第11話 黄龍エリアへ
その後。
一通りウチのカードとサラちゃんを顔合わせすると、俺はそろそろお暇することにした。
幸い、蓮華を除いてサラちゃんとウチのカードたちの相性は、意外と悪くなかった。
お互いに好印象っぽかったのが、メア、ユウキ、ドレス。悪印象組が、蓮華、鈴鹿、アテナ。その他は普通といった感じだ。
特に、話が合ったのがメアで、俺としては少し意外なところだった。
蓮華と一番仲の良い彼女とは、相性が悪いと思っていたからだ。
だが、考えてみれば、メアは愛ともあまり仲良くはならなかった。
蓮華と仲良くなったのは、タイプが真逆だからこそで、タイプとしてはむしろサラちゃんの方と合うのかもしれない。……同じメスガキタイプだし(蓮華はクソガキタイプ)。
ユウキも「昔のメアちゃんみたいで可愛いです」とのことで、ドレスとも波長が合うのか、結構話していた。
一方、悪印象組は、蓮華が完全に興味無しといった感じで、鈴鹿は「陽キャ、嫌い!」といつもの陽キャアレルギーを起こし、アテナも「ああいう、恥じらいの無い振る舞いは好みませんね」と言った感じだった。
まぁ、全員と相性が悪いわけではないと知り、一安心だ。
今は仲が悪い組とも、そのうち仲良くなるかもしれないしな。
「おかえりなさい……あの、そちらの方は?」
サラちゃんを連れて、星母の会の自室へと転移すると、いつものように出迎えてくれた千歌ちゃんが、見知らぬ少女の姿に不思議そうに小首を傾げた。
「こちらは、知人の娘さんのサラちゃん。しばらく行動を一緒にすることになった」
続いて、サラちゃんへと振り返り言う。
「ここは、星母の会のシェルターの俺の部屋だ。しばらくは、ここを拠点として活動する」
サラちゃんのことがある程度まで信頼できるまで、家族や仲間たちのいる立川に連れて帰るわけにはいかない。
しばらくは、この星母の会のシェルターで過ごすつもりだった。
門の神の権能で、各地に行くことを考えても、実際この方が効率的だろう。
「というわけで、これからはここで寝泊まりすることもあると思うけど、大丈夫かな?」
「はい、もちろんです。ここは、北川さんのお部屋ですので。夜は私も自室に戻りますので、ご安心ください」
千歌ちゃんは、ようやく自分の仕事ができるとばかりに真剣な表情で頷く。
それからサラちゃんの方を向いて。
「牛倉千歌です。よろしくお願いします」
「…………………………」
年下の少女にもしっかりと頭を下げて挨拶をする千歌ちゃんに、しかしサラちゃんは千歌ちゃんを呆けた顔で見つめるばかり。
「……サラちゃん?」
「え? あ、う、うん……よろしくね?」
その様子を怪訝に思いつつ、声を掛けると、ハッと我に返ったように、サラちゃんは戸惑いがちに千歌ちゃんへと挨拶を返した。
「は、はい……よろしくお願いします」
「うん、よろしく……」
様子のおかしいサラちゃんに、戸惑いがちに千歌ちゃんがもう一度そう言えば、なぜかサラちゃんも再度よろしくと返す、なんだか奇妙な空間が生まれてしまった。
……なんだ、これ? なんか急に借りてきた猫みたいに大人しくなっちゃったんですけど。
と、俺が戸惑っていると……。
「これは、もしや……」
透明化して見守っていたアテナが、そうポツリと呟いた。
「どうした、アテナ?」
『もしかしたら……ですが、これは魂の共鳴かもしれません』
『なんだと……?』
咄嗟にテレパスに切り替えて問い返す。
千歌ちゃんとサラちゃんは、愛とアテナのような関係ということか?
だが、魂の共鳴は、その人物と絡んだ不幸から生まれたモンスターとの間に起こるもののはず。
人間とのハーフであるネフィリムとの間にも、起こりうるものなのか?
『わかりません……そもそもこれが魂の共鳴なのかどうかも。しかし、高位の霊格を持つ存在が、マスターでもない初対面の人間にこれほどの関心を示すケースは、それぐらいしか……』
『ふむ……』
確かに、人間とカードの両方の力を持つネフィリムは、その魂もカード準拠の格を持つはず。
魂の格が高くなるほど人間を下等な存在としか思えなくなるという性質を考えれば、初対面の人間に感心を示すのは、魂の共鳴としか考えられないが……。
『……今は、保留だな』
少し考え、俺は思考を打ち切った。
いずれにせよ、今はどれだけ考えても答えは出ないだろう。
とりあえず、これからここを拠点とする上で、サラちゃんと千歌ちゃんの相性が悪くなさそうで良かったと思うとしよう。
『サラのことはともかく、これからどうする? さっそく、同盟候補のところに行くか? それとも適当なCランク迷宮を攻略してクリアランスレベルCの正規カードキーを確保しに行くか?』
蓮華の問いかけに、俺は少し考え、首を振った。
『いや、それよりも先に十六夜商事と再交渉を行う』
親父の身の安全を考え一度は却下した十六夜商事との再交渉だが、蘇生スキルの存在により事情が変わって来た。
十六夜商事と再交渉で俺が警戒したのは、俺のカードたち目当てに親父が人質に取られることだ。
正確に言えば、人質に取られた親父の奪還の最中に、親父の身に危険が及ぶ可能性である。
万が一、億が一にも親父が失われる可能性は、ゼロとしなくてはならない。
だが、蘇生スキルという手段を得た今なら、最悪の事態も避けられる。
もちろん、そうはならないように最大限立ち回るつもりであるが……蘇生スキルは、わずかに存在していたリスクを取り除いてくれた。
というわけで、さっそく親父へとメッセージを送る。
親父へと『十六夜商事と再交渉がしたいんだけど』と送れば、すぐに『了解。上に掛け合ってみる』との返事が返って来た。
良し、後はあちらの返事待ちだ。
サラちゃんを迎えに行く前に予めアポを取っておく、というのも考えたが、何らかのトラブルでサラちゃんが合流できなくなる恐れもあったからな。
さすがに、サラちゃんの同行無しに、十六夜商事と再交渉するのは怖い。
最悪、砂原さんの元まで親父の遺体を運べれば蘇生の望みはあるとはいえ、絶対結界に閉じ込められるという恐れがある以上、やはりその場で蘇生が可能となるサラちゃんの同行は、再交渉には必須だった。
「さて、あちらの返事が来るまでどうするか……」
サラちゃんの力を確かめるという意味でも適当なエリアのCランク迷宮でも攻略しにいくか?
『歌麿。時間に余裕が出来たなら、黄龍と遭遇したエリアの調査に行ってみるのはどうですか?』
そんなことを考えていると、アテナが言った。
『黄龍のエリアか……』
確かに、それはアリかもしれない。
キンタマーニの効果がわかる前は、あえてギルドを滅ぼすような戦力がいる地域を調べるメリットも薄く、キンタマーニの効果がわかった後も聖女からの呼び出しからの鳥取エジプト王国訪問とイベント立て続けに起こり後回しになっていたが……蘇生スキルという保険も出来たことだし、そろそろ調べて見ても良いだろう
もしかしたら黄龍が確定ドロップする地域かも知れないし、それを抜きにしても、あのエリアには確かギルドがあったはず。
調べる価値はあった。
『そうだな……悪いがまずはカードたちだけで偵察に行ってもらって良いか?』
『メンバーはどうしますか? さすがに、ここは敵地ですし、身の守りを全く置かないというのもどうかと思いますが』
アテナが、チラリとサラちゃんを見ながら言う。
ここが星母の会のシェルターというだけでなく、信頼できない存在の近くに俺だけを残しておきたくないようだ。
とはいえ、さすがにサラちゃんをいきなり危険地域に派遣するのもな……。
カードの蘇生のことを考えれば、できれば彼女は安全地帯に置いておきたいところではある。
かといって、俺もいきなりノーガードになるほど能天気でもない。
諸々のパワーバランスを考えるなら……そうだな。
『鈴鹿とオードリーは残す。悪いが、残りのメンバーで行ってもらえるか?』
Aランクの霊格再帰を持つ鈴鹿と、絶対防御を持つオードリーがいれば、カードたちが戻ってくる程度の時間は稼げるだろう。
『まぁ、蛆虫はともかく、オードリーがいるなら妾たちが戻ってくるまでの時間は稼げますか』
『黙れクソガキ』
隙あらば鈴鹿をディスるアテナだが、実際にオードリーだけを残すと言った場合は、それでは足りないと言っていたことだろう。
何だかんだと彼女も鈴鹿の力を認めている…………はずだ。
『じゃあ、ハーメルンの笛を……っとその前に』
イライザに演奏を頼もうとして、一つ重要なことを済ませていなかったことを思い出す。
『ドレスのカードキー化をしておかないとな』
『待ってました!』
デュラハンのカードキーとネヴァンのカードを取り出しながら俺がそう言えば、ドレスが歓声を上げた。
砂原さんのところでネヴァンのカードを手に入れてから、ずっとソワソワとしていたからな、と苦笑する。
さて、まずはランクダウンからだ。
まさか、ネヴァンほどのBランクカードをCランクにランクダウンさせることになるとはな……。
少し……いや、かなり勿体ない気分になりつつ、ドレスをデュラハンへとランクダウンさせる。
【種族】デュラハン (ドレス)
【戦闘力】1600(MAX!)
【先天技能】
・産声は死の始まり
・亡者にも鎧
・静寂の馬車
【後天技能】
・七転八起
・不屈の精神
・眷属強化
・遠見の術
・メイドマスター:メイド、低級収納、秘書、教導、献身の盾、戦術、服飾家スキルを内包する。
・限界突破
・高等忍術
・怪力→金剛力:筋力が常時、極めて大きく向上する。
・生命の泉
・生還の心得
・弱点無効
・かくれんぼ
・文武一道
・物理強化
・ヴィーヴィルの瞳
・巨神化
・真なる者
・真眷属召喚
・無拍子
・韋駄天:俊敏が常時、極めて大きく向上する。
・金剛体:生命力と耐久力を常時、極めて大きく向上させる。
「ッ!?」
思わず、驚きの吐息が漏れる。
元々カードキーデュラハンが持っていた無拍子、金剛力、金剛体、韋駄天のスキルが引き継がれたのは良いとして。
今回の玉手箱の修行で得た見切り・直感のスキルと、演奏と舞踏のあまり使わなかった技術系スキルが消えている……。
ランクアップで後天スキルが必ず引き継がれるとは限らないとは聞いていたが、今まで引継ぎに失敗したことは無かったのに……。
ランクアップではなく、ランクダウンだからか? デュラハンとなったことで、スキルの習得枠等に変動があり、スキルが削除された? いや、スキルの習得枠に関しては限界突破があるし、何よりスキル枠の問題ならマスタークラスであるメイドスキルの中から技術系スキルが消えたのはおかしい。
やはり、ランクダウンはランクアップよりもスキル引継ぎ失敗の可能性が高まると見るべきだろう。
クソ、ランクダウンにこんな思わぬ落とし穴があったとは……!
今まで一度もスキルの引継ぎに失敗しなかったことが育成型冒険者としての密かな誇りだったのに。
……まぁ、いい。消えたスキルのことは惜しいが、また再取得は容易だしな。
金剛力等のスキル分、大きくプラスだ。
むしろ気になるのは、ネヴァンにランクアップさせた時、消えたスキルが戻るかどうかだ。
というわけで、その場でネヴァンのカードへとランクアップさせる。
【種族】ネヴァン (ドレス)
【戦闘力】2450(800UP!)
【先天技能】
・死と勝利の戦女神
・三相女神
・破壊と殺戮と勝利の宴
・毒のある女
【後天技能】
・七転八起
・不屈の精神
・眷属強化
・遠見の術
・メイドマスター:メイド、低級収納、秘書、教導、献身の盾、戦術、服飾家スキル、戦士を内包する。
・限界突破
・高等忍術
・金剛力→力の泉(CHANGE!)
・弱点無効
・かくれんぼ
・文武一道
・ヴィーヴィルの瞳
・巨神化
・真なる者
・真眷属召喚
……新しくスキルは消えなかった。が、消えたスキルも戻らなかったか。
それに、戦闘力も、成長分がちょっと減っているな。これはデュラハンの成長分が800までだったせいだろう。
だが、今はそんなことはどうでも良い。
重要なのは、この新しく取得した力の泉のスキルだ。
力の泉:無限に湧き出す力の泉。物理系スキルの習得率向上。物理系ローカルスキルの習得可能。状態異常耐性を常時大きく向上させ、近接戦闘時に極めて強いプラス補正。気配察知、気配遮断、自己再生、持続回復、物理強化、無拍子、金剛力、金剛体、韋駄天、生還の心得を内包。
力の泉は、知恵の泉の近接戦闘バージョンだ。様々なステータス向上系のスキルを内包し、物理系のローカルスキルの習得を可能とする。
ランクアップ先のネヴァンが元々持っていたステータス向上系スキルや気配遮断などのスキルと共に取り込まれた結果、ようやく習得に至ったようだ。
これまで知恵の泉があっても、そのローカルスキルが少しでも物理系の領分が入っていると習得はできなかったが、これでようやく普通に習得できるようになったわけだ。
……とはいえ、ローカルスキルの取得は、さすがに自力取得は難しく、そのスキル持っているカードが必要になるだろうが。
今となっては、海外のカードはより入手が難しくなっているだろうし、案外それが実質的なスキル習得の制限となっているかもしれなかった。
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