STAGE 3-5;遊び人、すごい魔物の噂を聞く!
「あれが――【 世界樹 】か」
霧立つ渓谷の、切り立つ岩場の上から。
アストたちはあらためて世界樹と
正確には――その〝大幹〟の部分である。
樹冠部は灰色の雲によって。
根に近い部分はこの樹渓谷から噴き出す白い霧によって。
上下は隠れてしまっていた。
おかげで樹の中央部、あまりにも大きな幹の――
やはり
「是非一度、霧雲が晴れた際にその全貌を見てもらいたい」クリスケッタが黒味がかった長髪をなびかせて言う。「とはいえ、しばらくは
遥か先にも見えるし、すぐそこにあるようにも見える。
遠近感が
本当に〝木〟と呼んでもいいか躊躇われるほどの。
――世界を冠する、巨大な樹木。
見渡す限りの天地が白で覆われ、日の光すらも灰色にくすませる視界の中ですらも。
幽玄で、神秘的で、厳かなオーラを纏うその大木は――まさに〝世界樹〟という名にふさわしい荘厳な佇まいであった。
「世界樹の全貌か、それは楽しみだ。近々晴れるといいが」
アストが腕を組み、目下に広がる景色に目を凝らしながら言った。
「天候を変えるには、それこそ〝天に祈る〟必要があるな」
クリスケッタは片頬を上げてから。
ふたたび大樹の方角を向き直り、話を続ける。
「そんな天にも届く【世界樹】は――
「ほう――」スケールの大きな言葉に、アストが目の奥を煌めかせた。
「貴殿には以前、今が特別な時期であると伝えたが……それはまさしく、本年こそ世界樹が蕾をつける特別な年にあたるからだ」
「千年に一度だけ咲く、世界樹の花か――興味深いな」
アストが頭上の毛をぴこりと尖らせながら言った。
「いや、
しかし、クリスケッタは淡々とその言葉を否定する。
「む?」
「世界樹は千年に一度〝蕾〟はつけるが、その〝花〟が咲くことはない」
クリスケッタは自らの言葉のもつ意味を確かめるように、ゆっくりと繰り返した。
「どうしてだ」
「それこそが、貴殿に〝妹の捜索〟を頼んだ理由だ――なぜ、世界の存続に妹の存在が必要なのか」
クリスケッタはゆっくりと息を吸って。
何かを決心するかのように吐いてから。
アストたちに向かって話し始める。
「妾には
「
「……まさしく。妹は
長女であるクリスケッタは、やや間があってから頷いた。
まるでそのことが、自らに非があるかのような後ろめたさを含む間にも思えた。
あるいは『妹がいなくなった』という事実を、認めたくないがゆえの
――エルフの王女の失踪。
それだけ聞けば、極上の話題性と事件性を孕んだニュースだが、少なくともアストがティラルフィア領に滞在していた際には聞いたことはなかった。
〝閉じた種族〟と自らを語っていたが、その閉じた中でもかなり機密度高く守られた情報であるらしい。
実際に「妹の失踪という世界の存続に関わるこの事実は、エルフの中でも一部のものしか知らぬ。むやみに他言はしないでくれ」と補足された。
「ひとつ確認してもいいか」とアストが前置いた。
「構わぬ」とクリスケッタは頷いた。
「この場合の〝世界〟というのは――エルフたちが暮らす世界という意味なのか、あるいは全人類が暮らす世界そのものなのか」
「残念ながら、後者の――より大きな意味合いでの世界だ」クリスケッタは今度は一切の躊躇なく言い切った。「妹が見つからなければ、
滅びるかもしれない、でもなく。
滅ぶ可能性がある、でもなく。
滅びる、と彼女は断言した。
「どうして世界がなくなっちゃうのー?」
世界が滅びること自体にはあまり驚きを見せず、悪魔であるリルハムが訊いた。
あるいは、一度自らの手で『世界を滅ぼしたことがあるかのような』慣れた口ぶりでもあった。
「……【獣】が、目覚めるのだ」
けもの、と彼女はこれまでで一番神妙な声色で言った。
「けものー?」
「ああ。ふだんは、世界樹の麓にある【
そこでひとつ、自らを落ち着けるように、これから発言する言葉自体の重みに圧し潰されないように。
「神代より存在し、世界を喰らい尽すまで暴虐の限りを営む魔物、」
クリスケッタは息を深めに吐いてから、その異次元の化け物の名前を――
「【
==============================
神代の魔物の強さとは――?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます