第9話 解錠

十五分くらい経過した頃だろうか、

ガチャンと音をたてて鎖が箱からほどける。


鋭い観察眼からその仕組みを即座に理解し、解き方を解明できた……

というわけではなく、適当にいじっていたら解けた、現実はそんなものだった。


いずれにしても、これで箱の錠前の解錠に専念することができる。


少しの時間ではあったが、集中して作業をしていたため足に痺れを感じた火月は、

一度立ち上がって肩と足のストレッチを始める。


身体を動かしながら、箱が開いた直後の最悪のシナリオをイメージする。


中に怪物が入っていた場合、

先制攻撃を受けそれが致命傷になる可能性も捨てきれないので、

いつでも臨戦態勢に入れる準備をしておく必要があるだろう。


逆にこちらから先制攻撃を仕掛ける手も悪くはないが、

自分の戦闘能力と扉の難易度を考慮した場合、

先手を取ったからといって相手を制圧できるとは到底思えない。


いずれにせよ、怪物と相対することを想定して動くべきだ。


自分の得物を用意するためポケットに入っている懐中時計に意識を集中させると、

足元にローマ数字の時計の文字盤が浮かび上がる。


ゆっくりと腰を落とし、その場にしゃがみ込んだ火月は、

右手で握った懐中時計を床の文字盤の中心に向かって押し当てた。


一瞬の眩い閃光と伴に白い煙が周囲を覆い隠す。


煙が消えた後、火月が右手に握っていたのは懐中時計ではなく、

刃渡り二十センチほどの短剣だった。


何か特徴があるとすれば、

剣身が懐中時計の色と同じ紅葉色をしているくらいだろう。

持ち手は黒を基調としており、蔦のような模様があしらってあった。


腰のホルダーに短剣をしまい大きく深呼吸をする。


いよいよ箱の解錠作業に入ろうと知恵の輪のような錠前に手をかけると、

いとも簡単に外れた。


外れたというよりも、触れたら落ちたという表現の方が正しいのかもしれない。

見た目以上に老朽化が進んでいたのだろうか。

鎖の解錠以上に時間がかかると思っていたので、僥倖な出来事だった。


……


…………


後は箱を開けるだけ……いつでも抜けるように腰の短剣に右手を添える。


最近読んだ本に

「心配事の九割は起こらない」と書いてあったことをふと思い出す。


「頼むから、一割を引かないでくれよ……」

と一人呟いた火月は、左手に全神経を集中させ勢いよく箱を開け放った。

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