第210話 第三の選択肢

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」


火月が買ってきたチェーン店の牛丼を

物凄い勢いで食べていたねぎしおに話しかける。


「ん? 我の神聖な夕飯タイムを邪魔するに値する内容じゃなかったら許さぬぞ」


どんぶりから顔を上げて、くちばしの端にご飯粒をつけたねぎしおが返事をする。


「お前以外に喋る怪物ってのは存在するのか?」


「何を聞いてくるのかと思えば、なんとつまらぬ質問よ。

 そもそも我は高貴で超エリートな存在じゃからな、

 そんな存在が他にいるわけなかろう。

 常識的に考えれば誰でも分かることじゃぞ。

 今度はもう少し頭を使ってから質問するんじゃな」


そういえばコイツの性格って元々嫌味を言ってくるタイプだったなぁ

と思い出した火月はそのまま話を続ける。


「足りない頭で悪かったな。

 でも確かお前、自分の過去の記憶が無かったんじゃないのか?

 それなら、単に忘れてる可能性もあり得ると思うんだが」


「確かに、あの箱に入っていた以前の記憶は持ち合わせておらぬが

 我みたいな存在が他にいるとでも?

 ないない、そんなのは絶対にあり得ぬ。

 何処からどう見ても、我は特別なオーラを持つオンリーワンの存在じゃろうが」


「特別なオーラ……ねぇ」


ねぎしおと出会ってからずっと一緒に暮らしてきたが、

そんなオーラは一度も感じたことはない。


言葉が喋れるという点において他の怪物と一線を画しているのは間違いないが、

如何いかんせんサンプルが少ないのでコイツが本当にオンリーワンの存在か?

と問われれば、首をかしげざるを得ないだろう。


「なんじゃ、その疑いの眼差しは。

 まるで我の言う事が信じられないとでも言いたげじゃな」


「まぁ、そんなところだ」


「ふん、どう足掻あがいても我のことが信じられないのなら、

 ここで宣言してやろう。

 もし我以外に喋るやからがおったら、

 その時は誠意のこもった本物の土下座をしてやる。

 じゃが、もしお主が間違っておったら今度こそ我に土下座をするんじゃぞ!」


どうやら、出会った当初の出来事をまだ根に持っているらしい。


「それは別に構わないが、悪魔の証明は難しいと思うぞ」


「そのくらい我には自信があるってことじゃ」


そう言い終えると、ねぎしおが再びどんぶりに頭を突っ込んで牛丼を食べ始める。


一体、何処からその自信が湧いて来るのか不思議でならなかったが、

そこまで言うのなら他に喋る怪物の可能性は低いと見てもいいのかもしれない。


となると考えられるもう一つの可能性は怪物でも修復者でもない存在……

になってしまうが、そんなことが本当にあり得るのだろうか。


何にせよ、やはり今回の件は一筋縄ではいかなさそうだなと判断した火月は、

明日の仕事に備えるため、いつもより早く寝室へ向かった。

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