第66話 仮面

至極色の鉤爪と氷柱のようなものが真正面で衝突し、

激しい火花が飛び散る。


右腕で振り払うように氷柱を受け流した藤堂だったが、

相手の攻撃の勢いを完全に止めることはできなかったようで、

そのまま後方へ吹き飛ばされる。


怪物との距離が離れるのはマズいと判断したのか、

咄嗟に、赤煉瓦の地面に右腕の鉤爪を突き刺し、

三本の長い爪痕を残しながら何とか自分を静止させたようだった。


片膝を立てて座り込んでいる藤堂に急いで近づく。


「大丈夫か?」


「ええ、問題ないです。中道さんが教えてくれなかったら、

 今頃身体に穴が空いてました」


口角を上げて答える藤堂だったが、その目は笑っていなかった。


「そうか。しかし、まだ攻撃する手段が残っているとはな…」


「ですね。相手もやられっぱなしじゃないってことでしょうか。

 でも、これで今の攻撃が来ることもわかりました」


地面に突き刺さった得物を引き抜くや否や、再び怪物へ向かっていく藤堂だったが、

彼女が攻撃を仕掛ける直前で、同じように怪物の身体から氷柱の攻撃が放たれる。

 

今回は胸部以外の場所を狙っているのにも関わらず…だ。


その姿は、まるでこちらの攻撃の意志を感じ取って、

反撃をしているように見えた。


どれだけスピードが速くても、攻撃をする直前は誰だって無防備になる。

それは、藤堂も例外じゃない。


否応なしに防御の体勢を強いられ、

再び氷柱と鉤爪が衝突すると、後方へ吹き飛ばされる。


同時に焦げ臭い匂いをほのかに感じたので周囲を確認するが、

火が上がっているような場所は見当たらなかった。


「ちょっと待て、少しは落ち着いた方がいいんじゃないか」


火月の呼びかけも空しく、ただ、真っすぐに怪物を凝視する彼女は、

何かに取り憑かれたかのように再度怪物へ向かっていく。


三度目の攻撃が防がれ、吹き飛ばされる藤堂を見て、

流石にもう我慢できないと判断した火月は、彼女の攻撃を止めようと正面に立つ。


「いい加減にしろ、何度やっても無駄だ」


すると、小さい舌打ちが聞こえる。


「ああ? そんなのやってみないとわからねーじゃねぇか?」


ドスの効いた声で返事をした藤堂が、鋭い眼光を向けてきた。



……


『誰だ……こいつは?』


一瞬、目の前にいる人間が誰か分からなくなる。

確かに見た目は藤堂で間違いないのだが、目つきや態度がまるで違う。


自分でも訳の分からないことを言っているのは重々承知しているが、

強いて言うなら、

中身だけ他の人間と入れ替わってしまったかのような印象を受けた。


そう…。

それは、彼女に命を救ってもらった時に感じた異質な雰囲気と酷似していた。

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