STAGE 2-19;遊び人、身体を火照らせる!
歴戦の猛者が挑み、敗れ続けてきた最凶最悪の
【地上最強の悪魔】が企んでいた〝冥界と現世を繋ぐ〟という、世界が滅びかねない野望を――
アストはその悪魔ごと討ち果たした。
「ご主人ちゃんはやっぱりすごいやー!」
わーいわーい、とリルハムが尻尾を振り両手をあげながら喜んでいる。
その勢いのまま、戦闘を終えたアストを抱きしめようと近寄ったところで。
そのアストの身体が、ふらりと揺れた。
「うあー! ご主人ちゃん、大丈夫ー!?」
「む……ああ。大丈夫だと、思いたいんだが――この感覚は、以前にもあったな」
アストは珍しく、力を失くしたような声で続けた。
「俺が以前……『遊び人』の≪
「遊び人――≪
アストは
「ちょっと待ってねー」とリルハムは小さな魔法陣を展開して、自らの目にオーラを集めた。
「うあー! 確かにご主人ちゃんの中で、≪遊び人≫の魔法も発動してるみたいー……もしかしたら、邪神様の魔法に
「……ふ、む」アストは引き続き力ない声で首を捻る。
「そもそも職業を
「むう。大丈夫、だろうか」アストは頭上の髪をしならせて、不安そうに言った。「あの夜、俺は≪
「……うあー?」
唐突に出された〝妖艶な声〟が。
他ならぬ自分自身の口から出てきたことに、アストは気づいて。
いつもの様子に似合わない
「む……なんだ、今の声は……俺の口から、出てきたのか――んっ♥」
再び口をついたその甘美な音に。
アストは耐え切れないように喉に手をあてた。
それでも。
「む、う……身体が、おかしい……胸のあたりが、
いつもは冷静さを保つアストが恥じらう様子を見ながら。
リルハムはその瞳をハート型にして叫んだ。
「か、か、か、かあいいーーーーーーーーーーーーーーー!」
興奮からか、そのふさふさの尻尾がぶんぶんと激しく揺れている。
「うあー! ご主人ちゃんが
一方でアストは。
とろりとした目でリルハムの〝揺れる尻尾〟をじっと見つめていたかと思えば。
その尻尾を、小さな白い手で
「うあんっ!」
思わずリルハムが驚きと悦びが混じった声をあげる。
「き、急に触られたからびっくりしちゃったよー……って、うあっ! なんかご主人ちゃん、触り方が、
アストに続いて、今度は狼少女が妖艶な声を出し始めた。
「ふむう――リルハムのしっぽは、気持ちがいいな……」
「く、くすぐったいよー! うあー」
アストの
〝先っぽ〟を撫でられたかと思えば、同時に〝根本〟からも心地よい感覚がリルハムに伝わる。
それだけでなく、最も毛のボリュームがある〝中ほどの部分〟もまんべんなく撫でられているのが分かった。
「う、うあああんっ――」
半身ほどある大きな尻尾――その〝先端から根本〟まで。
まさに余すことなく
「……あ、れー?」
恍惚な表情を浮かべていたリルハムが、ふと気づいた。
「ちょ、ちょっと待って! いちおー確認したいんだけど――ご主人ちゃんの
手がふたつという常識がない〝悪魔ならでは〟の発言をしたリルハムは、嫌な予感から冷や汗を出し始めた。
あらためて自らの〝おおきなしっぽ〟に全神経を集中させる。
(手が同時に、いち、に、さん……ろく……はち……うあー、きもちいー……って!!!)
どう単純に見積もっても〝10以上の手〟が無ければありえない責められ方をされていることに対して。
リルハムは叫ぶように突っ込んだ。
「どういう手の動きをしたらそんな風に触れるのさー!? うあっ――!」
しかしアストは、リルハムの言葉など聞こえていないように。
熱を出した子供のような声で答えた。
「むぅ――俺も、こんな触り方は知らないんだが……手が、
「うあんっ……! ちょ、ちょっとご主人ちゃんー! そ、それ以上はー――」
リルハムはアストの〝超絶手技〟の果てに、全身をびくりと反らして。
たまらず逃げるようにその場から飛び退いた。
ふー、ふー、と頬を紅く染め息を荒げるリルハムに対して。
「む、う……どうして、逃げるんだ……?」
アストは寂しそうな表情を浮かべて言った。
「リルだって逃げたくはないけどさー……そ、そんな悲しそうな顔しないでよー……」
その様子がいたたまれなくなって、再び近寄ろうとしたリルハムを制するように――
アストは空に≪魔法陣≫を展開させた。
「って、うあー!?」
もしかしたら無意識的であるのかも分からない。
体内に溜まった魔力が耐え切れず暴発するかのように――
アストの頭上で『遊び人』のものであろう様々な術式が、まるで花火のように次々に展開されていった。
「なに、これー! ご主人ちゃん、だいじょう――」
リルハムの言葉はそこで途切れた。
次々に魔法陣から繰り出される薄桃色の妖艶な光が、アストの身体へと吸い込まれるように消えていく。
そのたびにアストは『んっ』『むぅ』などと妖艶な息を吐きながら、頬の紅潮を強めていった。
「主人と従者とは、よく言ったものだが――」
そんな桃色の光の乱舞の後に。
中心にいたアストが息も絶え絶えに言った。
「そういえば俺たちは……まだ出遭ったばかりで、んっ♥ ――お互いのことを深く、知らないだろ、う……?」
言葉尻に艶っぽさを滲ませながら、少女は続ける。
「だから――
まるで数年来の片想いの相手に告白する女子のように。
指先を唇に当てながら、顔を赤らめて。
恥ずかしそうに言葉を紡ぐアストの仕草に――
完全に理性を吹き飛ばされたリルハムは、
「うあああああー! いけないわけないよーーーー!」
などと歓喜の声をあげて近寄ろうとしたところで。
「むうっ♥」
ふたたびアストの頭上で、無意識的な魔法陣が展開された。
そこから発せられる極彩色の光に包まれたアストの〝指先〟が――
「う、あー!?」
リルハムの全身の毛が逆立った。
「ま、まってー! その動きってもしかして、さっきのしっぽも――」
これまで長くを生きてきた
その指先の動きをどう表現すればいいのかまるで分からなかった。
(ううん――〝しっぽの時以上〟にー……!?)
おそらく『遊び人』の≪
それは激烈に振動するチェーンソーの刃よりも高速に。
万年が経とうと一秒も狂わない精密時計の歯車よりも正確に。
世紀末の人形のような少女の指先は――
「に、人間が〝しちゃいけない動き〟をしちゃってるよー……!」
人間がしてはいけない動きをしていた。
そんな〝人間をやめた〟アストは、驚愕の表情を浮かべるリルハムに向かって。
異次元の動きをする指先を見せつけながら――
草原に群れから取り残された獲物を狙う、肉食獣のような瞳を向けた。
「うあーっ!?」
リルハムは即座に理解した。
――
【
得体のしれない邪神の魔法を放った際のそれを遥かに超越するほどの――
最大限の悪寒が、リルハムの全身を突き抜けた。
――
「ふむ……お前の世話をするのは、これから〝
アストはそう言いながら、白肌に映える桜色の唇を。
熟れた果実のように紅い舌先で、妖艶に舐めながら。
この世の
「時間はたっぷりとある。思う存分、
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次回、真の最終決戦の火蓋が切られる――!?
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