第3話 取引②
「では、こちらが交換可能な物品およびサービスのリストになります」
翌日。俺たちに宛がわれた小部屋にて。
俺は、朝早くから重野さんとイレギュラーエンカウントの魔石のトレード交渉を行っていた。
差し出された分厚いバインダーを手に取りながら問いかける。
「サービスとは?」
「ギルドが図れる便宜って感じですかね? まあ詳細も載ってますので、見ればわかるかと」
「なるほど」
「浦島太郎の魔石で百億円分。ハーメルンの笛吹き男の魔石は特に大きいので百二十億で換算させていただきました。その範囲内でお選びください」
ふむ。
俺はバインダーをパラパラと捲るフリをして、まずヴィーヴィルダイヤがあるかと確認した。
うん、あるな。数は十個だけだが……これでトレードすることは確定した。
問題は残り分、欲しいモノがちゃんとあるかだが……。
「……Bランクカードは無しですか」
「すいません、すでにアルテミスをお渡ししている以上、さらにBランクカードが減るとギルドの防衛にも影響が出る、と」
そう言って小さく頭を下げてくる重野さん。
なるほど、まあ仕方ないか。
魔道具とサービスとやらに良いのがあるといいのだが……。
まずは、魔道具のリストの欄を見てみる。
んー……やはり高額の魔道具は、使途不明のモノも多いな。
一昔前であれば、これらの使途不明のアイテムは割と投げ売りされていたのだが、霊格再帰の発見からは希少度に比例してそれなりの値がつけられるようになってしまっていた。
俺はリストを指さしながら問いかける。
「これらのアイテムって実際に見せていただくことってできるんですか?」
「うーん、すいません、量もそれなりに多いですし、モノによっては場所を取るものもあるのですべてはちょっと……。数点ほどであれば大丈夫だと思いますが」
「そうですか」
となると、ウチのカードに見せてキーアイテムかどうか判別することはできないか。
さすがにキーアイテムかどうかわからないモノを買うのは博打が過ぎるな。
そう思いながら順番に見ていると、とあるアイテムで目が留まった。
『大鬼の腕:使途不明。Aランクモンスター茨木童子からのドロップアイテム』
茨木童子。日本三大として有名な酒呑童子の最も重要な部下であり、かの渡辺綱によって討たれた伝説の鬼だ。その際に使われた刀が、髭切……。
鈴鹿の瀬織津媛(せおりつひめ)と同一視される橋姫は、同じく渡辺綱に討たれていることから茨木童子とも同一視されることがある。
その流れから「ワンチャンあるかも」とアンゴルモア前にアンナから髭切を買いとっていたのだが、瀬織津媛にランクアップ後、玉手箱の中で試しに髭切を見せてみたところ、鈴鹿はこれに反応を示しつつも霊格再帰には至らなかった。
Aランクへの霊格再帰には、髭切では些か入手難易度が低く、鈴鹿御前のキーアイテムが複数必要だったように茨木童子も他にキーアイテムが必要なのだろう、と考えていたのだが……まさかここでお目にかかるとはな。
値段は、ふむ、二十億か。使途不明でもAランクモンスターからのドロップならこんなものだろう。
これは確定として、他に目ぼしいアイテムは……。
魔道具の欄を隈なく見て行くが、特にこれといったモノはなかった。
億以下のアイテムで色々と便利そうなモノは見つかるのだが、どうしても欲しいという物でもない。
残り金額、全部カーバンクルガーネットにできればベストなのだが、それはさすがに不自然だしなぁ……。
内心でため息を吐きながら仕方なくサービスのページへと進む。
なになに? ギルドシェルターの私室使用権? 要らんな。マヨヒガがあるし、最悪廊下でも良い。
施設優先利用権。ふーん、ギルドのシェルターも漫画喫茶とか映画館があるのか。それらの予約や列に並ばなくともいつでも好きな時に使える権利、と。……他の避難民とのトラブルになりそうだな。却下。
全国のシークレットダンジョンマップとその使用権? う、これはちょっと欲しいかも。……でも空間が隔離されてる状態じゃあなあ。
黒いカードの魔道具レンタル。……えっ? 繰り返し使用可能なカード化の貸し出し!? 値段は、百億!?
おいおい、マジかよ、これ……。
所持禁止類魔道具をギルドが貸し出すと言うのも驚きだが、値段も驚きだ。
どうする? 一日十枚分とはいえ、繰り返し利用可能なカード化の魔道具は魅力的だ。
だが、百億という価格は、さすがに高すぎる。
ハーメルンの笛吹き男の魔石でもヴィーヴィルダイヤか茨木童子の腕のどちらかを諦めなくてはならない。
ヴィーヴィルダイヤを諦めると言う選択肢はないので、必然的に茨木童子の腕を諦めるということになる。
それは、さずがに惜しい。かといって魔石を二つとも交換するのも……ちょっと交渉してみるか。
「すいません、このカード化の魔道具のレンタルについてなんですが」
「ああ、やはりそれに眼をつけられましたか」
重野さんは、苦笑した。
「ええ、これって買い取りではなく、レンタルなんですよね? 期限はいつまでですか?」
「アンゴルモアが終息するまで、ですね。あくまで功労者に対する、緊急事態故の特例措置という形になりますので」
「アンゴルモアが終了したら即没収と言うことですか……文明が復興していなくとも?」
「はい」
「またアンゴルモアが始まったらまた貸し出して貰えたり?」
「いえ、今回だけです」
「……さすがにそれで百億はちょっと高くないですか? 一日十回使ったとして元手を取るには千日も掛かるのに……。せめてコレとコレもセットでつけてもらえませんか?」
「うーん、この値段は本来所持すら禁止の物に対する諸々の許可を含めてのものなのですが……そうですね、これを外すなら」
「なら代わりにこれらを――」
「それなら、ちょっと減らして――」
「オマケにこれも――」
それから俺たちはブラフを挟みつつやり取りを続け……。
「うん、ではこれで交渉成立と言うことで」
「ありがとうございました」
お互いにそれなりに満足できる妥協点を見つけ出し、握手を交わした。
最終的に、俺は浦島太郎の魔石と引き換えに、以下の品を手に入れた。
・黒いカード化の魔道具
・茨木童子の腕
・ヴィーヴィルダイヤ十個(在庫全部)
・一億以下の魔道具詰め合わせ、十億円分
・全国のシークレットダンジョンマップとその使用権
本命の三つに加え、こまごまとした便利な魔道具と、オマケにシークレットダンジョンのマップも手に入れた。最低限目標は達した形である。
まあ、最初からカード化の魔道具は高めに設定されていた感じだし、交渉においても重野さんに手加減されている気配はあったが……結果良ければそれで良しだ。
重野さんからカード化された物品を受け取り、愛のマヨヒガへと戻るとさっそく俺はヴィーヴィルダイヤを使用した。
「……ちょっと残ったか」
ハーメルンの笛吹き男戦で背負った巨大な因果律の歪みは、ヴィーヴィルダイヤ十個でも帳消しできるものではなく、大きさにして大体二か月分くらいの歪みが残ってしまった。
二か月分、なんとも微妙なラインだ。
「さて、どうするか。安息日を待つべきか、否か」
アンゴルモア中のモンスターには、そのランクごとに活動のサイクルがある。
迷宮から出てきたモンスターたちは、常時活動し続ける迷宮内と違い、積極的に暴れまわる活動期と、あまり動かずエネルギーを蓄える休眠期を繰り返すと言われている。
そのサイクルはランクごとに異なるとされ、
『Fランクモンスターは、27日動き1日休む』
『Eランクモンスターは、26日動き2日休む』
『Ⅾランクモンスターは、13日動き1日休む』
『Cランクモンスターは、12日動き2日休む』
『Bランクモンスターは、6日動き1日休む』
と言われている。
このモンスターの休眠期を安息日と呼び、すべてのモンスターの安息日が重なる日を『完全休息日』と呼ぶ。
この安息日は、モンスターが迷宮から出てきたタイミングによって多少のズレが出てくるため完全にあてになるわけではないのだが、少なくともアンゴルモアが始まって最初の安息日に関しては、それなりにあてになると言われている。
Bランクモンスターの安息日は七日に一日。因果律の歪みもあることだし、万全を期して安息日に動くべきなんだろうが……。
「一刻も早く、お袋やアンナたちと合流したいからな」
さすがに安息日しか動けないのは効率が悪すぎる。ここは多少のリスクはあるが、鈴鹿が霊格再帰に覚醒できれば大丈夫……なはず。
というわけで俺は鈴鹿を呼び出した。
「マ、マスター! 早く! 早く!」
俺がトレードするところをカードの中から見ていたのだろう。鈴鹿は現れるなり、飢えた犬のように催促してきた。
「ああ、わかったから、落ち着けって」
と宥めつつ俺は、茨木童子の腕のカードを解いた。
俺の目の前に、まるで巨大なミイラ状の腕が現れる。それは枯れた枝のようなというには太く長く、もはや乾いた丸太のようであった。
「お、おおお!」
それを見た鈴鹿は、感動に身を震わせ、眼を輝かせた。
「苦節十年! 永遠の二番手三番手を強いられていた私が、まさかAランクに一番乗りになる日が来るなんて!」
……お前と出会ってから十年もまだ経ってないだろ。
内心で呆れる俺を他所に、鈴鹿は茨木童子の腕を掴むと叫ぶ。
「ついに私が一番手となる時!」
鈴鹿の右腕に、ミイラ状の腕が溶けるように取り込まれていく。
「うおおおお! ……あれ? 変身できない、なんで????」
そのまま勢いのままに霊格再帰しようとした鈴鹿が、変身できずに首を傾げる。
俺はため息交じりに言う。
「お前、まだ髭切があるだろうが」
「あ、そっか」
「それと、まだ変身すんな。この後、階段の調査に行かなきゃいけないんだから」
「ぁう……つ、つい。ごめん、マスター」
まったく、念のため一緒に出さなくて良かった、と安堵しながら俺は髭切を取り出す。
鈴鹿がそれを受け取ると、髭切は朽ち果てるように端から崩れ去っていった。
同時に、彼女のカードが光を放つ。
【種族】瀬織津姫(鈴鹿)
【戦闘力】1400(初期戦闘力750+成長分450+霊格再帰分200)
【先天技能】
・祓い水に流す祓戸大神(はらえどのおおかみ):水の流れを司る水神にして穢れを払う祓神である瀬織津姫の権能を使用可能。
・浄化の水垢離:清めの水を降らし、場の穢れを根こそぎ洗い清める。敵味方全員の状態異常を治し、一定時間状態異常を無効化する空間を形成する。
・清濁併せ吞む水の理:同一視される橋姫の力を内包し、眷属として召喚することができる。無限召喚型。橋姫の先天スキルをすべて内包する。
・高等魔法使い
【後天技能】
・目隠し鬼
・武術→狩人(CHANGE!)
・見切り
・良妻賢母:料理、清掃、育児、性技を内包する。
・虚偽察知:対象の偽りを見抜く。
・友情連携
・気配遮断→かくれんぼ(CHANGE!)
・零落せし存在→霊格再帰(CHANGE!)
・剣術
・鑑識眼
・詠唱短縮
・生還の心得
・戦術(NEW!)
・弱点無効(NEW!):弱点属性や特攻による補正を無効する。
「おお! 霊格再帰になってる!」
劣化していた中等魔法使いが高等魔法使いに。いくつかのスキルがランクアップし、生還の心得スキルが解放されたか。弱点無効は、髭切の影響だろうか?
気になる茨木童子としての能力は、実際に使ってみるまでお預けだな。
……さて、これで準備は整った。
いよいよ階段の調査だが、その前にもう一つだけ仕事がある。
俺は、はしゃぐ鈴鹿を送還すると、愛の元へ向かった。
「愛、ちょっと良いか? 話がある」
「な、なに?」
布団の上でじっと自分のカードを見ていた愛へと声を掛けると、彼女は嫌な気配を悟ったか微かに顔を曇らせた。
それに若干心を痛めつつ、俺は彼女の正面に座り、話し始めた。
「愛、外は今ちょっとおかしなことになってる。見えない境界線みたいなのがあって、その先に行けなくなってるんだ」
「うん……」
「俺は明日からどうにかお袋たちのところへ行けないか調査に行くから、愛は大人しくここで待って――」「嫌ッ!!」
俺が最後まで言い終わる前に、愛が立ち上がり小さく叫んだ。
「私も一緒に行く!」
「愛……」
「お兄ちゃんと一緒が一番安全だもん! 絶対付いて行くから!」
「う、む……」
愛の反論に、俺は思わず唸った。
確かに、ギルドで待つ方が安全とは、言い難いのも事実であった。
ギルドには、仕方ないとはいえハーメルンの笛吹き男に子供たちを攫われたという前科があり、また子供たちを失った親の中には愛を逆恨みする者もいることだろう。
それらからギルド職員が愛を守ってくれるかは定かではなく、そればかりか最悪の場合、妹を俺に対する人質とする可能性もあった。
被害妄想と一笑するには、俺はギルドに対して力を見せすぎた。
なんせ、愛を人質に取るだけでAランクのイレギュラーエンカウントを倒せるだけの戦力とその魔石、失った転移門の代わりとなる転移能力が手に入り、ついでに支援としてあげてしまったアルテミスの回収もできてしまうのだ。
まさに一石二鳥。いや、四鳥か。悪人でなくとも心が揺れるには、十分な誘惑だろう。
重野さんは信頼できる大人であるが、すべての大人がそうとは限らない。
愛が俺のアキレス腱となる以上、その警戒をしないのは、もはや間抜けとしか言いようがないだろう。
これで、因果律の歪みの問題が残っていれば話は別だったが、それも大体解決している。
アテナもいることだし、総合的に見れば、俺の傍の方が安全と言えなくもなかった。
……それに階段の先が一方通行という可能性もある。
そうなれば、俺と愛までもがバラバラとなってしまうリスクすらあった。
「……仕方ない、か」
俺は小さく呟くと、カードホルダーからカードを取りだし、愛へと差し出した。
「これ……」
「お守り代わりみたいなもんだ」
それは、スレイプニルとノーマル吉祥天のカードだった。
いくらかあるBランクカードの中でこの二枚を渡したのには、もちろん理由がある。
それは、この二枚に関しては全くのド素人である愛でも使いこなすことが出来るからだ。
スレイプニルのような騎乗系の先天スキルを持つカードは、素人でも扱いやすい気質のモノが多く、加えてこのスレイプニルは従順の後天スキル持ち。
ノーマル吉祥天に関しても厄介な神のプライドが無く、回復アイテム代わりに使っても怒らないほどに懐が深いのは、すでに確認済みである。
スレイプニルは、その移動力を活かして逃亡の足として。ノーマル吉祥天は、限界突破持ちでいざという時の戦力兼救命役として、と能力的にも愛の護衛としてピッタリなのも大きかった。
「俺の言うことは聞くこと、勝手に戦おうとしないこと、いいな?」
「うん!」
満面の笑みで頷く愛に、俺は「本当に大丈夫か?」と不安に思いながら、階段の調査へ向かった。
――――八王子から立川方面へと伸びる線路のど真ん中に、それはあった。
大型トラックがそのまま通れるくらい大きな穴。その中には、下へと続く階段が続いている。その先は不思議な暗闇が広がっており、光を照らしても見通すことはできない。
「これは間違いなく、迷宮の階段だな……」
これがマンションとかの跡地にあったのならば元々あった可能性もあっただろうが、線路のど真ん中にこんなモノがあるはずがない。
これは、間違いなくアンゴルモアが始まってから現れたのだ。
「行くぞ」
「うん……」
レギュラーメンバーをフル召喚し、俺と愛を守るように陣形を組んで一歩一歩慎重に階段を下っていく。
大体一分ほどは下り続けただろうか? 迷宮のそれよりも大分長い。
やがて前方に光が差し込み、暗闇を抜けると――。
「……神殿?」
まず目に入ったのは、ギリシャのパルテノン神殿を思わせる巨大な白亜の神殿だった。
神殿の前は広場があり、多種多様な種族のモンスターが行きかっている。
彼らの視線の先には、敷物の上に色んな物を並べたモンスターや、食べ物らしき物を売っているらしい屋台があった。
これは……市場か? まさか、モンスターが商売を行っているのか?
あまりに予想外の光景に呆然としていると、一体の女性型モンスターがこちらへと近寄って来た。
古代ギリシャのトーガ風の服に身を包んだ十代半ばほどの美少女。ブルネットの髪からは羊角が伸び、その脚は半ばから獣の物となっている。
ギリシャ神話の半人半羊の精霊サテュロス、その女性体であるマイナデスだ。
「やぁ~! こんなに早く人間さんがウチらの市場にやってくるなんてなぁ!」
にこやかに話しかけてくるマイナデスに、当然のようにこちらが戦闘態勢に移ると、彼女は慌てたように両手を上げて降参のポーズを取った。
「わぁ~! 待った待った! ウチに戦う気はあらへんって! ここは非戦闘地域やで!」
「マスター……コイツ、本当に戦う気はないみたい」
「なに? 本当か?」
「ホンマホンマ! ホンマやって!」
虚偽察知を持つ鈴鹿の言葉に、俺が確認をするとなぜかマイナデスが答えた。
信じられん……。迷宮のモンスターも虚言を弄してこちらを騙そうとしたり誘惑してくることはあるが、そこには例外なく人間に対する戦意があった。
これでは、まるでモンスターではなくカードのようではないか。
だが、周辺にこのマイナデスらしきマスターの気配はない……。
一体どういうことだ? と首を傾げつつ、内心の警戒は解かないままに、表面上の戦闘態勢を解くとマイナデスはあからさまにホッと胸を撫でおろして見せた。
「お兄さんたちみたいに強そうなカードを従えとるお人にウチみたいな雑魚が喧嘩売るわけないやん! ウチはそこらで暴れとる奴らと違って枷から解かれてるんやから」
……枷から解かれている、だと?
「それは、どういうことだ?」
「うーん……情報も商品やからホンマは対価を貰わへんといけへんのやけど、言わへんと商売もできへんにないし、しゃーないか」
俺の問いにマイナデスは最初迷う素振りを見せたが、結局は素直に答えた。
「ここはヘルメスさまの領域やから、商売する意思さえあればウチらみたいなモンでもある程度枷から解放されて普通に過ごせるってわけ」
ヘルメス様は商売の神様やからな。
と言うマイナデスに、しかし俺たちの疑問は逆に深まるばかりだった。
「さ、これでウチらが無害ってわかったやろ? それじゃなんか買って――」
「待て待て待て待て!」
次へと話を進めようとするマイナデスに、俺は慌てて問いかけた。
「領域ってなんだ? 枷から解放されたってどういうことだ?」
「兄ちゃん、それはさすがに欲張りすぎやで」
マイナデスは、厭らしい笑みを浮かべ言う。
「情報も立派な商品。これ以上詳しい話を聞きたいなら出すもん出してもらわへんと」
「……出すもんとは?」
「そんなん魔石に決まっとるやろ。物々交換でもええけど、その方がわかりやすいやろ?」
ふむ、魔石か……。
「内部のエネルギーだけで良いか?」
俺がハーメルンの笛吹き男の魔石を取り出しながら言うと、どよっ! と周囲のモンスターたちからざわめきが起こった。
「おお!? 兄ちゃんとんでもないもんもっとるやんけ! それがあるならここじゃ買い放題みたいなもんやで!」
兄ちゃん、お大臣様やったんやなぁ! と俺を褒めたたえながら、マイナデスはこちらへとジリジリ寄ってこようとするモンスターたちを眼光鋭く牽制した。
「ここじゃ落ち着いて話せへんから場所移さへんか?」
俺たちは周囲を見渡し、それに頷いたのだった。
【Tips】玉手箱
イレギュラーエンカウント・浦島太郎が落とす異空間型の魔道具。
内部に異空間があり、その中で過ごしている間は外では時間が経たず、歳も取らない。
ただし、玉手箱から一歩でも出た瞬間、内部で過ごした時間に応じた『老い』が、利子付きで使用者に降りかかる。
利子は内部で過ごした日数の二乗であり、2日(24時間以上48時間未満)なら4日分の、30日なら900日分の、1年なら365年分もの『老い』が降りかかってくる。
まさしく、童話の浦島太郎の境遇を再現した魔道具。
1日以内に出れば利子はつかないが、玉手箱内には1日1回しか行けない。
また『老いの利子』が使用者の残りの寿命を超えた時点で強制的に排出される。
玉手箱内では、『中でどれだけ過ごしても歳を取らない』という効果の副作用からかステータスも変化しないが、内部では熟練度が蓄積されており、それらは玉手箱から出た瞬間に反映される。
スキルや魔道具の使用回数、霊格再帰も回復するが、因果律の歪みは中でどれだけ過ごしても減少しない。
物資の持ち込みは無制限(これを持っていくというはっきりした意志が必要)であるが、内部にそのまま置いて出ることはできない(外へ出た瞬間、内部の物は外へ無造作にばら撒かれる)。
所有者以外の人間や、所有者のカードだけで玉手箱を使うことはできない。
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