第9話 手札①

 

 どこの勢力の支配下でもない、無人の荒野のエリア。

 そこに、今回のクーデターのための各勢力の部隊が集結していた。

 総勢千名のマスターたち。そして、彼らが召喚した一万を超えるカードたちが犇めき合う光景は、圧巻の一言であった。

 もっとも、その99%以上はCランク以下のカードばかりであり、B+が出張ってくれば鎧袖一触で蹴散らされる存在でしかないが……それでも質よりも数の方が重要なこともある。

 特に、今回の作戦は、彼らが正統日本の首都に満遍なく浸透して貰わねば成り立たないものだった。


「そうか、わかった……ああ、愛している」


 アンナママと最後の通信を行っていたアンナパパが、通信を切り、俺たちへと振り返る。


「五分後に、結界が解除される。準備を始めてくれ」


 その言葉に、イライザがハーメルンの笛の演奏を始めた。

 同時に、ケルトの三相女神のスキル『破壊と殺戮と勝利の宴』が、集まった一万の軍勢に掛けられる。

 限界突破持ちの全体装備化スキルにより、ドン! と軍勢から感じる力が膨れ上がり、ざわっと驚きと興奮の声が上がる。

 全体装備化を掛けられることを予めわかっていて尚、予想以上の力にカードたちが動揺を抑えられなかったのだろう。

 だが、そこは今回の作戦のために集められた精鋭たち。

 すぐさま自分のカードたちを落ち着かせ、一万の軍勢が消しゴムを掛けられたようにスーッと消えていく。

 共有された真かくれんぼのスキルを使用したのだ。

 そこで、イライザのハーメルンの笛の演奏が終わり、これまでで最大の直径100メートルクラスのゲートが開かれた。

 その向こうには、土の壁が見える。

 流石に、この大きさのゲートだと正統日本の見張り(そんなものがいるのであれば、だが)に見つかる恐れがある。

 そこで、ゲートを絶対結界近くの地中へと展開することにしたのだ。

 土遁の術があるからそのまま生き埋めになって窒息することもないし、誰にも気づかれないまま大軍で絶対結界を取り囲むことができる。

 自分のカードが全員ゲートを通ったマスターからその場に座っていく。

 今回の作戦で、実際に現地に赴くマスターは、ごく一握りだ。

 ダイレクトアタックの恐れを考えれば、マスターが戦地に赴くのはリスクでしかない。

 大半は、こうして安全なエリアでリンクによるカードの操作を行うこととなる。

 やがて一分ほどで全マスターが座ったのを確認すると、最後にB+マスターが自らのカードと共にゲートを通った。

 先ほど、マスターが戦地に赴くのはリスクでしかないと言ったが、俺たちB+マスターは別だ。

 マスターが実際に現地に行かないとその場で蘇生アイテムを使ってカードを戦線復帰させられないし、俺に関しては玉手箱のこともある。

 他勢力に関してはどうか知らないが、やはり切り札の一つや二つはあるのだろう。

 それに、B+マスターともなると、下手に安全地帯にいるよりも、戦場であっても自分のカードの傍の方が安全というのもあった。

 ゲートを通ると、俺たちB+マスターは、地中に潜ったまま絶対結界の東西南北へと散っていった。

 俺は北。連邦は東。創作天国は西。そして砂原さんは、南へと。

 この配置は、俺と砂原さん以外は特に理由はない。

 俺が北なのは、正統日本の中枢部となる政府高官と富豪用のシェルターが北よりの配置だったから。

 ニュクスを管理しているのは、正統日本上層部でもトップの人間たちであり、その召喚場所もシェルター内が一番可能性が高かった。

 予備戦力となる砂原さんが南なのは、リリスマスターのいる場所が南よりだからだ。

 先の作戦会議でも上がったように、もしもリリスマスターがこちらを裏切っていた場合は、砂原さんがリリスマスターの抑えを担当することになる……。

 配置についたところで、先ほどのエリアに残ったままのアンナパパからカードギアにメッセージが届く。


【司令部より】作戦開始まで後、三分。

【司令部より】作戦開始まで後、二分。

【司令部より】作戦開始まで後、一分。


 一分毎に届くカウントダウンは、正統日本首都エリアの時間軸に合わせたものだ。

 司令部が余裕を持って支持を出せるよう、司令部のあるエリアは、正統日本よりも三十倍ほど時間の経過が早いエリアが選ばれていた。


【司令部より】作戦開始まで後、三十秒。

【司令部より】作戦開始まで後、二十秒。

【司令部より】作戦開始まで後、十秒。


 ここからは、メッセージではなく絶対結界を注視し、脳内でカウントダウンを取る。

 5……4……3……2……1……ゼロ!


 『消えたッ!』


 フッと絶対結界が消えた瞬間、俺たちは一斉に動き出した。

 まずは、各軍勢の異空間型カードが正統日本の異空間型カードと連結し、隔離状態を解除して現世へと引き出す。

 そこに不可視の軍勢が、静かに、しかし恐るべき速度で正統日本の各地へと浸透していく……。


 一秒……すでに異空間型カードの半ばまで来ている。正統日本の市民たちは、絶対結界が解除され、異空間型カードの隔離状態が解除されたことにも気づいていない。


 二秒……中枢部となるシェルターへと到達した。そのまま内部へと侵入する。後続部隊も既に全体の半分近くまで浸透しているようだ。ここで、ようやく絶対結界が無くなったことに気づいた市民が現れ始めた。


 三秒……シェルターの深部まで到達した。俺以外の部隊もシェルター内へと侵入している。この時点で、正統日本上層部が侵入者を完全排除することは不可能となった。たとえ絶対結界をどこで再起動したところで、浸透した部隊によって術者を狙われることになる。――そこで、司令部よりメッセージが届く。



【司令部より】絶対結界の再起動を確認。元の位置。



『……どういうことだ?』


 思わず、疑問が漏れる。

 なぜ、元の位置に張る?

 侵略を止めるという意味では、全くの無意味な行為。

 ……もしや、罠か? アンナママに裏切られ、閉じ込められた?

 一瞬そう考え、首を振る。判断するのは、まだ早い。

 もしも罠なら、主力である俺たちを閉じ込めるようにシェルター付近に絶対結界を張るはず。

 それに、考えてみれば、結界が元の位置に張られるのは別に不自然なことではない。

 絶対結果が解除された際のマニュアルがあるとして、予備の絶対結界持ちを配置をするとすればどこか? 候補としては二つ。ここだけは落とされては困るという最終ラインか、元の位置だ。

 だが、正統日本はすでに帝国の侵略により、この首都以外の場所をほぼ捨てている。つまり、この首都こそが最終ラインなのだ。

 結界が解除されたからといって、首都の大部分を瞬時に切り捨てる判断を下すのは難しい。

 一見何の被害も出ていないのならば、なおさらのこと。

 損失を最小限に食い止めるため、解除されても瞬時に同じ場所に張りなおすマニュアルにしていてもおかしくない。

 ……実際に、三秒近くかかったのは、長年結界が破られることもなく、本当にそんな日が来るとは思っておらず、咄嗟に動けなかったからか。

 三秒という時間は、そう考えればむしろ早い方だろう。

 そう考えているうちに、俺のカードギアに次々とメッセージが届く。



【司令部より】リリスマスターが、特記戦力(※B+カード)Aと交戦開始。

【司令部より】特記戦力Aは、北欧神話のロキと判明。

【司令部より】創作天国特記戦力、特記戦力Bと交戦開始。

【司令部より】特記戦力Bはキリスト教の智天使ケルビムと判明。

【司令部より】リリスマスターに、酒吞童子が襲来。応援求む。

【司令部より】連邦特記戦力が、リリスマスターと合流。絶対結界による酒吞童子と特記戦力A及び、そのマスターらの隔離に成功。



 一気に動き出したな……! しかも、初手で敵B+マスターを絶対結界で隔離させられたか! B+カードだけの隔離だと自害からの蘇生で逃げられる恐れがあるが、そのマスターごととなると、そうもいかない。これはデカい!

 こうなるとニュクスの襲来も……!

 そう俺が考えた瞬間、ズンと重量を伴うほどの威圧感が襲い掛かってきた。

 同時に、何かが体を通り抜けていく感覚。

 ドレスの装備化や、各種バフが剝がされていく。

 

『絶対解除か……!』


 しかも、かなりの広範囲……!

 それに、離れていてもわかる、この威圧感!

 これが、ニュクスか!


【司令部より】全部隊の装備化の解除を確認。

【司令部より】特記戦力Aと酒吞童子及び、そのマスターらの絶対結界が解除。交戦開始。

【司令部より】北川氏は、速やかにニュクスに向かってください。

【北川より】司令部へ、了解した


 そうメッセージを送信してから鈴鹿へと問いかける。


「……『ストック』は出来たか?」

「バッチリ!」


 よし、と頷く。

 できれば、『この力』は使わずに済ませたいところだが……果たしてどうなるか。

 一方で、ユウキの方の『新しい力』はいつでも気軽に使えるのが強みだ。


『ユウキ』

『はい!』


 俺の呼びかけに、ユウキがその力を発動する。

 蓮華、イライザ、ユウキの三名の体が光に包まれ……何も起こらない。

 ユウキが新たに得た力は、外見に現れるものじゃないからだ。


 ――――固有スキル、三銃士。


 大淫婦バビロンとの闘いにより、生き残ったメンバーはそれぞれ固有スキルに覚醒した。

 ユウキのそれは、疑似的な三相女神とでも言うべきものだった。

 特に繋がりの深い仲間と召喚する場合、三枚召喚しても迷宮の召喚枠を一つしか消費しないというもの。

 現在は、蓮華、イライザ、メアのみとしか枠の圧縮は出来ないが、いずれその対象も増えていくことだろう。

 そして、もう一つ。


「グルルッルル……!」


 ユウキの体が、巨大な白銀の狼へと変わっていく。

 その背にイライザが跨ると、彼女たちから放たれる威圧感が倍増した。


 ――――三銃士のもう一つの効果。三銃士の枠圧縮効果を受けた対象一枚が自身に騎乗している場合、お互いの戦闘力を共有する。


 この効果は、他の如何なる装備化スキルとも併用可能で、いわば『固有装備化』とでも言うべきものだった。

 ……おそらくは、メアによってケルトの三相女神がロストさせられ、俺たちの戦略の核となる装備化スキルが失われた危機感が、この効果を生んだと思われた。

 これで、イライザとユウキの戦闘力は、6000オーバーとなった。

 先ほどの絶対解除で消えてしまったケルトの三相女神のスキルも合わせればプラス3000。

 さらに、アケーディアのドミニオンにデュミナスたちを召喚させ、憑依装備化させればプラス3000の、12000オーバー。

 ……これでもニュクスの推定最大戦闘力である15000~18000には届かないが、少なくとも一発ロストは無いだろう。

 さっそく三銃士の効果で空いた枠で疑似カードのカルキノスを召喚すると、改めて外れた各種バフを掛けなおし、最後に真アムリタでスキル回数を回復させて、と。

 ああ、それに、いつでも開けられるように玉手箱を取り出しておこう。


『よし、行くか』


 いよいよ威圧感の方向へと向かうことにした。 



 

 土遁のスキルで壁を素通りして目標へと一直線に進むと、やがて俺たちは開けた空間へと出た。

 ざっと東京ドームほどの広さがあるだろうか。ぐるりと周囲に観客席がある以外は、何もない空間。

 平時は、スポーツやライブにでも使われていたのだろう、その空間に俺はモンコロの闘技場を連想した。

 それは、中央にて立つ一柱の女神の存在によるものだろうか。

 満天の夜空をそのまま流しこんだような煌めく黒髪と月のような瞳。一糸まとわぬ姿で、蠱惑的な肢体をそのままさらけ出している。

 その傍らには、見すぼらしい恰好をした小学生くらいの少女が。

 あれが、ニュクス。原初の夜の女神か。

 そして、あの少女は……。


「まさか……ニュクスのマスターか?」


 ニュクスの威圧感に顔面蒼白でブルブルと震える姿からは、微塵も『戦う者』の気配を感じない。

 だとすれば、あれは……。


「ニュクスへの生贄、か」


 まだ喰われてはいないようだが、俺たちが負ければそのまま食われてしまうことだろう。

 とはいえ、これは俺たちにとっては僥倖か。

 ニュクスに加えてBランクカードのデッキを想定していたからな。

 あの少女では、上位のBランクカードを扱うことは難しいだろう。


「……侵入者か」


 ニュクスは現れた俺たちをチラと興味なさげに一瞥すると、ゆるりと腕を一振りした。

 次の瞬間、ニュクスを中心に闇が……いや、『夜』が広がる。

 カードの視界を借りなければ人間の目では一寸先も見えない暗闇の中、ニュクスはさらに己の眷属を召喚する。

 現れたのは、五名の男女。優し気な風貌の美青年が一人、冷徹さが表情に滲み出た死神のような男が一人、そして明らかに三相女神とわかる女神が三人……。


『ヒュプノス、タナトス、モイライの三相女神か』


 ニュクスが呼び出す眷属で男が二人、女が三人となれば、ニュクスの子供たちの中でもこの五名で確定だろう。

 いずれもAランクではなく、Bランクではあるが……。

 ニュクスの呼び出した眷属たちが、自らも眷属召喚を開始する。

 現れたのは、黒い翼と鋭く長い爪を持った女神たち。ヒュプノスら同様ニュクスの子供とされる、Bランク下位のケーレスだ。

 やはり眷属召喚を使ってきたか! だが、眷属召喚ならば対策は出来ている。


『凍てつく月の世界!』


 イライザとユウキ、そしてヘカテーとなったクロが月の三相女神の眷属封印を使用する。

 呼び出されたケーレスたちが消え去り……しかし、ヒュプノスたちニュクスが直接呼び出した眷属は、その場に残る。

 対眷属スキル耐性か、あるいは真眷属体か。やはりAランクが呼び出す眷属ともなると、簡単に消すことはできないらしい。

 ならば、直接始末するだけだ!

 カードたちの弓矢が、攻撃魔法が豪雨のごとく降り注ぎ、ヒュプノスたちの手足を吹き飛ばし、頭を砕く。

 どう見ても、即死。所詮はBランク、対眷属スキル耐性があろうと今の俺たちの敵では無い。これで、ニュクスとの戦いに集中できる。

 そう思った瞬間。


『……何っ!?』


 ヒュプノスたちの体が動画の逆再生のように回復していく。

 馬鹿な、確実に致命傷だったはず! 不死か? いや、不死解除の魔法も撃ち込んだ。ならば、ロスト身代わりスキル? あるいは蘇生か?

 いや、それとは起こっている現象が異なるし、何よりヒュプノスたちにそんなスキルは存在しない!

 俺も、ニュクス戦にあたり、眷属として召喚されそうな存在は調べてきている。

 ニュクスの子供とされるヒュプノス、タナトス、モイライの三相女神も当然調べてきており、その先天スキルもわかっている。

 そして、その中にロスト身代わりスキルも蘇生も存在しないはず!


『……まさか!』


 そこで、ハッと思い至る。


『不滅スキルか!?』


 ニュクスのスキルにより、不滅が付与されているとすれば、この肉片から再生するような現象も納得がいく。

 だとすれば、不滅の効果時間が切れるか、絶対解除か絶対攻撃でしか殺すことはできないことになる。

 だが、効果時間切れを待とうにも……。

 その瞬間、再びニュクスから不可視の波動が放たれる。

 酷く億劫そうに、あるいは退屈そうに放たれたそれは、こちらのバフごと月の三相女神の眷属封印を消し去った。


「クッ……!」


 ユウキの三銃士は……!?

 真っ先に確認するのは、ユウキの固有スキルによる枠圧縮効果が残っているかの確認。

 メアの絶対解除でも三相女神の召喚枠数圧縮効果は解除されなかったが、固有スキルまで同じとは限らない。

 召喚枠の圧縮が解除されたことで、弾かれたカードが送還された恐れがある! と素早くリンクで確認したところ。


『よし、全員健在か!』


 疑似カードのカルキノス含め、送還されたカードは無かった。

 どうやら、固有スキルの枠圧縮効果は、絶対解除の対象とならないらしい。

 そして、もう一つ。


『ユウキの装備化も無事か!』


 絶対解除を受けたというのに、イライザとユウキの装備化は健在であった。

 解除された瞬間にまた装備化したのか、あるいは――。


『固有スキルは、絶対解除耐性があるのか……?』


 だとすれば……!


「サラ! 絶対結界!」

「ふぁッ!? は、はい!」


 俺の命令に、サラちゃんがちょっと驚いたように絶対結界を張る。

 続けて、イライザへと告げる。


『イライザ、演奏を』

『イエス、マスター』


 絶対解除は使ったばかり。連発式でもない限り、イライザが『芽生えし心の前奏曲』を奏でるまでの時間は稼げる。

 もしもこの曲の効果が、次の絶対解除を受けても残るようなら……!

 そうしている間に、ヒュプノスたちが再び呼び出したケーレスが場に満ち始める。

 絶対結界が解除されたら、また月の三相女神を使わないとな……。

 とはいえ、それも限りがある。

 こうも気軽に使ってくることから、おそらくニュクスの絶対解除スキルは使用回数型ではなくクールタイム型。

 スキル使用回数がある眷属封印スキルと、クールタイムが過ぎれば何度でも使えるニュクスの絶対解除では、耐久レースでは絶対に勝ち目はない。

 できる限り、眷属は通常攻撃で始末したいところだが……。

 そう考えつつ、今のうちにケルトの三相女神のスキルを使っておき、真アムリタで全員のスキル回数を回復しておく。

 そのまま結界越しににらみ合いが続き……。


「……………………」


 ニュクスが、無言で絶対解除を放ってくる。

 きっかり、一分。それが、絶対解除のクールタイムか!

 今回は、絶対結界と相殺となったので、各種バフは剥がれていない。

 月の三相女神を使う前に、普通に火力での掃討を試してみる。……が。


『クッ、こいつらも不滅か!』


 新たに現れたケーレスたちは、どれほどダメージを与えても消滅する気配が無かった。

 やはり、不滅効果が自動付与されているとしか思えない。

 この夜のフィールドの効果か?

 しかも、効果時間が長い。

 既に一分以上経っているのに、最初のヒュプノスたちの不滅効果が終わる様子が無い。

 一体、いつ切れるんだ? 五分か十分か……あるいは――!

 

『まさか、永続効果……!?』


 ゾクリと背筋に走る悪寒と共に、頭上の夜空を見上げる。

 夜が滅ばないように、この夜空の下では夜の眷属たちは、不滅だとでも!?

 いや、そんなわけがない! 明けない夜は無い。単に、効果時間が少し長いだけだ!

 だが、それをさておいても……!


『クソ! 攻撃が躱せない!』


 全ての敵の攻撃が、こちらを追いかけて命中してくる。

 絶対命中。それが、敵全員に付与されているとしか思えない。

 ケーレスどもの戦闘力はこちらと比べて低いため一撃一撃は軽いが、それが全弾命中してくるとなると……!


『凍てつく月の世界!』


 たまらず、眷属封印で一度リセットする。

 ケーレスどもが解けるように消え去るが、そう間を置かずにニュクスの絶対解除が放たれる。


『チッ……! やはり耐久レースは不利か!』


 再び召喚され始めたケーレスを見て、舌打ちをする。

 このままやっても、先にこちらのスキル回数が尽きるだけだろう。


『……大本のニュクスを狙うしかないか』


 不滅の永続付与がある限り、絶対攻撃でしか敵眷属は倒せない。

 そして、どうせ絶対攻撃を使うなら、眷属よりもニュクスを狙うべきだ。

 ならば……!


『破壊と殺戮と勝利の宴! 各種バフ!』


 絶対解除で剥がれたバフを掛けなおし、続けて命じる。


『アテナ、絶対防御! イライザ、ユウキ、飛べ!』


 最後にアテナの絶対防御を掛けた上で、イライザとユウキが瞬間移動する。

 一瞬でニュクスの背後へと現れたイライザたちが、その無防備な首元へと絶対攻撃の鎌を振り下ろす。

 それに、ニュクスはわずかに目を見開き……。


『……ッ!』


 鎌の刃が、謎の障壁に遮られる。

 まるで満天の星空を、そのままヴェールにしたような……。

 その場違いな美しさに一瞬目を奪われたその瞬間、ヴェールから流星群がイライザたちと目掛けて放たれた。

 アテナの絶対防御によりダメージはないが、これは……!


『自動カウンター付きの絶対防御か……!』


 しかも、よく見ればニュクスだけでなくヒュプノスたちやケーレスどもまで夜空のヴェールを纏っている。

 だが、関係ない! 絶対防御のクールタイムが過ぎる前にこのまま叩みかけて、その首を取る!


『鈴鹿!』

『了解!』


 鈴鹿が、鈴鹿御前へと霊格再帰し、そのままニュクスの元へと転移する。


「顕明連……!」


 絶対攻撃の一振りがニュクスの首へ襲い掛かり――――。


「……!?」


 ――――空振った。

 

 絶対に当たる軌道だったのに、なぜ!?

 そう考え、すぐに思い至る。


『モイライの三相女神か!』


 勝利と無常の果実。味方に使えばステータス二倍のバフと一度限りの絶対回避を、敵に使えばステータス半減と各種デバフを与える、モイライの三相女神の特殊スキル。

 それにより、鈴鹿の絶対攻撃を回避したのだ。

 

『ま、私には関係ないけどね』


 そう嘯いて鈴鹿が返す刃で切りかかる。

 ただし、今度は三振り纏めて。

 三明の剣による範囲型絶対命中攻撃が、ニュクスとその眷属たちを襲い――――。


『また絶対防御……!』


 再度、星空のヴェールで遮られた。

 絶対防御の連発が可能とは……さすがAランク上位というべきか。

 だが、鈴鹿の絶対攻撃も連発が可能となっている。これでトドメだ!

 鈴鹿の二度目の範囲型絶対命中攻撃が放たれ……。


『馬鹿な……三連発だと?』


 三度目の絶対防御に遮られた。

 いくらAランクでも出鱈目過ぎる! 絶対防御など、クールタイムがあるから許される反則技だぞ! クールタイムはどうした!?


『……まさか!』


 クールタイム式ではなく、スキル回数型だったのか!? それなら三連発もあり得る!

 だとすれば、マズイ……絶対攻撃を使い切ってしまった! 玉手箱で回復して、一気に畳みかけるか!? だが、もしもスキル回数が六回だったら……!?

 ……いや、もう迷う余地はない! ここが勝負時だ! 玉手箱を開ける!

 一瞬の逡巡。しかし、それを敵は見逃さなかった。


「母上に対し不敬だよ、君たち」


 いつの間にか鈴鹿への背後へと迫っていたヒュプノスが、怪しい光を鈴鹿へと放つ。

 しまった、ヒュプノスのスキルは……!

 ヒュプノスの単体絶対睡眠のスキルと、鈴鹿の体を覆う絶対防御の光がぶつかり合い、互いに消滅する。


『クッ、絶対防御が……!』


 そこへ、ニュクスがゆらりと、その指先を鈴鹿へと向ける。

 今の無防備な鈴鹿が、ニュクスの一撃を受けたら……!


『アテナ!』『わかっています!』


 アテナの二度目の絶対防御が張られるのと同時、ニュクスの指先から紫の光が放たれ―――。


『なっ、絶対防御が!?』


 イライザ、ユウキ、鈴鹿の絶対防御が、一瞬の拮抗の後、紫の光と共に消え去る。

 絶対解除!? いや、対消滅したということは、絶対攻撃か絶対状態異常か! ニュクスも持っているのか!?

 いや、それよりも……! マズい、絶対攻撃を持っているのは、もう一体いる!


「いい加減、母上から離れよ、下郎」


 鈴鹿の背後へと迫っていたタナトスが、その死神の鎌を振るう。


「クッ!」


 鈴鹿はそれを身をよじって躱そうとするも、絶対命中により斬撃のエフェクトだけが吸い込まれるように彼女へと叩き込まれる。

 死神の鎌が鈴鹿の細い首を跳ね――――。


「舐めるなよ、死神風情が!」

「ッ!?」


 次の瞬間、無傷で蘇った鈴鹿がタナトスの体を真っ二つに切り裂いた。

 自己蘇生スキルで、一命を取りとめたか……!

 だが……!

 

 ――――既に、ニュクスの指先には、紫色の光が灯っていた。


『巨神化ッ! 真アムリタの雨!』


 俺がそう命じると同時、ニュクスより放たれた流星群が、イライザの、ユウキの、鈴鹿の体を打ち抜いていく。

 そこへ降り注ぐ真アムリタの雨。それは、ギリギリ……本当にギリギリのタイミングでイライザたちの命を繋ぐことに成功した。


 ――――しかし、その間に。


 ヒュプノスがニュクスへと忍び寄っていた。

 ニュクスへとヒュプノスが触れる。

 その瞬間、ニュクスの体を光が包み込んだ。一回、二回、三回、続けて三度。

 ダメージの無いニュクスに、しかも三回も使用するスキルなど一つしかない。


「スキル回数回復……!」


 最悪だ……せっかく削った絶対防御の使用回数をフルチャージされてしまった。

 そこで、ようやく玉手箱の煙が俺の体を完全に包み込み、俺たちは玉手箱の中に入ったのだった。

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