二人は、純白人とハーフ系という若干の顔立ちの違いはあれど、アンナと瓜二つだった。
アンナがこのまま二十歳くらいになったこうなるのだろうか? という感じだ。
元々年の割に若々しかったアンナママだが、もはや完全にアンナの姉にしか見えなかった。
他人の俺なんかよりも正確に母親の変化を感じ取れるだろう娘のアンナが呆れるのも無理はない。
「もうパパと並んだら、完全に犯罪だね……」
確かに、今のアンナパパとママが並んだら、誰がどう見てもパパ活か、大富豪とその後妻といった感じだろう。
そこで、黙って母子の再会を見守っていたアンナパパが笑いながら言う。
「なあに、パパもすぐに若返るさ。なあ、婿殿?」
「まぁ……」
苦笑しながら頷く。
今後、旧正統日本の住民の心を掴むためにも、そして信仰の獲得のためにも、蓮華の真アムリタはフルに活用していくつもりだ。
そのついでに、アンナパパの若返りもやることに抵抗は無い。
「ガハハハ、もしかしたらアンナにも弟か妹が生まれるかもしれんな!」
「……娘の前でそういうことを言わないで欲しいんだけど」
げんなりとした感じでアンナが言う。
親のそういう行為を想像させられるようなことを言われるのはツラいわな……。
「まぁ、それはどうでも良いとして、若返ったからって政権交代を先送りにしたりはしないでよ」
「む」
視線を鋭くし釘を刺すアンナに、アンナパパも真剣な表情となる。
「わかっている。一族に継承していくという前例作りのためにも、基板を整えたらお前たちに譲るさ。……それに、私も楽隠居に憧れる気持ちはある。娘夫婦からの仕送りで、悠々自適の生活というのも悪くは無い」
そう穏やかに笑みを浮かべるアンナパパに、しかし娘は冷たく。
「いや、楽隠居はさせないけどね。院政じゃないけど、トップを退いた後も色々働いてもらうつもりだし」
「む!? やれやれ、我が娘ながら親を顎で使おうとは……ま、それも良いか」
「ええ、楽隠居なんてまだ早いわ」
とことん自分を使おうという娘に、楽し気に笑うアンナパパと、それを嬉し気に見守るアンナママ。
そんな心温まる光景を前に、俺は密かに考える。
アンナも両親との再会を果たした。
ならば、今後は俺の番だろう。
さて、いよいよ親父を迎えに行くとしよう。
十七夜月家の再会を見届けた俺は、そのままの足で十六夜商事へと向かった。
色々と考えたが……十六夜商事とは再交渉はしないことにした。
仮に俺が十六夜商事へと「絶対解除があるから絶対結界を解除しろ」と言ったところで、良くて「本当にあるならやってみろ」と返されるだけか、最悪の場合、親父を人質にされるだけだからだ。
ならば、最初から不意打ち気味に結界を解除し、親父を確保すべきだ。
もちろん十六夜商事を危険に晒すつもりはないので、異空間スキル・安全地帯・絶対解除の三重の護りで安全対策はしっかりと取る。
それでも十六夜商事の心象の悪化は防げないだろうが……まあ、その時はその時だ。
できれば十六夜商事とは友好的に親父を解放してもらって、十六夜商事が抱える豊富な物資やキーアイテム、海外のローカルスキル持ちのカードなどをトレードできれば……と考えていたが、日用品に関しては商業神の権能や大淫婦バビロンの異空間スキルで手に入るし、キーアイテムや海外産のカードも蓮華の真アムリタをチラつかせればリカバリーは効く可能性が高い。
何より……あれやこれやと理由をつけて結界の解除を断るだろう十六夜商事とこれ以上交渉したところで時間の無駄、というのもあった。
「……最後に、作戦を確認する」
十六夜商事の絶対結界を前に、俺はカードたちへと振り返った。
「まずは、オードリー。フェンサリルを展開頼む。それからアテナの安全地帯作成と、サラちゃんの絶対結界を張ったら、イライザ、絶対解除で絶対結界を解除してくれ。結界が解除されたら、クーデター作戦でやったように真かくれんぼを使って内部に侵入。親父を真っ先に確保してくれ」
俺の説明に、カードたちが無言で頷き返す。
正統日本首都と十六夜商事のシェルターでは、後者の方が圧倒的に規模が小さい。
カードたちなら、それこそ一瞬で親父の気配を捉えて、確保できるだろう。
「それじゃあ――――」
やるぞ、と言いかけた、その時。
「――――それは、いささか話が違うな」
ふいに、そんな声がすぐ傍から聞こえてきた。
「ッッッ!?!?」
なんだ!? 敵か!? 何時の間に、こんな近くに!? 瞬間移動!? いや、そんなことよりも、この威圧感は……ッ!
高速で思考しながらも、バッと全員で声の方へと振り向けば、一柱の女神がいた。
艶やかな黒髪と金色の瞳の、一目で美の女神に属すると分かる『美しさ』。中東の踊り子か高級娼婦のような装束に身を包み、肉感的で均整の取れた肢体を飾るのは、色とりどりの装飾品。
そして、その身が放つ威圧感は、Aランク上位のニュクスすらも遥かに上回っていた。
確実に、ニュクスよりも一万以上。あるいは、倍近くあるかもしれない……。
それに、あの衣装は、蓮華のキーアイテムの……ならば、この女神はッ!
「この者の父を救いに来るのは完全に力を取り戻してから、という話ではなかったか? なぁ――――母よ」
女神が、蓮華へと目を向けて言う。
母? 蓮華が?
それに、親父を救いに来るのは、完全に力を取り戻してから?
一体、どういうことだ……?
次から次へと湧き上がる疑問に蓮華を見るも、彼女も困惑したような顔をしている。
「母が力を取り戻した際には妾と再び一つとなり、それまで妾はこの地を護る……そういう契約であったはずだ」
この地を護る……? 契約?
この女神が、ここを……親父を護っていた。
蓮華との契約で?
……クソッ、何がなんだか分からん!
「……悪いが、アタシには何のことかわからない。ちゃんと説明してくれ」
女神の威圧感に碌に口も開けない俺たちに代わって、蓮華が絞り出すように問う。
「……今の母に何を言っても無駄か」
それに、女神は小さくため息を吐き。
「とにかく、手順はちゃんと踏んでくれ。それまで、その者の父と合流することは許さん」
そう言い残して、姿を消した。
同時に、魂が押しつぶされそうな威圧感も消え失せる。
「行った、のか……?」
安堵と解放感に、ドサリとその場に座り込む。
恐ろしい、相手だった。欠片もこちらに敵意を向けていないのに、何気ない仕草にも死を感じずにはいられなかった。
ほんのちょっとの気まぐれで俺たちなど皆殺しにされていただろう……それほどの、力の差を感じた。
しかし、それにしても……。
「一体、なんだったんだ……?」
その俺の問いに、答えが返ってくることはなかった。
【Tips】現実改変
未来の運命だけでなく過去と現在まで書き換えて自身の都合の良い運命を作る、運命操作の上位権能。
母なる海以外には、彼女の分霊にしてバックアップである『マスターカードキー』にしか許されていない最上位の権能である。
ただし、その能力も全能ではなく、現実改変の対象となるのは自身に関わることのみとなり、また生じる因果律の歪みも運命操作の比ではない。
母なる海は、世界規模での現実改変を可能とするが、これは彼女がこの星そのものだからである。
この世界は、すでに三度は現実改変が行われている。
【あとがき】
10/1~10/31の間、カクヨムネクスト・秋の読書キャンペーン開催中です!
・読書チャレンジでは、期間中にカクヨムネクスト作品で20エピソードを読むと、図書カードネットギフト10,000円分が当たるチャンス!
・レビューチャレンジでは、期間中にカクヨムネクスト作品を読み、文字ありレビューを投稿すると、最大で図書カードネットギフト10,000円分+特集に掲載されるチャンス!
エントリーはこちらから。
https://kakuyomu.jp/info/entry/next_autumn_2025
拙作、アポカリプスワールドもよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます