第78話 実り

最寄り駅までやってきた火月は、組織から送られてきたメールを開き、

扉の出現場所を再度確認する。


あまり聞いたことがない地名が記載してあったので、

スマホで場所と移動ルートを検索してみると、どうやら結構距離があるようだ。


ターミナル駅まで電車で向かい、そこからローカル線に乗り換える。

休日にも関わらず、車内にほとんど人がいなかったのは嬉しい誤算だった。


ねぎしおと並んで座席に座り、車窓から外を眺めていると、

最初こそ無機質な街並みの景色が続いていたが、

三十分が経過した頃には、自然豊かな田園風景が広がっていた。


稲の穂が頭を垂れて、黄色く色づいているのを見ると、

『実るほど頭を垂れる稲穂かな』ということわざを思い出す。


社会人になって色々な人と関わるようになったが、

この諺の意味することが少しは理解できた気がする。


地位や役職は立派だが、中身が伴っていない人間は結構何処にでもいるものだ。

まるでその肩書きの操り人形のような、そんな印象を受ける。


だが、本当に学のある人は、その肩書きをひけらかすことは無く、

誰に対しても謙虚な姿勢を持ち合わせているものだ。

それだけは間違いないと断言できる。


電車のアナウンスが流れ、目的の駅へ到着すると、

そのまま改札を抜け、ロータリーに停車していたバスに乗り込む。


目的の停留所までは、ここから更に二十分はかかるようなので、

少し休んでおこうと思った火月は、

隣で興味深そうに外の景色を眺めているねぎしおを一瞥すると、静かに目を閉じた。

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