第364話 ヒント

「んーっと、つまり中道君は

 過去に修復した扉と怪物に関する情報を調べたいってことでいいのかな?」


包帯の男に関する情報が通達されてからちょうど一週間が経過したタイミングで、

火月は再びアタルデセルに足を運んでいた。


「はい、自分だけではどうしても人型の怪物に関する情報を集めるのが難しく……。

 もしかしたら、ずっと前に他の修復者が

 人型の怪物と接触していた可能性もあるんじゃ無いかと思いまして」


「なるほどね、

 だからこの端末を使って組織のデータベースにアクセスしたいってわけだ」


カウンター席の端っこに設置してあるパソコンのような端末に手を置いた水樹が、

じっとこちらを見つめる。


「アプローチとしては悪くないかな。

 でも、この端末はその地域の管理者(担当者)のみに操作権限があるから、

 中道に自由に使ってもらうことはできないんだよね」


「そう……ですよね。だったら―――」


「私に過去の情報を探して欲しいってところかな?」


「……っ」


自分が言おうとしていたことを先読みされてしまい、二の句が継げなくなる。


「お店が忙しいときもあるからさ、毎日ってわけじゃないんだけど

 私も人型の怪物に関する情報集めは裏でやってたんだ。

 それこそ、中道君と伊紗いすずちゃんが包帯の男と接触したって話を聞いた日からね」


その話が本当なら、水樹さんは三ヶ月近く前から情報集めをしていたことになる。


「数も多いから全部の記録を追えている訳じゃないんだけどさ、

 今のところめぼしい情報は見つかってないかな。

 期待に応えられなくてゴメンね」


「……いえ、大丈夫です。

 こちらこそ無理を言ってしまってすみません」


もし水樹さんが情報を見つけていたら、

先週の集まりの時点で周知しているはずだ。


三ヶ月かけても手掛かり一つ見つからない……ということは、

本当に手詰まり状態なのだろう。


以前、早見に包帯の男の件について質問をしたことがあったが、

その時も期待した回答が得られなかったことから、

これ以上組織内で情報収集しても意味が無いと思った火月は、

ダメ元で水樹に最後の質問をする。


蜃気楼パルチダに所属していない人で、

 扉や異界・怪物に詳しい人……なんていないですよね?」


軽い冗談のつもりで言った火月の言葉に、

水樹がハッとした様子でこちらを見ていた。


「……そっか、そういうことだったんだ!

 依頼を受けたときは意味が分からなかったけど、今なら分かる気がする。

 多少のリスクを負ってでも探す価値のある情報ってことだったんだ」


「依頼……ですか?」


「あー、ごめんごめん!こっちの話だから気にしないで!

 でも火月君のおかげでようやく依頼された仕事の目的を理解できたよ。

 少しは力になれるかもしれないから、ちょっとだけ待っててくれる?」


そう水樹が言い終えると、もの凄い勢いで端末を操作し始める。


一体何が起きているのか、状況が飲み込めずにいた火月は

ただ彼女の横顔を眺めることしか出来なかった。

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