第15話 蓮華さんは本当に後輩に厳しいお方②
それから数分後。
俺たちは攻略を再開した。
道中は、蓮華とインプはこれまで以上に会話が無くインプはユウキと蓮華は俺とだけしか話さなかった。
やがて小部屋に着き戦闘を行ったが、インプも蓮華もちゃんと仕事をしてくれた。
それに一安心した俺だったが、やはりインプと蓮華の溝はより深くなっているように感じられた。
そうやって、和気藹々とはいかない空気の中で進んでいくと、不意にインプが言った。
「……あれ? あそこの壁、ちょっとおかしいよ?」
「え? そうですか?」
ユウキがそう言って行き止まりの壁を見やるが俺の眼にもごく普通の壁のように見えた。
「……私もうまく言えないんだけど、ちょっと違う気がするの」
「ん。イライザ、悪いけどちょっと調べてみてくれるか?」
「イエス、マスター」
イライザがつぶさに壁を調べ始める。が、何も見つからない。
「申し訳ありません、何も見つかりませんでした」
「そうか……」
あるいは抜け道かなにかならと期待したんだが……。
インプも自分の勘が信じられなくなってきたのか、浮かない顔をしている。
そこへ、蓮華が一歩前に出た。
「なるほどな……クソ、そういうことか」
「蓮華?」
「まぁ、見てな」
そう言うと、蓮華は奥の壁へと弾幕を放った。一体何を……ッ!?
次の瞬間、俺たちは目を見開いた。無数に風穴の空いた壁から、蒼い液体が噴き出したのだ。
この壁は……モンスターの擬態だったのか!
蓮華が悔しげに吐き捨てる。
「通路に敵は出ないって先入観にまんまと騙されたぜ。部屋の入り口に、壁に擬態して張り付いてやがったんだ」
「クソ、完全に盲点だったぜ。よくやった、インプ、蓮華。よし、行くぞ!」
「はい!」
壁に擬態したモンスター——おそらくはぬりかべだろう——が消えるのと同時に、俺たちは部屋へと突入する。
中で待ち構えていたのは、たった一匹の小さなモンスターだった。小型犬ほどの大きさのリスのような生き物で、額には紅い宝石がついている。
初めてみるモンスターだが、俺はそのモンスターの正体を知っていた。冒険者なら誰もが知っていると言っても過言ではないほどに、有名なモンスターであったからだ。
「カーバンクルッ! うおおおお! 絶対に逃がすな!」
俺たちを見た瞬間踵を返して部屋の奥の通路へと逃げ出そうとしたそのカーバンクルを見て、慌てて叫ぶ俺。
それと、ほぼ同時に、インプのスリップが炸裂した。
小さな悲鳴を漏らしてステンとひっくり返るカーバンクルを、すかさず蓮華が足で踏みつける。そのまま光弾を放とうとし——。
「蓮華! 待った! ストォォップ! できればトドメはインプに譲ってやってくれ」
「あん?」
「わ、私?」
怪訝そうな顔をする二人に、俺はカーバンクルについて説明した。
カーバンクルは、Eランク以上の迷宮で極まれに見つけることのできるレアモンスターである。戦闘能力はほとんど持たず、人の姿を見るとすぐに逃げ出してしまう。
この特徴でゲーム好きならピンときたかもしれないが、お察しの通りカーバンクルを倒すと戦闘力を大きく成長させることが出来る。ただしその経験値を得られるのは止めを刺したカードだけであり、他のカードは一切成長しない。
本来ならば一番成長の限界が高い蓮華にとどめを刺させるのが効率的なのだが……。
俺の眼差しを受けた蓮華が、小さく苦笑した。
「……わかったよ。ほら、止めを刺しな」
「え、でも……」
険悪だったはず相手の温情に、躊躇するインプ。
そこに、蓮華が少しだけ照れ臭そうに言った。
「……ここを見つけたのはお前の手柄、だからな。これくらいの報酬……別にいいだろ」
「……………………うん」
インプも照れ臭そうに頷き、カーバンクルへと攻撃した。
そんな様子を見て、俺とユウキはホッと胸をなで下ろす。
全く、ヒヤヒヤさせやがってガキどもはすぐに喧嘩して、すぐ仲直りしやがる。
正直、ちょっとだけ羨ましい。年を取るにつれて簡単に怒らなくなって、その分仲直りも難しくなるからな……。
ガキの頃、友達と些細なことで喧嘩して、翌日にはすぐ仲直りしたことを思い出した。あの時は……そうだ、アイツの欲しがってたトレーディングカードを交換してやったんだっけ。それで、俺も欲しかったカードを貰って……。中学が別々になって会うこともなくなり、今じゃ名前も思い出せない。
今までは思い出しもしなかったくせに、なぜか急に寂しく感じた。
「…………」
首を振り、意識を切り替える。
カーバンクルが死ぬと、そこには魔石と大粒の赤い宝石が残された。この宝石もまた、カーバンクルを冒険者が追い求める理由の一つだ。
この宝石はカーバンクルガーネットと呼ばれ、幸運をもたらすとしてガーネットの中でも特に人気があり、非常に高値で取引されている。
この指の爪ほどの大きさの石でも、200万はくだらないはずだ。
売ってもいいし、誰かに贈っても良いだろう。俺はニンマリと笑いながら柔らかな布の袋にガーネットをしまった。
さらにもう一つ、お楽しみがある。
俺が視線を向けた先には、金色に輝く宝箱があった。
カーバンクルを倒した時にだけ現れるという金のガッカリ箱だ。
金箱は、通常のガッカリ箱の何倍もアタリが出やすいという。ただし、当然のようにハズレも普通に出る。金色であってもガッカリ箱はガッカリ箱というわけだ。
「よし、イライザ開けてくれ」
「はい」
この階層の周回で随分と手つきがこなれたイライザが金箱と格闘し始める。
頼む、今回は失敗しないでくれ〜。
そうみんなで祈りながら見つめていると、イライザがこちらを振り返る。その顔には心なしか笑みが浮かんでいるようにも見えた。
「開きました」
『おお!』
みんなで金箱に駆け寄る。そして目を輝かせながら箱を開けると、そこには——。
「ス、スキルオーブ! 大当たりだぁぁ!」
みんなで一斉に歓声を上げる。オーブの色は……青! 魔法系のスキルだ。
スキルオーブはその色で大体の系統が判別が付く。
青ということは、蓮華かインプということになるが……。
チラリと二人を見る。
正直、インプよりは蓮華に与えたい。彼女の方が魔力が高く将来性があるからだ。
だが、この良い空気の中では言い辛い。
なんと言ったものか、俺が悩んでいると。
「……何してるのよ、早く使えば?」
「えっ」
驚き眼を丸くする蓮華に、インプがそっぽを向きながら言う。その耳は、心なしか赤い。
「私が使ったって意味がない……でしょ?」
眼で良いのかと問いかけてくる蓮華に頷いてやると、彼女はオーブへとおずおずと手を伸ばした。
「……ありがと」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で蓮華が呟き、スキルオーブを使用する。座敷童のカードが一瞬光り、新たなスキルを得たことを俺に教えてくれた。
蓮華が目を輝かせて俺に問いかける。
「で、で? なんてスキルだった?」
「どれどれ……あ」
俺はカードに現れたスキルを見て、硬直した。
おい……マジかよ。こんな、ことって……。
「え? そんなに凄いスキルだったんですか?」
「あるいは、……クソスキルだったとか?」
「お、おい……何が出たんだよ!?」
一気に不安そうな顔になる蓮華に、俺は引き攣った顔で答えた。
「……初等状態異常魔法だってよ」
『え』
場が凍り付いた。
みんなが一瞬だけインプへと視線を向け、即逸らす。
蓮華が天を仰いだ。
「……インプ、お前のことはなんだかんだ嫌いじゃなかったぜ。新しい所に行っても、頑張れよ……」
「ハァァァ!? ちょ、ふざけんな!」
蓮華が告げた遠回しな解雇通知に、インプが一瞬で沸騰した。
「なんでこのタイミングでそのスキル!? お前、どれだけ私のことが嫌いなのよ!」
「アタシだって知ってて使ったわけじゃねぇよ!」
「今からでもスキルオーブ返せ! 私の仕事を取るな!」
「無茶言うな!」
取っ組み合いの喧嘩をする二人に苦笑しながら俺は、インプと蓮華のカードを取り出した。
そこには、全く同じスキルが新たに刻み込まれていた。
【種族】座敷童(蓮華)
【戦闘力】310(5UP!)
【先天技能】
・禍福は糾える縄の如し
・かくれんぼ
・初等回復魔法
【後天技能】
・零落せし存在
・自由奔放
・初等攻撃魔法
・友情連携(NEW!):互いに友情を持つ者とスキルを連携することができる。
・初等状態異常魔法(NEW!)
【種族】インプ
【戦闘力】130(65UP! MAX!)
【先天技能】
・妖精悪魔
・初等魔法使い見習い
【後天技能】
・小悪魔な心
・一途な心
・友情連携(NEW!):互いに友情を持つ者とスキルを連携することができる。
「あーあ、こりゃもう売るわけにはいかないか」
名前、考えとかないとな。
俺はカードをしまうと、二人の仲裁に入ったのだった。
【Tips】スキルオーブ
迷宮の宝箱からは、スキルオーブと呼ばれる特殊な魔道具が出現する。スキルオーブはカードに与えるだけでお手軽に新しいスキルを覚えさせることができる。もしもスキルが被った場合、スキルの経験値として吸収され、スキルのランクアップの可能性を上げてくれるため決して無駄にはならない。
もし売ることが出来れば大金となるが、迷宮の外へと持ち出そうとすると消えてしまうため売ることはできない。また、決して良いスキルばかりが出るとは限らないため、博打の面もある。
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