第81話 罠

「先ほども同じような道を通らなかったか?」


高さ三メートル、道幅四メートルはありそうな遺跡の内部を散策していると、

後ろからねぎしおが話しかけてくる。


扉の入り口が出現した小さい部屋を出て、道なりに進んでいた火月達だったが、

同じような構造の道がずっと続いていたこともあり、

自分たちが前進しているのか、迷っているのか正確な判断がつかなくなっていた。


「通ったような気もするし、通っていない気もする」


「何とも頼りない返答じゃのう。仕方あるまい、ここは我に任せてみよ!」


ちょこちょこと火月の前にやってきたと思ったら、

今度はねぎしおが道を先導し始める。


一切の迷いを感じさせないその足取りは、

まるで初めからゴールが見えているかのようだった。


きっと何か良い策でもあるのだろうと思い、成り行きを見守ることにした。


五分ほど歩いたら、何かを異変を感じたのか

「ん?」とねぎしおが言葉を漏らし、その場で立ち止まる。


「どうかしたのか?」


「いや、大したことではないんじゃが、今何か踏んだような気が」


ねぎしおがいる場所へ近づくと、しゃがみ込んで足元を観察する。

ぱっと見た感じは何処も可笑しな部分は無いようだが、

よくよく見るとねぎしおの足が乗っている床のタイルだけ、

周りと比べて若干沈み込んでいることに気づく。


まるで重量によって反応する圧力センサーみたいだなと思った。


ふと嫌な予感がし、すぐに視線を前に向ける…と同時に、

前方から鉄の矢のようなものが火月の頭上すれすれを通り過ぎて行く。


「今、何か飛んでこなかったか?」

ねぎしおが、火月の頭上を見上げる。


「……おそらく罠の類だろう。

 さっき、お前が踏んだタイルがトリガーになって、

 矢が発射されたのかもしれない」


「なるほど、それならもう一度このタイルの上に乗ってみてもよいか?」


「ああ、検証してみる価値はある」


ねぎしおがタイルから離れ、再度同じタイルの上に乗ると

予想通り、鉄の矢が飛んできた。

やはり、床のタイルの一部が罠になっているのは間違いないようだ。


怪物の攻撃の可能性もゼロではないが、

現状、該当のタイルを踏まない限り矢が飛んできていないので、その可能性は低い。


それにしても、最初に放たれた矢には肝を冷やした。

もしあの時、しゃがんでいなかったらと思うとゾッとする。


いくら時計の能力が回避能力の向上だとしても、

能力を発動する前に不意打ちを仕掛けられたら避けれる自信がない。


ただ、ここで能力を使う訳にはいかないので、

何か起きても直ぐに反応できるように、周囲への警戒をより一層強めることにした。


「ここから先は、少し慎重になった方がいい。特に床のタイルには気をつけろ」


「すまぬ、ここの床のタイルも沈むようじゃ」

つい先ほどまで目の前にいたねぎしおが、

右斜め前方に移動し、こちらを振り返っていた。


「お前、人の話は最後まで聞く…」

火月が言い終わる前に、壁のタイルの隙間から、

巨大なノコギリのような刃物が飛び出してきた。


咄嗟に後方へジャンプし、向かってくる刃をすんでの所で回避する。

少しでも避けるのが遅れていたら、胴体が真っ二つになるところだった。


「お前…わざとやってるんじゃないだろうな?」


「そんなわけなかろう! 偶然じゃ!」


立て続けに罠を発動させるアイツを先に行かせるのは、

リスクが高いと判断した火月は、

「そこから動くなよ」

とねぎしおに伝え、近くの壁に寄りかかる。


ここから先、どうやって進んで行ったものか…と思案していると、

何やら背中の方で「カチッ」と音が聞こえた。


まさか……と思い、急いで壁面を確認する。

そこには、周りと比べて少しだけ外に浮き出ているタイルがあった。


ふと視線を前に移すと、ねぎしおが立っている付近のタイルが消え、

床に大きな穴が出来ていることに気づく。


「あっ…」


「ん? どうしたのじゃ? って、ぬああああああああ!」



……


叫び声と共に黒い穴の中へ落ちていくねぎしおを見届けると、

深呼吸をして自分を納得させるかのように一人呟く。


「まぁ、あれだな。誰にでも失敗はあるもんだ」

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