STAGE 3-15;遊び人、3番目のお姫様と出会う!


 帝国の『探索家』――チェスカカによる〝森の中での尋問〟もひと段落して別れたあとに。

 アストはどうにか樹下街に辿りついて、クリスケッタたちと合流した。


「へー! ここがクリスケッタのー?」


 リルハムが無邪気に言う。


「王族が暮らす城を〝おうち〟と表現するのは、いささか違和感があるな」


 そう答えるアストはまさしく、樹下街の最奥地――


 エルフの王族が暮らす〝樹上宮じゅじょうきゅう〟に来ていた。


 目的はひとつ。


 ――失踪中の第二王女・エリエッタの捜索を、国王に認めてもらうこと。


「あ、


 その王座の間の手前で、先頭を行くクリスケッタに声がかかった。


「ルウルキフ。無事に戻ったぞ」


「うん。無事かどうかは、今会ったから分かるよぅ」


 【ルウルキフ】と呼ばれたその少女は、クリスケッタたちを見つけるにつけ。

 手にしていた書物をぱたりと閉じ、とてとてと拙い足取りで近寄ってきた。


「お姉ちゃんってことはー……前に話してくれた〝3番目のお姫様〟だねー」とリルハム。


「……どちらさまぁ?」


 ルウルキフが、警戒するように聞いてきた。


 初雪のような白い肌に、空気の中に溶けてしまいそうな薄色の髪。

 どこか空虚さが漂う、ぼうっとした瞳。

 体形はアストよりも小柄で、長い耳には多くの耳飾りが下がっている。


 姉であるクリスケッタとはタイプの異なる、無機質で幻想的な人形のような少女であった。


「アストだ」「リルはリルハムー!」


 クリスケッタが補足するように続ける。


「樹渓谷の調査中に、我が隊のを救ってくれた、妾の――いや、森人族エルフの恩人だ」


 こてん、とルウルキフは首を傾げた。

 どうやらあまりピンと来てはいないようだ。


「よろ、しくぅ」


 彼女は人見知りでもしているのであろうか。

 クリスケッタの身体の影に隠れながら、空虚な瞳をアストたちに向けている。


「それで……国王ちちうえの調子はどうだ?」


 ふるふる、とルウルキフは首を振ってみせた。


「いつもとおんなじだよぅ。夜も眠れないみたいで、ずっとぶつぶつ言ってる」


「……そうか」


 クリスケッタは一瞬視線を斜めに逸らしたあと、あらためてルウルキフに向き直る。


「重要な話をしたい。なるべく人払いをした上で、取り次いでくれるか」


 ルウルキフはそういう役割なのだろうか。

 こくりと無機質に頷いて、口元を微かに持ち上げた。


「うん。もちろんだよぅ」


 続いてルウルキフは目で合図を送ると、周囲から宮殿に勤める他のエルフたちが姿を現した。

 そのうちの何人かが、狼少女・リルハムのもとにやってきて言う。


『ささ、……貴女様はこちらへ』


「えー!? ご主人ちゃんと別れちゃうのー!?」


『人払いを頼まれましたゆえ。きっと信頼のおける従者の方だとは思いますが、この先はひとまず……』


「うー……確かにリルは、信頼がおけまくっちゃう従者だけど……」


『お食事もご用意しております』


「ご主人ちゃんー! 任せたよー!」


 あとでお話聞かせてねー、と彼女はスキップを踏みながら去っていった。


 その様子を見て、アストは溜息交じりに呟く。




「……まったく。現金な従者だな」



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