第14話 ベストなスタイルは人ぞれぞれ①


「お疲れさま」

「そっちこそ」


 エリアAに転移して、カードギアで連絡を入れると、すぐさま小鳥ちゃんがやって来た。

 瓦礫と化した街の中、記憶にある姿よりいくらか伸びた髪を靡かせながらやって来た小鳥ちゃんを見て、俺は問いかける。


「どれくらいぶり?」

「そうだね……大体、二ヵ月ぶりってところかな」


 二ヵ月……まぁ、そんなものか。

 立川の方でも同じくらいの時間が経っているだろう。


「じゃあ、さっそく始めようか。僕もそろそろ立川に帰りたいしね」

「ああ」


 二ヵ月もの単身赴任に若干の疲れを滲ませつつ言う師匠に、俺は頷き返すと迷宮を順に回っていった。

 このエリアAにあるCランク迷宮は、九つ。

 すでに師匠が最下層までと複数回廊を踏破済みなので、転移のカードで最下層まで輸送して貰い、後は迷宮主を始末して完全沈静化をするだけの楽な作業となる。

 一応、戦う前とトドメを刺す直前にカード化の意思は問うものの、どうせ今回も全部断られて終わりだろうと、あまり期待はしないのだが……一体だけカード化に同意してくれた主がいた。

 というか、予め師匠が話をつけていてくれていた。


「まさか、それが玄武とはな」


 カード化に同意してくれたカード、それは二組目の四神の最後の一枚だった。


「四神のカードはいくらあっても良いからね。なんとか口説き落としたよ」


 なんでも、数時間にも及ぶ交渉の結果、「戦う相手は師匠のみ」「使えるカードは一枚のみ」「カード化したとしても、使い手は師匠のみ」「他者へのトレードや、ランクアップに使うのは禁止」という条件で、カード化を賭けた決闘に持ち込んだらしい。

 Cランク迷宮の主相手に使えるカードが一枚のみというのは、中々に厳しい条件ではあったが、何時の間にかカードキー化していたアレースのおかげで危うげなく勝つことが出来た。


「というわけで、これ」


 エリアAのCランク迷宮の完全沈静化を終え、すっかりモンスターの気配の無くなった地上で、俺は師匠へとカードキーの朱雀のカードを渡した。


「これは……!」

 

 俺が渡したカードを見て、師匠は目は見張ると、遠慮がちに問いかけてくる。


「……良いのかな?」

「ああ。アンナたちにもカードを渡すし、なにより四神のカードは安全のためにも揃えて置きたいしな。師匠は、青龍になるC+を持ってたろ?」


 四神の絶対結界の有用性は、十六夜商事のせいで嫌というほど思い知らされている。

 一組でも十分な四神が二組あるというだけで、安心感が段違いだった。

 ……絶対結界の中に、すでに敵が入り込んでいる、なんてこともあり得るからな。

 学校に四神の結界を張りつつ、さらに師匠の四神で愛たちを囲めば、鉄壁に近い守りとなる。

 師匠は、愛へのリンクの指導で一緒にいる時間も多いし、四神があればより安心だ。

 これが単純な施しではないことに気付いたのだろう、師匠も「なるほど」と頷くとカードを大事にホルダーへと仕舞いこんだ。


「そういうことなら、ありがたく。愛ちゃんたちは、死んでも守るから安心してくれ」

「ああ、頼んだ。……じゃあ、立川に帰るか」


 イライザの演奏が終わり、ゲートが開いたのを確認すると、俺は師匠と共に立川へと転移した。

 



 ――――二ヵ月ぶりに訪れた学校は、かなり様変わりしていた。


 まず、学校の位置がヘスペリデスの園から、その端に現れた海に囲まれた島……女護島へと移っている。

 島の中心部、小山の上には遠目にもハッキリ見える白亜の塔が聳え立っており、山の麓には学校が。学校の正面には、広く大きな道が一本伸びており、それは島とヘスペリデスの園を繋ぐ大きな橋……というか隆起した岩? へと続いている。

 橋へと続く大きな道からは、横線を引く形でそこそこの広さの道が等間隔で伸び、そこからさらに小さな道が何本も伸びて……と、平安京のような碁盤上の街が形成されていた。

 

「……すげぇな、少し見ない間に、かなり発展している」


 上空からイライザの魔法の馬車で街並みを見渡し、俺は呟いた。

 まさか二ヵ月程度で、街と呼べるほどのものが出来ているとは……。

 街の区画はまだまだスカスカではあるが、大通りの両サイドには、様々なお店が並んで商店街のようになっており、多くの客が行きかうのが見えた。


「みんなの顔も明るいね。それに、カードも普通に歩き回っているみたいだ」


 師匠の言う通り、商店街では明らかに人間ではない存在が普通に歩いているのが見えた。

 マスターがカードを連れているだけではなく、カード単体で行動しているのもいるようだった。

 カードの召喚は、原則冒険者部員のみ、それ以外はカードを使った仕事中のみというルールのはずだったが、どうやら撤回されたらしい。

 建築等でカードを日常的に使ううちに、徐々にルールが緩んでいったのか、あるいは意図的に緩和したのか……。

 流石にあまりに大きなカードの召喚は禁止されているのか姿が見えないが、人型サイズ以下のカードは、普通に召喚され、また単独行動すら許されているようだった。

 そして、それを道を行きかう人たちが怖がっている様子はない。当たり前に受け入れられているように見える。少なくとも、ここから見える範囲では。

 ……これは、ウチのカードたちを連れて歩いても驚かれることはないか? と思いつつ、念のため今回のところは、まだかくれんぼスキルで姿を隠して貰いつつ、橋の根本あたりへと降りてみる。

 遠目には、隆起した岩の塊に見えた橋であったが、間近で見ると、ちゃんと地面は平で柵もあり、橋らしくしているのがわかった。

 上空からは岩の塊のように見えたのは、長さが100メートルほどなのに対し、横幅が60~70メートルほどもあり、橋というには太く短かったせいだ。

 その横幅は、大通りにも続いており、片側八車線ぐらいある。

 交通の便を考えるにしてもあまりに広い道幅であるが、おそらく他に思惑があるのだろう。

 ……避難の時に渋滞が起こりにくくなる、とかな。

 そんなことを考えながら、大通りを歩く。

 直に見てみた商店街は、意外と空きテナントが目立った。それも、学校へと近づくにつれ、空きテナントが多くなる。とりあえず、箱だけは揃えたという感じか。

 だが、それでも飲食店、八百屋、肉屋、魚屋、服屋、雑貨屋、家具屋と種類豊富な店が並んでいるのが見える。飲食店にしても、喫茶店から、居酒屋、中華、ステーキハウス、焼肉、ハンバーガー、ピザ、ラーメン、蕎麦、たこ焼き、クレープと、種類はアンゴルモア前に匹敵する。

 他にも、漫画喫茶、ビリヤード&ダーツ、銭湯(マヨヒガ)などの、これまで校舎の中にあった設備が移されたと思われるお店も見えた。

 無いのは、カラオケや映画館、ボーリングなどの電力を必要とする設備や、ギャンブル・風俗関連か。

 とりあえず、電力のかからない物から、校舎から移していった感じか。


 並ぶお店の中で、個人的に面白いと思った店は、両替屋である。

 ここは、どうやら魔石やカード、魔道具などを各店舗で使えるチケットと交換してくれるお店のようだった。

 なお、この店では、チケットと魔石は双交換可能でも、チケットでカードや魔道具を買うことはできないようだ。

 魔道具を売る店は他にちゃんとあり、カードはそちらでも売られていない。

 店の前には行列が並んでおり、冒険者部員以外の避難民も魔石をチケットに両替しているのが見える。

 ……避難民が魔石を持っているのは、チケットの他にも魔石での給料を払い始めたのか、あるいは自力で手に入れたのか。

 後でアンナたちに聞いてみるとしよう、と思いながら師匠と商店街を冷やかしつつ歩いていると、いつの間にか校舎へと着いていた。

 校舎には、生徒たちが慌ただしく出入りしており、こちらに気付くとちょっと驚いたような顔をしてから、キッチリと頭を下げてくる。

 その様子からは、俺が戻って来た時に感じた負の感情はほとんど感じられない。

 完全に、役員とかのお偉いさんと遭遇した時のアルバイトのような対応だった。

 どれくらい偉いのかはピンとこないが、偉いことはハッキリしているので、とりあえず頭を下げておこう、的な。

 ここしばらく留守にしていた俺や師匠にまでこの対応とは、それだけアンナたち幹部勢が校内を掌握しており、それが俺たちに対しても適応されてるのだろう。

 そんなようなことを考えているうちに、部室へと着く。


「お久しぶりです、先輩」


 部屋に入って来た俺たちに気付くと、アンナは嬉しそうな笑みを俺へと向けてきた。

 それから師匠へと視線を向けて、その苦労をねぎらう。


「神無月さんも、エリアAでのCランク迷宮攻略、お疲れ様でした」

「うん、ありがとう」


 明らかに、俺への笑顔と温度が違うが、特に壁は感じない。

 どうやら、師匠と彼女たちのわだかまりは、ある程度は解消されたようだ。


「今、小夜を呼んでいます。小夜が来るまでの間に、ちょっとお願いがあるのですが」

「なんだ?」

「いえ、学校の迷宮の完全沈静化をお願いしたいな、と」


 なんだ、そんなことか、と頷く。


「わかった。もう踏破寸前まで攻略してるのか?」

「はい。今はもう沈静化も解けて、入口を封鎖してモンスターが出てこない状況にしています。……踏破までしてしまうと、また一から攻略しないといけなくなるので」

「ん? すでに沈静化も解けているのか? 迷宮のゲートはどうなってる?」


 迷宮のゲートが異空間内に収納できるのは、沈静化状態のみのはずだったが……。


「どうやら、異空間内に入っている状態で沈静化が解けたとしても異空間外にゲートが弾かれることはないようです」

「なるほど……やはり、まだまだ知らない仕様があるみたいだな」


 それにしても……と続ける。


「そんな状態なら俺を呼んでくれても良かったのに」


 すると、アンナは首を振り。


「いえ、これは防衛訓練でもありましたから」

「防衛訓練……」


 なるほど、確かに迷宮からあふれ出すモンスターを始末するのは、防衛の良い訓練になるか。


「迷宮の主とも話をつけてあり、主が第一階層まで上がってくることもありませんので、良い訓練になりました。この防衛訓練は、避難民にもクエストとして解放しているので、冒険者部員と避難民たちとの心理的距離も縮みましたしね。やはり、互いに背中を預けて戦うと言うのは一体感を高めるようです」


 防衛訓練で得た魔石や魔道具は、すべて冒険者部員や避難民が戦利品として得られるため、防衛訓練は人気のクエストなのだと言う。

 それで、両替屋には避難民たちも結構な数が並んでいたのか、と頷く。


「それじゃあ、沈静化もしなくて良いんじゃないか?」

「いえ、それはしてください。やはり、拠点の中にモンスターの巣があるというのは、落ち着かないので」

「それもそうか……」


 完全沈静化したら、今度は防衛訓練じゃなくて迷宮攻略のクエストになるだけだろうしな。


「というわけで、さっさと完全沈静化してしまいましょう。主とは、カード化の約束もしてありますので、ご安心ください」

「そこまで話がついているのか。ちなみに、なんて種族だった?」

「持国天ですね。こちらが避難民の保護をしていること、すでに増長天を所持していることを告げると、戦いに勝てば協力してくれることになり、代表として私が戦い勝利しました」

「なるほど、持国天か」


 増長天と同じ、絶対結界持ちの四天王の一柱。守護神で善神の四天王なら、確かに力さえ示せば、交渉の余地はある。

 そこで、ふと気付く。


「待てよ? 学校の迷宮は、不思議のダンジョンタイプじゃなかったか?」


 不思議のダンジョンタイプ……ルート日替わり変更型の迷宮は、主も日替わりで変わるという性質があったはず、と俺が問いかければ。


「その性質は、アンゴルモアで無くなったようです」


 アンゴルモアで、か。

 確かに、日替わりで主が変わるままだと、アンゴルモアでは色々と面倒くさそうだった。

 主は迷宮外に出ても主のままなわけだが、日替わりで主が変わる性質の迷宮の場合どうなるのか、と疑問には思っていたが、どうやら主が日替わりで変わる性質自体が失われていたようだ。


「じゃあ、行くか」

「あ、僕はここで待ってるよ。織部さんも来るだろうしね」

「そうですね、お願いします」


 師匠を部室に残し、屋上へと向かう。

 すると、屋上は、パラソル付きのテーブルや椅子が並び、ちょっとしたカフェのテラスのようになっていた。

 ダンジョンマートも営業を再開しているようで(さすがに品揃えは違うようだが)、ちょっとした軽食ぐらいは買えるようで、防衛訓練のクエストにしていたのだろう冒険者部員や避難民たちが思い思いにテラスでくつろいでいるのが見えた。

 こちらに気付いた部員たちが慌てて立ち上がって挨拶してこようとするのを、アンナが手ぶりで制止しつつ、俺たちはダンジョンマートへと入る。

 そのまま迷宮の中に入ろうとして。


「あ、先輩。機械類は大丈夫ですか?」

「おっと、そうだったそうだった」


 慌てて、ホルダーの中に入っていた機械類をカード化した物資を取りだす。

 この迷宮のメイン効果は機械破壊。その対象は、カード化した機械にも及ぶ。

 せっかく、落とされたギルドからまだ使えそうな機械類を回収してきたのに、ここで壊してはあまりに勿体ない。


「イライザ、悪いけどこれを部室の師匠の元へと持っていってもらえるか?」

「イエス、マスター」


 イライザの姿がパッと消えたかと思うと、すぐに戻ってくる。


「渡してきました」

「ありがとう」


 礼を言って、今度こそ迷宮のゲートを通る。


「なるほど、地上へのゲート付近は要塞化しているのか」


 迷宮の中へと入ると、そこは石造りの部屋の中だった。

 最初は地下迷宮型の迷宮の中に入ってしまったかと思ったが、学校の迷宮の第一階層は砂漠だったことを思い出し、これが作られた物であることに気付く。


「万が一にも、地上にグレムリンなんかが入り込んだら大変ですからね」

「だな」


 校舎内のありとあらゆる機械が使い物にならなくなってしまう。


「じゃあ、最下層に飛びますね」


 アンナが転移のカードを使って、ゲートを開く。

 それを通ると、そこは仏教風の寺院の中だった。

 広間の中心には、仏像にそのまま命が吹き込まれたような偉丈夫が座禅を組んで瞑想しており、俺たちに気付くとゆっくりと目を開いた。


「……来たか」

「ええ、約束通り、カード化をお願いします」

「よかろう。そなたらが、善良な民を保護し続ける限り、我が力を貸そう」


 持国天の身体が光に包まれ、アンナの持っていたカード化の魔道具へと吸い込まれていく。

 一瞬の後、そこには持国天が描かれたカードがあった。


「これで、四天王も二枚目ですね」

「こうなると、俄然残りの二枚も欲しくなるな」

「久しぶりにガチャしちゃいますか?」


 こちらを覗き込むように悪戯っぽい笑みを浮かべるアンナに、それもアリかと考える。

 砂原さんとの取引のおかげで、ガーネットにも余裕が出てきた。

 如意宝珠分のガーネットとダイヤをキープした上で、アイテムガチャをダイヤ分引いたとしても、残りのガーネットの半分でガチャを引いても十回は引けるだろう。

 Cランク迷宮を消滅させてカードを得るにしても、ガチャと被っては少々勿体ない。

 ここらでガチャを引いてみるか。

 だが、その前に……。


「これを渡しておく」

「え~、もしかして~新しいカードッスか? いや~、ありがとうございま――――ッ」


 浮かれた表情でカードを受け取ったアンナが、ハッと息を呑む。


「ホーラーの三相女神、それも内二枚はカードキーですか。……本当に良いんですか? これは、さすがに先輩が使うという手もあるのでは?」


 いつもは遠慮なくカードを貰っていくアンナだが、今回ばかりは真剣な表情で問いかけてくる。


「ああ。眷属封印持ちを2セット持つのはさすがに無駄だし、後天スキルの真スキルもすでにコピー済みだしな」


 俺がそうアッサリと告げれば、アンナも「そういうことなら」とホクホク顔でカードをホルダーへと仕舞いこんだ。


「いやぁ、しかし、私だけこんなに貰うとなんだか贔屓されてるみたいで、申し訳なくなっちゃいますね」

「……一応師匠にもカードキーの朱雀を、小夜にはレッドライダーを渡すから気にしなくて良いぞ」

「レ、レッドライダー!?」


 なんだかモジモジしているアンナに、俺がそう告げると彼女は愕然と目を見開いた。 

 

「う、うらやま……い、いや、ホーラーの三相女神も負けてない。で、でもレッドライダーを渡すということは、残りの黙示録の騎士も小夜に行くということで……うぐぐ!」


 なにやら懊悩していたアンナだが、ふぅ……と小さく息を吐くと、普通の表情に戻っていった。


「まぁ、先輩のことでしょうし、単純に相性の問題とかで他意はないんでしょうし、良いか。有難く、カードはいただきます」

「あ、ああ……俺が留守の間、頼んだ」

「お任せください」


 ビシッとアンナが敬礼を返してくる。


「さて、それじゃあ、完全沈静化するとするか」


 特筆すべき中身は入っていなかったガッカリ箱を開け、コアルームへと入る意思を持ってゲートを通る。


「カードキーは……絶対解除持ちは無しか」


 一応見てみた主のカードキーの中には、絶対解除持ちはなかった。

 それに、ちょっとホッとしたような、残念なような気分だった。

 もし絶対解除持ちがあっても、さすがにこの立川でCランク迷宮を消滅させるのはリスクがあるからだ。

 悩まずに済んでホッとしたような、この迷宮では絶対解除持ちが手に入らないとわかって残念なような、複雑な気分だった。


「でも、その代わりに四天王はすべて出現するようですね」

「そうだな」


 アンナが言う通り、浮かぶカードキーの中には、四天王たちのカードがすべて浮かんでいた。


「他の四天王も今回のように交渉次第でカード化できるかもしれませんし、これからも積極的に学校の迷宮を攻略していこうと思います」


 ガーネットとダイヤも手に入りますしね、と笑うアンナに「頼んだ」と笑い返す。

 そして、コアへと近寄り、触れると……。


「うん、ちゃんと完全沈静化できたか」


 俺たちはいつの間にか迷宮のゲートの前に立っており、ゲートは白く変わっていた。


「出たのは……大通連か」


 まぁ、アタリの部類だろう。


「鈴鹿、どうだ?」


 もしかしたらアイギスのようにアイテムのさらなる力を引き出せるのでは? と鈴鹿へと大通連を渡して見ると、彼女はしばし静かに目を瞑り。


「うん、私の中の三明の剣が共鳴するのを感じる。これを使えば、より広範囲に攻撃できそう」

「そうか!」


 これで、三明の剣のスキルも、魔道具の三明の剣でパワーアップできることがわかった。

 もし三振り揃えたら、範囲絶対命中攻撃が連発できるようになるかもしれない!


「アンナ、この大通連は貰っても良いか?」

「もちろん、どうぞどうぞ!」


 一応アンナへと確認してみれば、快く快諾してくれた。


「ありがとう」

「いえいえ。しかし、Cランククラスとはいえ、使えるアイテムが出て良かったッスね」

「そうだな、エリアAでも結構良いのが出たし」

「ほうほう、というと?」

「一枚は、これだな」


 期待に目を輝かせるアンナに、俺はホルダーからカードを取り出し見せた。


「これは、アルゴスの眼ッスか」


 アルゴスの眼。眼球のついた孔雀の尾羽で、カードで言えば戦闘力500相当のアイテムである。装備すると死角が無くなり、虚偽察知のスキルが付与される。装備せずとも使うことができ、監視カメラの代わりにも使うことが出来る。

 これで、校内の治安もより保たれることだろう。

 そしてもう一つ……。


「これはッ! 黒いカード化の魔道具……!」


 俺が取りだしたもう一枚のアタリを見て、アンナが驚きと喜びに目を見開く。

 一日に十枚分のカード化が可能な黒いカード化の魔道具は、いくらあっても良い代物だ。

 今までは唯一の一枚を俺が持ち歩いていたが、これで学校にも一枚預けることができる。

 物資の保管から、交易、家の移動、モンスターのカード化まで、大いに役立つことだろう。


「あとは、残念ながら普通にCランククラスのアイテムだった」


 それも、特に特筆すべきものはない物だ。


「まぁ、Bランク相当と、黒いカード化の魔道具が出ただけも十分アタリでしょう」


 ニンマリと嬉しさを隠しきれないアンナに、俺も「だな」と頷き返す。


「それじゃあ、そろそろ部室に戻るとしますか」

「ええ、小夜も待ってるでしょうしね」


 思わぬ収穫に、俺たちは軽い足取りで部室へと向かうのだった。


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