第67話 闘志

「藤堂…だよな?」恐る恐る質問をすると、

「他に誰に見えるって言うんだよ。お前の目は節穴か?」

と小馬鹿にしたような口調で返事が返ってきた。


「すまない…。突然、話し方が変わったから驚いてな」


「ははん。お前、自分が言ったことも忘れちまったのかよ。

 お互いに敬語を止めようって、さっき言ってたじゃねーか」


「そう…だな」


火月と会話した記憶は残っているようなので、

やはり目の前にいるのは、藤堂本人で間違いないようだ。


それにしたって、この変わり様には驚いた。


それとも、こっちの雰囲気が本来の藤堂 志穂という人間なのだろうか。


誰だって社会に馴染むために仮面をつけているものだ。

普段、会社で目にする彼女がその仮面をつけた状態だったとしても、

何ら可笑しな話ではない。


「にしても、全然攻撃が入らねぇ。いい加減イライラしてきた」


「…だろうな。相手がカウンターを狙っているなら、

 このまま攻撃を続けても同じことの繰り返しになる」


とりあえず、普段通り彼女と接することに決めた火月は、

怪物への対策を考えるため、話を続ける。


「何か気づいたことは無いか? どんな細かいことでも構わない」


「そうだなー。アイツの身体から白い湯気?みたいのが出てるが、

 あれは湯気じゃねぇな。近づいてみて感じたんだが、かなり冷たい空気だった」


未だに身動きが取れなくなっている怪物を観察すると、

身体中から白い煙が下へ下へと流れ出ていることに気づいた。


周りの空気より冷たければ、収縮し、密度が高くなるので下へ行く…

そんな当たり前のことすら忘れていた。


ならば、相手の体は水晶ではなく、硬い氷のようなものだと考えるのが自然だ。


ただ、藤堂の攻撃でもびくともしない怪物に対して、

どうやってダメージを通すか……

思考を巡らせていると、焦げ臭い匂いが鼻腔に広がる。


つい先ほども同じような匂いを感じた気がする…

周りを確認すると、匂いの発生源が直ぐにわかった。


「その鉤爪、最初からそんな色だったか?」


まるで高熱を加えられた金属のように、

先端がうっすらとオレンジ色に変化している藤堂の鉤爪を見て質問する。


「ん? これか? 

 いや、怪物と戦っている内に、いつの間にか色が変わってたみたいだなー」


そんなことはどうでもいいといった口調で彼女が答える。


鉤爪は先端に熱を帯びており、そこから焦げたような匂いが発生していたようだ。


それにしたって、何で熱が…。

彼女の時計の能力は移動速度の向上だったはず。


今までの怪物との戦闘を思い出しながら、一度頭の中を整理する。

今の状況を打開するヒントが必ずあるはずだ。

あと少しで、点と点がつながりそうな気がしていた。


突然、何かが割れるような音が響き渡る。

前を向くと、怪物の右半身を覆っていた氷が砕け落ちていた。


身体の自由を取り戻した怪物が、ゆっくりと移動を始める。


「それで何か策は思いついたのか? このままだと二人揃ってお陀仏だぞ」


「そうか、そういうことか…」納得した様子で独り言を呟く火月に対し、

「おい、人の話を聞いてんのか?」とイライラした様子で藤堂が話しかける。


「ああ、ちゃんと聞こえてる。だから、少しだけ俺の話を聞いてくれないか?」


そこには、覚悟が決まった目をした一人の修復者がいた。

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