第18話 高収入-経費=無所得



「よぉ、大変だったな。見てるこっちが冷や冷やしたぜ」


 小野との会話が終わり、席につくと真っ先に話しかけてきたのは東西コンビだった。

 西田が俺の肩を叩きながらそう言うと、東野も「ナリキンへの啖呵はスカッとしたよ」と笑った。


「あ、あぁ。……あのさ」

「しかしマロが冒険者だったとはなぁ。あのバイト漬けの日々はそう言うことだったんだな」

「正確にはいつごろから始めたんだ?」


 冒険者になったこと黙っててごめん、そう言おうとした俺だったが会話の流れに押し流されてしまった。

 とりあえず西田の質問に答える。


「あー、十月の終わりくらいだよ」

「マジで最近じゃねぇか」

「それでもう二ツ星かよ、すげぇな。よくわからないけど、一ツ星から二ツ星になるだけでも大分大変なんだろ?」

「あ、ああ。Fランク迷宮は日帰りで攻略できるところも多いけど、Eランク迷宮はどうしても泊まり掛けの攻略になるから。罠とかも多いしな」

「はぁ〜、そりゃ大変だわ」

「やっぱ楽して金を稼げる仕事なんてねぇんだな」

「でさ、マロはどんなカード持ってんだよ」


 西田が眼を輝かせて問いかけてくる。

 俺がそれにカードを取り出そうとすると、東野が西田を制した。


「よせよ、どうせクリスマスにはテレビで見れるんだからそれまで楽しみにしておこうぜ」

「ああ、それもそうだな。ってか、大丈夫なのか? 小野に誘導されるように大会に出ることになっちまったけど」

「ああ……正直気が進まないところもあるけど、良いチャンスだとも思ってるよ」


 頬を掻きながらそう言うと、東野は納得したように頷いた。


「そうか……まあプロ目指してるんだもんな」

「クラスの奴らは面白半分だけどさ、俺らはマジで応援してるから。頑張れよ」

「ありがとう……」


 友人たちからの心からの応援に胸が少しだけ熱くなった。

 冒険者になることを黙っていたというのに、変わらずに接してくれる。冴えない奴らだが、間違いなく良い奴らだった。


「ところで、実際ちょっとくらいは勝てそうなのか?」

「ベスト4……は無理としても、二回戦くらいは勝てそう?」

「馬鹿! プレッシャー掛けるのはやめろよ。一回戦で負けたらかわいそうだろ?」

「あ、ああ、そうだな、ごめんマロ」

「お前ら……」


 応援していると言っておきながら実際はまるで期待していない様子の悪友たちに、俺は頬を引きつらせる。

 俺は、フンと鼻を鳴らすと、不敵に笑った。


「まあ見てな。俺の力を見せてやるよ」






「うわ〜ん! 蓮華モ〜ン、クラスの奴らが意地悪するんだよぉ〜」


 放課後。迷宮に着くなり俺は蓮華を呼び出し抱き着いた。お腹に顔を埋めるように縋りつく。

 いきなりのことにギョッと眼を見開いた蓮華だったが、すぐに状況を理解したようで……。


「しょうがないなぁ、マロ太くんは。今度はいったいどうしたんだい?」


 蓮華が俺の頭を撫でながら言う。


「かくかくしかじか、で」


 と口で言ってから俺は今日あったことを順に話していった。

 朝学校に行ったら教室の空気がおかしかったこと。俺が冒険者をやってることを勝手にばらされていたこと。嫌味な奴らが絡んできたこと。それを撃退したは良いが、小野というクラスの中心人物に、モンコロの大会に出るように誘導されてしまったこと。

 大体のあらましを聞いた蓮華は呆れたように言った。


「なるほど、それで大会に出ることになってしまったと。君は実にバカだな。まるでおだてられて木に登る豚じゃないか」

「そんなこと言わないで助けてよ! このままじゃクラスに居場所が無くなっちゃうよ〜」

「仕方ないなぁ。そんな時はコレ!」


 そう言って蓮華が袖から取り出したのは、藁人形だった。

 …………えっ?

 思わず素に戻る。


「座敷童の藁人形〜。……Om(オン)・Mahaashriye(マカシリエイ)・Svaahaa(ソワカ)」


 蓮華は最初だけドラ〇もん風の声真似をやった後、急に低い声で呪文を唱え始めた。

 藁人形が一瞬だけ黒い光を放った、ように見えた。


「ふぅ、これでマロ太くんに意地悪をしたクラスメイトに呪いが掛かったよ」

「え、どんな?」

「満員電車の中でウンコを漏らす呪い」


 ……………………怖ッ。

 え、マジで呪い掛かったわけじゃない、よね? 冗談、だよな?

 カードは迷宮以外では使えないし、迷宮の外に影響をもたらせない。迷宮内で敵に状態異常に掛けられても、迷宮から出れば解除されるのは実験で証明されている。

 まさか、噂の【呪いのカード】でもあるまいし……大丈夫、なはず。

 だが真実を尋ねる勇気は俺にはなかった。


「ごほん、ま、まあ冗談はこれくらいにして。大会に出ることになってしまった以上、できれば優勝を目指して頑張りたいと思ってるんだよな」

「そりゃあまあいいけどよ。それに出ないって選択肢はないのか? クラスの奴らなんか無視すりゃあいいんじゃねぇか?」

「まあどうしてもヤバそうならそれもありだけどさ。正直賞品が魅力的なんだよな」


 俺は大会のHPを印刷した紙を蓮華へと見せた。


「どれどれ。ベスト4に残った段階で16種のDランクカードから一枚贈呈。優勝者にはトロフィーと女ヴァンパイアか。……なるほどね」

「女ヴァンパイアは普通に買えば7、8千万はするからな。これが男のヴァンパイアとか他のCランクカードなら無理して出るつもりはないけどよ」

「もし優勝できればイライザをランクアップできるってわけか」

「ああ、俺らはどうしてもイライザに負担を押し付ける形になってるからな。ここいらで報いてやりたいと思ってる」


 俺の話を聞いた蓮華は、前髪をかき上げ小さくため息を吐いた。


「イライザのためとなるとアタシも弱いな。OK、アタシも出来る限り協力するよ」

「おお、ありがとう」

「で? 具体的なプランはあるのか?」

「ああ、まず大会のルールからなんだが……」


 俺は蓮華へと説明し始めた。

 大会は勝ち残り式のトーナメントで行われ、試合形式はスタンダードルールが適応される。

 モンコロでの戦いには、一対一のデュエル、三対三のスタンダード、数十枚のデッキを組んで戦うエキスパートルールが存在し、スタンダードルールは最もポピュラーな方式となる。

 スタンダードルールでは、選手たちは事前に十枚のカードで構成されたデッキを登録する。試合ではデッキの中から三枚を選び、戦っていく。一試合ごとの時間は十分。マスターがダイレクトアタックを受けるか、場に出ているカードをすべて失った場合敗北が確定する。試合時間を過ぎても決着がつかなかった場合、生き残っているカードの数が多い方を、同数の場合は審判が定めたテクニカルポイントで勝敗をつける。

 持ち込める道具類は、魔道具の類のみ。ただし使用できる回数は大会中五回まで。また試合中での使用に限るとする。簡単に言うと、ポーションは有りだが、催涙スプレーは無しということだ。


「とまぁ、こういうトーナメント方式の大会では、如何にデッキの枚数を減らさずに勝ち進んでいくかが重要になるわけだ。本来のメンバーをどのタイミングで出すかも重要となるな」

「現状だと、アタシとユウキ、イライザで三枚か。あとの七枚をどう決めるかがポイントになりそうだな」


 ……いや、あの蓮華さん。あと一枚うちにはレギュラーがいるんですが。


「大会まであと二十日しかないからな。俺としては十枚すべてを戦力にするのは厳しいと思ってる。初期の三枚を限界まで鍛えて、インプをDランクにランクアップさせる。残りを一芸の有るEランクカードで埋める……ってのが現実的なラインになると思うんだよな」

「ふむ……」


 俺の言葉に蓮華が一瞬考え込み。


「あのよ、アムリタを売って戦力を整えるって手もあるんじゃねぇか?」


 ああ、なるほど。当然その質問は出るか。


「いや、アムリタは保険に取っておきたい。万が一、お前らの内一枚でもロストした時に売って蘇生できるようにな」


 一億あれば、蓮華含めて全員の蘇生が出来る。俺が大会への参加を決めた最大の理由がこれだった。

 尤も、これが本当にアムリタであればの話だが。

 鑑定すれば一発でわかることではあったが、もしかしたらメンバーを失うかもしれないという危機感を持つためにあえて鑑定はしないつもりだった。


「なるほど……そういうことなら何も言うことはねぇよ」


 俺の説明を聞いた蓮華はあっさりと引き下がった。


「よし、それじゃあこれから忙しくなるぜ。目標はEランク迷宮を最低五個踏破だ!」






 その日から、俺たちの怒涛の迷宮攻略の日々が始まった。

 ギルドで予め迷宮の情報を買い、Eランク迷宮の中でも階層が浅く攻略が容易いものを選んで攻略していく。

 Eランク迷宮の踏破報酬は階層数×二万。情報料は地図と罠の種類、出現モンスターの情報で二万円ほど。最も浅い十一階層の迷宮であっても、一つにつき二十万の固定給が入る。

 俺はこの十一から十三階層ほどの浅い迷宮を休日に一個、平日には二、三日かけて踏破していった。

 移動はユウキに跨り時間と体力を節約する。それでも無理な迷宮踏破に、レストの魔法で体力を回復させても徐々に疲労が体に蓄積されていくのが分かった。


 一方、学校では少しずつ俺が大会に出るという話が広まりつつあった。

 廊下を歩くだけで視線を感じ、誰かがひそひそと俺の話をしているのも聞こえた。教師たちからも、楽しみにしてるぞ、なんて声をかけられたほどだ。

 それらの大半は好奇心や応援といったものだったが、少なくない割合で悪意的なものも感じられた。

 もし俺が大会で無様な姿をさらせば、そいつらの見えない悪意は実際に牙を剥いてくることになるだろう。プレッシャーがズンと肩にのしかかってくるようだった。


 学校でも気が休まらず、疲労はたまる一方で、俺は日に日に鬼気迫る表情となっていった。

 そんな俺を見て、クラスメイト達の眼が少しずつ変わってきた。

 当初は、実験前のモルモットあるいは舞台公演前のピエロを見るような感じだったのが、徐々に見守る様な目線へと変化してきたのだ。

 最初に声をかけてくるようになったのは運動部の連中で、疲労を取るための体操やマッサージ、果物などを教えてくれた。

 どうやら、今の俺を大会前の追い込みをしている自分と重ねたようだった。

 東西コンビも助けてくれた。ネット上で大会に出ると言っている選手の情報を集め、その手持ちなどを纏めてくれたのだ。

 不透明だったライバルたちの情報は、俺により明確な目標を与えてくれた。特に優勝候補と目される面々のカードには、大いに刺激された。


 そうして、大会までの間に俺は計九個ものEランク迷宮の踏破を果たした。合計階層数は、106階層。踏破報酬は212万円、情報料を差し引いて194万となった。

 これに道中で手に入れた魔石と魔道具、要らないカードを纏めて売却し、146万円。さらにカーバンクルガーネットが230万円の値が付いた。

 計570万。俺の貯金総額は660万となった。

 これは俺が狙っていたカードの売値とほぼ同額であった。


 そのカードの名はエンプーサ。ギリシャ神話に登場する夢魔で、真鍮の両脚、蝙蝠の羽、驢馬の尻尾を持つとされる美女である。

 サキュバスと同系統なだけはあって、Dランクカードでも屈指の人気を持つカードだ。おかげで、碌なスキルも持っていないにもかかわらず650万もした。

 俺がこれほどのハイペースで迷宮を踏破していったのは、大会までにどうしてもこのカードを欲しかったからだ。

 エンプーサは、インプがランクアップ可能なカードの一つなのである。


 大会を勝ち抜くには、主力が三枚では少なすぎる。俺はそこにどうしてももう一枚カードを加えたかった。

 最大戦力である蓮華とのシナジーを持つ彼女を……。

 インプからエンプーサへとランクアップした彼女へと、俺は名前を与えることにした。

 その名はメア。古い英語で夢魔を表す言葉だ。インプの進化先はいろいろと考えていたが、エンプーサにしたことでサキュバスを目指すことが確定したため、それに沿った名前とすることにした。


 これが今の彼女のステータスだ。


【種族】エンプーサ(メア)

【戦闘力】205(65UP!)

【先天技能】

 ・吸精:対象の魔力と生命力を吸い取り蓄えることが出来る。

 ・夢への誘い:強力な眠りの魔法を使用可能。

 ・三種の変化:美女の姿から犬、牛、驢馬の三つの姿へと変身できる。

【後天技能】

 ・小悪魔な心

 ・一途な心

 ・友情連携

 ・初等魔法使い見習い

 →初等魔法使い:簡単な魔法をすべて使用可能。


 戦闘力がすでに65UPしているのは、インプ時代に高めた戦闘力を引き継ぐことが出来たからだ。また後天技能はすべて、先天技能は初等魔法使い見習いを引き継ぎ、元々エンプーサが持っていた初等攻撃魔法を吸収してスキルを成長させることもできた。


 実はメアのランクアップをする前に適当なFランクカードをEランクカードにランクアップさせてみたのだが、そちらは高めた分の戦闘力も後天技能も全く引き継ぐことが出来なかった。

 ランクアップの引継ぎは、運と使い込み具合に左右されるとは聞いていたが、予想以上に使い込み具合が重要なようだ。

 これは他のカードたちのランクアップの参考にさせてもらおうと思う。


 ともかく、これでやれるだけのことは終わった。

 あとは、実力を出し切るだけ。

 そうして、試合当日がやってきた。





 ——モンスターコロシアム。


 それは、冒険者たちが互いのカードを駆使し戦う新しいスポーツだ。

 そもそもの始まりは、第二次アンゴルモアで東京ドームが迷宮化してしまったのが始まりだった。

 東京ドームは、迷宮としてはかなり特殊な構造をしており一日一体の主が出るだけとなっている。

 よって、それを倒してさえしまえばイベントをするには問題なかったのだが、さすがに迷宮で野球などのイベントを行うことはできず、東京ドームは巨大な箱となってしまった。


 野球は新しくドームを作るとして、なんとか東京の象徴の一つである東京ドームを有効活用したい。

 そう考えた時の都知事は、イタリアのコロッセオがやはり迷宮化してしまったことに目を付け、ギルドと協力して東京ドームをモンスターコロシアムへと作り替えたのだ。

 当初は批判もあったが、これは結果的に大成功に終わった。

 なんせ、見世物となっているのはほんの少し前まで空想上の存在とされていたモンスターたちだ。

 エルフやドラゴンなどの幻の生物たちが、時に華麗に、時に牙を剥きだしにして殺し合うさまは、人々を熱狂させた。


 毎日のようにTV放送もされ、毎週金曜夜九時に放送されている『グラディエーター』は、プロ冒険者が互いのカードをロストするまで戦うということもあって、現在視聴率一位を独占し続けている超人気番組となっている。

 コロシアムの試合を中心に生活している冒険者をグラディエーターと呼ぶが、それはこの番組が由来となっているほどだ。

 その他にも、女の子モンスター限定の『キャットファイト』や、三ツ星冒険者限定の『プロの卵たち』などコンセプトを変えたものが曜日と時間を変えて毎日のように放送されている。


 今回俺が出る『集え、学生冒険者! 超新星はだれだ!』も、『プロの卵たち』がクリスマス特番のために企画した番組だ。

 視聴率的には、『グラディエーター』の裏番組となってしまうが、それでも高校生以下の学生たちにカードバトルとは言え殺し合いをさせるというかなり攻めた企画のため、なかなかの注目が集まっているようだった。

 今回、高校生以下の部に参加した学生は全部で68名。参加は表明しても当日来なかったり、途中で参加を取り消したりした結果この数まで絞られた。

 そもそも高校生以下の冒険者が少ないことを考えても、相当の数が集まったと言えるだろう。


「…………………………………………」


 当日。俺は、東京ドームホテルの一室で静かに自分の番を待っていた。

 さすがにクリスマス特番というべきか、番組は豪勢にも選手ひとりひとりに東京ドームホテルの一室を用意してくれた。

 下手に選手同士を同じ空間においてトラブルを起こしたくないという考えなのだろう。

 俺たちも高額なカードを失うリスクで、出演料も出ないのに参加しているのだ。優勝するため、最低でもベスト4に残るためどんなことでもするという奴が出てもおかしくないだろう。

 選手同士の妨害の可能性を避けるため、戦う相手も直前までわからないようになっている。

 まぁこれは当日まで選手が本当に来るかわからないため、事前に決める訳にはいかなかったというのもあるだろうが。

 今頃、人工知能が入力されたデータをもとに盛り上がる組み合わせを作っているころだろう。

 俺は一回戦で使う予定のカードを取り出した。

 一枚は、イライザだ。


【種族】グーラー(イライザ)

【戦闘力】200(60UP! MAX!)

【先天技能】

 ・生きた屍

 ・火事場の馬鹿力

 ・屍喰い

【後天技能】

 ・絶対服従

 ・性技

 ・フェロモン

 ・奇襲

 ・静かな心

 ・庇う

 ・精密動作:より正確な動作を可能とする。

 ・演奏(NEW!):演奏技術に対する一定の知識と技能を持っている。特定行動時、行動にプラス補正。

 ・罠解除(NEW!):罠の解除に対する一定の知識と技能を持っている。特定行動時、行動にプラス補正。



 戦闘力が成長限界に達し、演奏と罠解除のスキルを得た。直接戦力に繋がるスキルではないが、彼女のスキルの数々は俺のハイペースな迷宮攻略に大いに役立ってくれた。

 ダイレクトアタックが即敗北につながるこの大会では、庇うのスキルをもつ彼女はスタメンでの出場となるだろう。

 残りの二枚はEランクカードの中からスキルに優れたものを選んだ。


【種族】ナイトメア

【戦闘力】60

【先天技能】

 ・夢魔の使い:夢魔の使い魔。睡眠状態の対象に限り、強力な吸精を使用可能。

【後天技能】

 ・気配遮断


【種族】ザントマン

【戦闘力】70

【先天技能】

 ・眠りの砂:触れたものを眠りに落す砂。

【後天技能】

 ・状態異常強化:状態異常を強化する。

 ・先制攻撃:最初の行動に強いプラス補正。


 Eランク迷宮攻略しているとき、一番印象に残った敵がこのザントマンとナイトメアのコンビだった。

 こいつらはその中でも優秀な後天スキルを持っており、ザントマンはエンプーサになったばかりのメアを眠りに落し、ナイトメアの気配遮断はユウキ以外気づくことが出来なかった。

 何度も使える組み合わせではないが、初見殺しとしては十分に使えると俺は見ていた。


 頭の中で、戦闘のシミュレーションを何度も繰り返す。

 相手の戦力が分からない以上妄想に近いものだったが、最も上手くいったパターンを何度も想像することにより、スムーズな行動を可能とするのが目的だった。

 と、その時部屋の内線に電話がかかってきた。


「はい」

「北川様、対戦が近づいてきましたのでご準備の方をお願いします。備え付けのTVの方に、対戦相手と会場への案内が表示されますのでご覧ください」

「わかりました」


 電話を切り、TVをつける。

 心臓がドキドキしてきた。俺の対戦相手は一体どんな奴なのか。


「————なっ!?」


 それを見た俺は、驚愕に目を見開いた。

 わが目を疑い、何度も内容を確認する。

 しかし、いくら確認しても現実は変わらない。


 画面に映し出されていたのは————南山だった。




【Tips】カードのランクアップ


 カードは、上位のカードを用意することでランクアップすることが出来る。ランクアップのメリットとして、元々使っていたカードの容姿・記憶・性格を引き継げることが挙げられる。また使い込み次第では上昇した戦闘力とスキルも受け継ぐことが出来るが、これは運にも左右される。ランクアップするためには、未使用(初期化されている)かつ、同系統で性別が一致している必要がある。


例:グーラー→ヴァンパイア、クーシー→ガルム。など。

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