高橋光太郎

2月後半。就活を目前に控えたリョウは今日もエントリーシートをひたすら書き込む。周りでは早期選考で内定が出たとか、最終面接だとか言っている友達が何人かいるが、リョウはまだ業界すら絞れていない。業界が絞れていないと志望理由や入社後の働き方もあいまいで、ひとつのエントリーシートを何時間もかけて書いていた。

今回のは自信がある。受かる気がする。そう心でつぶやいて早期選考会申し込みページの送信ボタンを押す。


1週間もしないで結果は届いた。淡い期待と少しの不安が胸に広がる。


"この度は、ご応募いただき誠にありがとうございます。午前の回につきましては、多数のご応募をいただき厳正に抽選を行いました結果、ご希望に沿うことができませんでした。そこでご提案なのですが、午後の回にはまだ枠に空きがございます。ご都合さえよろしければ、ぜひご参加いただければと存じます。"


すぐに返信のメールを打った。「この度はご提案いただきありがとうございます」「是非、参加させていただきたいです」「お手数おかけいたします」「よろしくお願いいたします」、、、。

ぼやける文字を打ち込みながら、なんとかメールを返信した。これで午後の回の早期選考会に参加できるし、人事部でも枠が埋まって嬉しいことだろう。


(それでも、涙を流しながら、メールを送信したこの思いは、人事部の人も、内定を持ってる友達も知らない。僕だけが知っている。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高橋光太郎 @koutaro_052

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る