STAGE 1-3;神童、魔法を無効化する!
「アスト!」「様は!!」「天才です!!!」
ティラルフィア家には、アストの教育を任された〝三つ子〟の名物メイドがいた。
長女でたれ目の〝アユ〟――マナーや生活担当。
次女で猫目の〝イト〟――武術担当。
三女のつり目の〝ウタ〟――学問担当。
アストは長女から『ア・イ・ウ』の順序で覚えている。
その三人が興奮冷めやらぬ様子でティラルフィアの現当主――エレフィーに詰め寄っていた。
「それで? アストちゃんはなにを
エレフィーがどこか慣れた様子で尋ねる。
「イトから話すぜ!!」
勢いよく返事を返したのは、三つ子の次女で武術指南担当のイト。
職業は武道系B級職『
猫目でセミロングの髪の彼女は目をらんらんと輝かせて語り始めた。
「アスト様は天才さ! なんてったって――」
♡ ♡ ♡
「本気でやろうぜ、アスト様!」
事件は模擬戦の中で起きた。
アストへの武術指導のひととおりが終わったことで、その集大成として実戦を兼ねた〝本気の手合い〟をすることになった。
無論これまでも模擬戦は行っていたが、加減をしての指導的な意味合いが強かった。
その中でも感じた手ごたえとして、間違いなく――
「アスト様は筋が良い! イトが言うんだから間違いないぜ!」
イトがまるで自分のことのように胸を張って言う。
「だからこそ。武道職の
イトのまとう雰囲気が一変する。彼女は背に持っていた〝長物〟の布をはらりと
中からはすらりと長く、それでいて空気をひりつかせるような
「一級魔道具〝不動牙槍〟――イトのエモノさ! アスト様も好きなのを選んでくれよな」
イトがぱちんと指を鳴らすと、メイドたちが数多の武器が入った巨大な収納台車を運んできた。
「ただ――目利きの訓練も兼ねて、すこし
アストは手の届くところにあったシンプルな剣を適当に掴むと、二三度空を切って言った。
「ふむ。これでいい」
「うーん、まあアスト様がいいならいいけど……あとで後悔しても知らないからな」
真剣勝負だからか、イトは少し不満そうな表情を浮かべてから槍剣を構えた。
「安心していいぜ、イトは《魔法》は使わない。単純な剣技の力量で――勝負だっ!」
一声とともに地面を蹴りアストとの距離を詰める。
宣言通り、ひとつの加減もせずにその長槍の一撃を――アストに向かって叩き込んだ。
「……っ!」
まるで超質量の巨大な物体が激突したかのような衝撃が空気を震わせる。
「よくそんなナマクラで――〝
それに終わらず二撃、三撃。
容赦のない連撃を繰り出していくイトに対して、アストは防戦一方であった。
ハズレと言われた剣身には既に
「それで〝本気〟なのか、アスト様!」
イトが長槍を振り回しながら叫ぶ。
そしてアストは――
「む? 本気?」
と頭上の髪の毛をぴくりと動かして訊いた。
「うん! そんなんじゃすぐに終わっちゃうぜ!」
「なんだ――本気というのは、
「……え?」
アストは淡々と言う。
「てっきり〝イトの本気〟を受け止める訓練だと思っていた。ふむ。そうか――俺も本気を出せばいいんだな」
その言葉の終わりで。
アストは大きな目をひとつ。
瞬かせると。
次に開いた瞳で。
「――っ!!!!」
その迫力は。
いくら全力の手合いとはいえ、アストに万一のことで傷をつけてはならないと細心の注意を払っていたイトの理性を。
瞬時に削ぎ取った。
――
根本的な死の恐怖に晒されたイトは、反射的に一級魔道具の槍を握りしめ。
そこに全力の魔力を――込めた。
「上級攻撃
アストに対して禁じていた≪攻撃魔法≫を放った刹那。
僅かに取り戻した理性が後悔するが間に合わない。
――しまっ……!
体積の何十倍以上に膨れ上がった圧気を纏った槍が、亜音速でアストへと迫る。
「――ふむ」
しかしアストはひびの入った凡剣を真っすぐに構えると。
槍の切っ先に向かい、爪先よりも緻密な角度で
そのまま刀身を滑らすように身体を回転をさせ――やがて。
岩山を貫通させるほどに思われた攻撃魔法の衝撃を、完膚なきまでに無効化した。
「……えっ……?」
勢いを消された槍が、そのまま上空へと弾き飛ばされた。
やがてくるくると回りながら落ちてくると、地面にぽしゃりと情けなく突き刺さる。
アストはなにもなかったかのように。
「今のがイトの≪攻撃魔法≫か。ふむ。面白い――ほかにはないのか? まだ見たいぞ」
などと。
目をいつもより
頭上の遊び毛をふりふりと揺らめかせて。
無邪気に言った。
「武道職の≪上級攻撃魔法≫を――剣ひとつで弾き返した……?」
イトが驚愕の表情で叫ぶ。
「しっ、信じられない! それに今の剣さばき――教えたつもりもない! 一体、どこで……?」
「む? ああ、さっきのなら昔――〝
「……あっ」
イトの脳裏に、ティラルフィア家が誇る『剣姫』の破茶滅茶長女――オリシアの姿がありありと浮かんだ。
「なるほどなー、それなら納得――できないって!」
イトが目を丸くして続ける。
「いくら『剣姫』の指導だからって、そもそも多忙のオリシア様がティラルフィア領に滞在した機会自体が少ないはず……」
「む? そうだな、実際に剣技を教えてもらったのは3日もないが、」
3日!? とイトが突っ込みを入れる。
「ひとりの時にも、
頑張った成果が出せてよかった――などと当然のように答えるアストに対して。
イトはもはや諦めたかのように言った。
「頑張ってどうにかなるレベルの話じゃないんだけどな……まあいいや、決ーめた!」
「む? なにをだ?」
剣を構えたままのアストが首をかしげる。
「アスト様は、もう――
「……む?」
せっかく他の魔法も見られると思ったのに、とどこか不服そうなアストのもとへ。
イトを筆頭にメイドたちが
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