第110話 涼風

石製の扉から二人の男と一羽の鶏が転がるように出てきたと思ったら、

そのまま地面に仰向けになって横たわる。


生い茂った雑草がクッションの役割を果たしてくれたようで、

背中にほとんど痛みを感じなかった。


杉の群生林の隙間から差し込む日差しが顔を照らす。


額から滝のように流れる汗を腕で拭うと、

隣で同じように横たわっている要に声を掛ける。


「……生きてるか?」


「……生きてるっす」


今まで聞いた中で一番元気のない返事だったが、

ひとまず実界に戻って来れたことに安堵する。


視線を真上に向けると石製の扉が逆さまに映る。

ほどなくして、白い光と共に霧散した。


上がった呼吸を整えるため、

大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す動作を繰り返す。


『こうやって地面に横たわるなんて、いつ以来だろうか』


ふと、そんな考えが頭を過る。


小学生くらいまでは日が暮れるまで外で遊び、

疲れたら今みたいに仰向けになって休んでいた気がする。


久々に見上げた空は思った以上に広大無辺で、

オフィス街で見る空とは全く異なっていた。


年齢を重ねれば重ねるほど空を見上げる回数よりも、

足を見下ろす回数の方が多くなった気がするのは自分だけだろうか。


体力が回復するまで、まだ時間がかかりそうではあったが、

ここなら他に人が来る心配も無いだろう。


目を瞑ると心地よい風が頬を撫で、木の葉が風に揺れる音が聞こえる。

火月達の帰還を歓迎するかのように、ヒグラシがぽつぽつと鳴き始めた。

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