第84話 網
『
懐中時計を見つけられたら、かなり運が良いとのこと。
時計を持ち帰れば、今回の仕事は終わりになるので、
本来なら喜ぶべきことなのかもしれないが、
素直に喜べない自分がいることに気づく。
それは、先に入った修復者の死を悼んでいたからでは無く、
ある一つの可能性について考えていたからだ。
喪失したということは、それ相応の理由があるはずだ。
例えば、想像を遥かに超える力量の怪物の存在だって十分考えられる。
今この瞬間も何処かに身を潜めていて、
こちらへ攻撃を仕掛けるタイミングを虎視眈々と狙っているのかもしれない。
考えれば考えるほど身動きが取れなくなり、冷や汗が流れる。
…
……
だが、このまま立ち止まっているわけにもいかなかった。
とりあえず、巨大な怪物が出入りできそうな場所は見当たらなかったので、
大きく息を吐くと、その場にぺたんと座り込んだ。
何気なく頭上を見上げるや否や、黒い影のようなものが視界に映る。
目を凝らしてよく見ると、ねぎしおが座っている床から約二メートルほどの高さに
網のようなものが天井からぶら下がっていた。
確か、ワイヤーモッコという名称だったはずだ。
恐らくこれも罠の一つなんだろうとボーっと見上げていると、
ある考えが頭を過る。
『罠が発動したということは、既に何かが引っ掛かかっているんじゃ…』
今になって人影のようなものが、網に収まっていることに気づく。
身動き一つしないその人は、下からだと背中しか見えないので、
どんな表情をしているのか分からなかったが、
いずれにしても、一度コンタクトをとる必要がありそうだ。
「おーい! そこの網に捕まって天井から吊るされている者よ!
我の声が聞こえておるか!」
ねぎしおの声が部屋に響き渡る…が、相手からの反応は一向に無い。
もう一度叫ぶことも考えたが、
この場所に怪物がいるのか、いないのかハッキリしていない以上、
大きな音を繰り返し出すのは避けたかった。
罠に捕まっているのが修復者なのかどうか、
そして、生きているのかどうか、今の時点では皆目見当がつかなかったが、
この床に落ちている懐中時計と何かしら関係があるのは間違いないだろう。
「どうやら、自分の目で確かめるしかなさそうじゃな」
沈黙を貫く相手を待つよりも、自ら動いた方が早いと判断したねぎしおは、
助走をつけて、空中の網を目掛けて大きく飛び上がる。
足の鉤爪が網に引っかかり、張り付くような形で着地に成功すると、
恐る恐る網の中を見下ろした。
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