第366話 掃除

世間的にはゴールデンウィークのちょうど折り返しに差し掛かるといった中、

火月は自室に籠もってパソコンの前に座っていた。


マウスをスクロールし、小日向こひなた 栄臣ひさおみ……

という人物にまつわる情報を集め始めてから既に数日が経過していたが、

これといってめぼしい成果は得られていなかった。


ネット検索は確かに便利ではあるが、

同姓同名の人物のSNS情報がヒットした場合、

本当にその人が自分の探している人なのかを確かめるすべはない。


相手が自撮り写真を載せてくれていて、

かつ自分が顔を知ってる状況なら直ぐに特定できるかもしれないが、

そもそも火月が相手の顔を知らないので最短ルートでの特定は難しそうだった。


また、仮にネット上でその人物を見つけたとしても、

現在何処に住んでいるかの情報を事細かく載せている人なんて

ほとんどいないだろう。


SNS上で本人に直接連絡して

「聞きたいことがあるから住所を教えて欲しい」なんて言おうものなら、

不審者扱いされるのは火を見るより明らかだ。


ちなみに、興信所や探偵に捜索の依頼を出すことも一瞬考えたが、

提示できる情報が名前しか無かったので、

時間もお金もかかるだけだと思い早々に諦めていた。


頭の後ろで両手を組み、

イスの背もたれに寄りかかった火月はどうしたものかと頭を悩ませる。


暫く考えにふけっていたものの、

良い案が浮かばなかった火月はイスから立ち上がると、

顎に手を当ててグルグルと部屋の中を歩き始める。


ただじっとしているよりも身体を動かしていた方が

何か良い案が浮かぶかもしれないと思ったからだ。


『どうせ身体を動かすなら、掃除でもするか……』


掃除道具を手に取り、エアコンやカーテンの上から埃を落としていく。


PCデスクや本棚、収納ケースからベッド周りに至るまで念入りに掃除を進め、

最後は床に落ちたゴミを掃除機でまとめて吸い取っていく。


数年前に購入したコードレスの掃除機を愛用しているが、

最近バッテリーの持ちが悪くなってきた気がするので、

これを機に新しいモデルへ買い換えるのも有りかもしれない。


ある程度掃除機でゴミを吸い取ったら、

最後にコロコロを使って仕上げるのが中道流である。


特にカーペットに絡まった抜け毛を取り除く際にこのアイテムは必要不可欠だ。

無心になって自分とねぎしおの抜け毛をコロコロで集めていた火月は、

そのまま一時間近く掃除に没頭していたのだった。

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