STAGE1-15;執事、A級職を黙らせる!


「……え?」


 黒ずくめの服を着ていたせいで、夜の闇に浮かんだよう見えていた盗賊団の一味の〝顔〟が。


 ごとりと鈍い音を立てて


 リーダー格の男が落ちた部下たちの顔を見ると。

 首から下が――ない。


 遅れて生暖かい感触が男の全身に


「なっ……!」


 それが飛び散った血であることに遅れて気づく。


 背後からはごきごきとなにかをかみ砕くような音が暗闇から聞こえた。

 男は迫り来る悪寒に耐え切れず、一気にその場を飛びのいた。すると――


 それまで男が立っていた場所が、地面ごとなにかに呑まれるように


「な、なんだ……こいつは……!?」


 そこに居たのは。

 あまりにも巨大で、不気味な――蝙蝠こうもりのような生物だった。

 翼は4枚ほどあろうか、まさしく人を呑み込むほどに大きな口には禍々しい牙が無数に並んでいる。


 百戦錬磨の男にとっても。今まで対峙してきたそれらとは一線を画す〝化け物〟であることを即座に理解した。


「ちっっっ! 団長の判断は正しかったってことか……こんな没落地でA級職オレの力は使いたくなかったんだが……」


 言いながら男は腰元にぶら下がっていたふたつの剣を抜いた。


「オレの職業ギフトは『両剣王ダブルソードキング』! ――武道系のA級職だ!」


「……!」


 A級職という言葉に、ベジャクリフが目を見開く。


「確かに『召喚士テイマー』は希少かもしれないが、所詮は『B級職』――オレの敵じゃねえ! 上級攻撃魔法≪ 二重剣撃奏ダブルバースト ≫!」


 展開された魔法陣が、それぞれの剣に吸い込まれるように消えた。

 放った剣撃が、渦をまくように組み合わさり勢いを増強させながら召喚獣へと迫る。しかし。


「ちっ! 今のを躱すとは運がいいな」


 召喚獣は巨体に似合わないスピードで斬撃を避けると、ふたたび夜に紛れて闇の中に逆さ吊りで静止した。


「これで終わりだと……思うなよ!」


 男の等身ほどもあろう巨大なふたつの剣から。

 無限に繰り出される斬撃は止まらない。

 それでも――


「ちっっっ!」


 いくら斬撃魔法を放とうが、蝙蝠型の生物の巨体には届かない。それどころか、音もなく闇夜を駆ける召喚獣によって確実に――圧されるばかりだった。


「ぐ、はっっ!」


 ダメージは次第に蓄積され、遂に男の身体が後方に吹き飛んだ。


 執事はその様子をみて、遠慮がちに語り始める。


「私めはをしているのです。よりにもよってアスト様の目の前で、そのご職業を〝最底辺職〟などと……! 気が動転していたとはいえ、その場で命を絶たれても文句は言えない不躾な発言です」


 初老の男はこの世の終わりが来たかのような表情で言葉を続ける。


「それでも……アスト様はお優しい! どんな処罰でも甘んじて受けましょうと進言しましても、一切のお咎めはなし! ああ……これではいけません。ですからその御恩は……この生い先短いアスト様をお守りすることで。僅かでもお返ししようと思います」


「ちっ! ごちゃごちゃ、うるせえ……ぐがあああぁぁぁ!!!!」


 均衡は完全に崩れた。

 ベジャクリフの召喚獣がその大口で、盗賊の男の下半身にかぶりつく。


「くそがっ! 離せ! なぜ、だ……!? なぜこんな地方のモウロクジジイの魔法生物に、A級職のオレが手も足も、でないんだあああ!」


「A級職という形ばかりに胡坐あぐらをかいて、日々の鍛錬を忘れた蜥蜴とかげよりも……の世話をする爺の方が――よっぽど苦労をしているんです」


 ベジャクリフの肩で、鳥型の召喚獣がなにかを主張するようにぴいといた。


「ちっっっ! くそ、があああああ! 覚えてろよ! 〝黒蜥蜴〟は帝国にも鼻が利く窃盗団……! 団長ボスが本気になりゃこんな辺鄙へんぴな没落貴族、一瞬でつぶして――」


 と言ったそばから。

 


 飛び散った血で。

 周囲に咲き誇っていた白い花が真紅に染まった。

 その花壇を背後にして。


「やけに帝国貴族と仲がよろしいようですが……残念ながらティラルフィアここは王国領。帝国の道理は通じません。名前のとおり――蜥蜴の尻尾切りにならなければいいのですが」


 ベジャクリフは変わらず、本当に相手のことを心配するような人の好い表情を浮かべて言った。


「ああ、せっかくのお花が汚れてしまいました……明日、掃除をしてあげなければなりませんね」




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次回、エレフィー&メイドたちによる〝ゴミ掃除〟バトル!


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