第109話 脱出

扉の修復が完了した後は、異界の崩壊が始まる。


それは当然知っていることだったが、

今回はその崩壊スピードがあまりにも早すぎる。


ならば、床が壊れた原因は他にあるのだろう。

……それは、先ほどの要の一撃以外考えられなかった。


つまり、要が振り下ろした棍の威力が床の耐久値を超えた、

ただそれだけの話だ。


周囲を確認すると、要とねぎしおも同じように落下していることに気づく。


要に関して言えば、頭から真っ逆さまに落ちており、なすがままといった感じだ。

能力が切れた状態では、自力で体勢を立て直すのは難しいだろう。


最優先で助ける必要があると判断した火月は、

空中に散らばる瓦礫を足場にしてジャンプ移動を始める。


『ここまで来て、帰れないなんて洒落にならないぞ』


まだ時計の能力が発動しているので動けているが、

火月も余裕があるわけではなかった。


残りの制限時間は既に一分を切っていた。


何とか要の近くまで移動してきた火月は、

そのまま落下している要の首根っこを右手で掴むと、空中の瓦礫にジャンプする。


「ちょっと苦しいかもしれないが、我慢してくれ」


要が小さく頷くのを確認すると、再び周りを見渡す。


『出口の扉は何処だ?』


出口の扉が出現したのは確認済みだったが、

崩壊が始まった後の位置までは把握していない。


まさか扉そのものが壊れてしまったのではないか?

と最悪のケースを想像する火月だったが、視界の端に扉のようなものが映る。


どうやら、床にくっついたまま瓦礫の一部となって落下しているようだ。

手前には、ねぎしおの姿も見える。

あそこにいるなら、扉に向かう途中で回収すれば問題ないだろう。


少し距離があるのが懸念点ではあったが、四の五の言ってられない。

直ぐに移動を開始する。


落下している瓦礫を飛び移り、最短距離で進んでいく。

残りの制限時間が二十秒を切ったところで、ねぎしおの近くに到着した。


「火月よ! 我は今、この大空を飛んでいるのじゃ!」

両翼を広げて興奮した様子のねぎしおが話しかけきた。


「単に落下しているだけであって、飛べているわけじゃないぞ」


嘘偽りない真実を伝える。


しゅんとした顔になったねぎしおを左手で掴んで肩に乗せると、

そのままジャンプ移動を繰り返し、出口の扉の中へ飛び込んだ。

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