原稿の締め切りに追われる俺のそばで小悪魔担当編集ちゃんが全力で誘惑してくる件~必死の抵抗もむなしく順調に飼いならされています~
あきらあかつき@10/1『悪役貴族の最強
第1話 小悪魔編集ちゃんが我が家にやってきた
一人暮らしをしていて深夜になる呼び鈴の音ほど怖いものはない。
♪ピンポーンっ!
それでも一回だけなら誰かの押し間違えかなで強引に納得できるけど。
♪ピンポーンっ! ピンポンピンポンピンポンピンポンっ!
ドンドンっ!
♪ピンポーンっ! ピンポンピンポンピンポンピンポーンっ!
いや、こんなの怖すぎだろっ‼︎
しょんべんちびりそうだわ……。コタツでヌクヌクしていた俺は、そのあまりにも狂気的で非常識な訪問者にコタツに潜り込む。
いや、誰だよ……。借金取りかっ⁉︎
いや、でもカードローンは毎月ちゃんと返済してるし、取り立てされるようなことは……。
と、身に覚えのない訪問者にコタツの中でガタガタ震えていた俺だったが、訪問者の一言で俺の震えはピタッと止まった。
「五月晴れ先生っ‼︎ いるのは分かってますよ」
なんだか女の子の声が外からした。
そして、五月晴れ先生と呼ばれた俺は全てを理解した。
こんな深夜にアポもなく、わざわざ自宅まで訪問してくる非常識な人間など、にゃんにゃん文庫の編集を除いて他にはいない……。
でもにゃんにゃん文庫の連載は完結したはずだぞ……。まあ、なんでもいい。
多分出るまで帰ってくれなさそうだし、とにかく顔だけは出しとくか。
そう思った俺はいまだ狂気のように呼び鈴が鳴り響く中、アパートのドアを開けた。
すると、そのには見覚えのない美少女が立っていた。ピンク色のコートを見にまとった彼女は寒いのか手をさすりながら俺に笑みを浮かべる。
「こんばんは。三毛猫出版の
そう言って彼女はぺこりと頭を下げる。
やっぱりにゃんにゃん文庫を発行している三毛猫出版の仕業のようだ。
そして、そんな彼女のそばには海外旅行にでも行くのか、どデカいキャリーケースが置かれている。
「こ、こんばんわ……。で、何か用っすか……」
なにやら嫌な予感がしつつも、彼女にそう尋ねてみた。
「あの……一つお伺いしてもいいですか?」
「はい……」
「ここは五月晴れ先生のお部屋で間違いないでしょうか?」
いかにも俺が五月晴れ先生とやらだ。
俺、
けど、なんとなく認めるとよからぬことが起こるような気がするので素直に認めたくない。
俺が黙っていると、美少女は慌てたような顔でスマホを取り出した。
「も、もしかして間違えてましたかっ!? あ、あれ……でも編集長から送られたメールには確かにここだと書いていたんですが……」
「いや、五月晴れで合っていますよ……。で、きみ……誰?」
少なくとも彼女は俺の担当編集ではなかった。
「私、先生の新しい担当編集をさせていただくことになった
と、彼女はまたぺこりと頭を下げた。
「で、わざわざ、にゃんにゃん文庫の担当編集さんが我が家まで何の用ですか?」
「それは私にもよくわかりません。私は編集長からただ家に行けといわれただけですので。あ、ちょっと待っててくださいね」
そういうと彼女はスマホでどこかで電話をかけ始めた。
そんな彼女を眺めながら俺は思う。
それにしても可愛い女の子だな。猫目がちの二重瞼に、通った鼻筋、さらには彼女を幼く見せる控えめの小さな口。見たところ高校生ぐらいだけど、編集をやってるのだから成人はしているのだろう。
次に俺の目は彼女の胸元にいく。前を開いたコートからはスーツが顔をのぞかせているのだけど、彼女の胸元は幼い見た目とは対照的に大きく膨らんでいる。
と、そこでそんな俺を彼女は何やら意地悪な目で見上げた。
「もしかして先生は大きな胸がお好きですか?」
「っ……」
バレていた……。
慌てて胸から顔を背けると彼女はクスクス笑った。
「あ、編集長。ただいま五月晴れ先生の部屋に到着いたしました。え? 代われ? わ、わかりました」
そう言って彼女はスマホを何か操作すると俺へと手渡した。
「先生、編集長が先生に直々にお話がしたいそうです。ビデオ通話に切り替えました」
わざわざどうも……。
スマホを受け取って画面を見やるとそこには20代前半にしか見えない30代後半の美女がこちらに向かって手を振っていた。
『五月晴れ先生、お久しぶりね。元気してた?』
「え? まあそれなりには……」
『そこにいるのがあなたの新しい編集よ。どう? 可愛いでしょ? 今すぐに押し倒したいぐらいに可愛いでしょ?』
と、そこで編集はいたずらな笑みで俺を見上げてくる。
「押し倒したいですか?」
「倒さねえよっ‼︎」
本当に可愛いだけに腹立つわ……。
「あの……本題を話してくれませんか?」
とにかく彼女たちの要求を聞こうか。
『あ、ごめんね。実は今日からその子、先生の家で生活することになるから仲良くやってね』
「いや、全く話が見えないんですが……」
『実はね、先生には来月からにゃんにゃん文庫で新シリーズを毎月刊行してもらうことになったの』
来月から毎月っ⁉︎
あ、だめだ。この女、本気で俺を殺すつもりだわ……。
「そんな話聞いてないですけど……」
『だって話したら先生断るでしょ? だから先生に伝える前に話を進めておいたの。その子には今日から公私ともに先生が執筆に集中できるようサポートしてもらうから』
「いや、どこからツッコんだらいいのかわからないんですけど……」
『あらら先生ったら女の子を目の前にして、そんなことを言うなんてせっかちなんだから』
ぶち殺すぞっ!!
「ってかあんただって俺の執筆スピードじゃそんなの無理なこと、わかってるでしょ?」
俺は別に執筆が早い方ではない。初稿ですら早くても2ヶ月前後はかかるのだ。
ってかこの女、さっき来月からとか言ってたよな? じゃあもうあと10日ぐらいで書き上げなきゃ、間に合わないじゃねえかよ。
無理難題を突きつけてくる編集に目眩がしていると、編集長はなにやらフリップのようなものをカメラに向けた。
『ねえ先生、このグラフが見える?』
「なんすかこれ……」
『これは三毛猫社の直近24ヶ月の売り上げ推移よ。綺麗に右肩下がりなのよ。凄いでしょ?』
この女、よく笑顔でそんなこと言えるな……。
危機感あるの?
『このままだと半年ももたないのよ。そこでもろもろ計算してみたら、看板作家の五月晴れ先生が毎月新刊を出さないと、どう計算しても倒産しちゃうのよ』
「いや、さすがにそれは荷が重すぎます」
『ほら見て見て。咲夜ちゃん可愛いでしょ? こんなに可愛い女の子が先生のせいで路頭に迷っちゃうかもしれないのよ?』
「いや、100%あんたのせいでしょ」
と、そこで編集は俺の腕を掴み悲しげに俺を見上げた。
「わ、私、仕事を失いたくないです……」
いや、再就職しろよ……。
『とにかく先生だったらできるわ。よろしくね』
どうやら力づくで話を通すつもりらしい。けど、こんな仕事引き受けたら死ねる自信がある。
「不可能です」
『残念だけど、三毛猫社の辞書に不可能の文字はないわ』
「俺の辞書にははっきりと書いてあるんだよっ!!」
『もしも受けてくれないっていうなら、今から咲夜ちゃんが警察に先生に押し倒されたって通報する手はずになってるけど?』
おうおう、とんでもない脅しだなおいっ!!
『と・に・か・くっ!! 先生ならできるわ。頑張ってね』
そう言って編集長は通話を切りやがった。
「お、おいっ!!」
嘘だろ。どうするんだよっ‼︎
10日で新作を書き上げるなんてどう考えても無理だぞっ‼︎
俺はその場に崩れ落ちる。そんな俺のそばにしゃがみ込むと木花咲夜はにっこりと微笑んで俺の顔を覗き込む。
「先生、一緒にこの苦難を乗り越えましょうねっ」
年末の夜、俺は地獄のノルマを背負うこととなった。
―――
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