『はいおく』

やましん(テンパー)

『はいおく』



 『これは、すべて、フィクションです。しかし、差し迫った事態ではないとは、言い切れません。』






 あるばん、ぼくは、きつい孤独感にさいなまれたあげく、真夜中のコンビニに、買い物をしにでかけました。


 あまい、飲み物が欲しかった。


 自宅の前の川は、冬場になると、濃い霧に包まれることがありました。


 しかし、最近は、気象のせいなのか、そうした現象は起こらなくなったように思っていました。


 でも、今夜は、深い霧でした。


 最近は、あちこちに、LEDの街灯が立ち、しかも、コンビニは幹線道路沿いで、夜中もトラックを中心にして、かなりの交通量があります。


 霧の中に浮かぶ、街灯やヘッドライトは、幻想的で、しかも、かなり不気味でありました。


 家からは、コンビニまで、歩いて10分足らずしか離れていません。


 まあ、そういう場所であり、深夜の時間帯でも、コンビニには、複数のお客様が来ていました。


 考えてみれば、10 年以上前の勤務先は、片道50キロメートルくらいあり、わりに、事務処理が深夜に及ぶこともありまして、かえりがけに、真夜中の食堂に寄ることも、ままありました。


 いつ行っても、けっこう、混みあっていたのを覚えています。


 真夜中に、仕事している方、帰宅する方は、かなりいらっしゃるわけです。


 で、糖尿病のぼくは、あまり甘いものは良くないのは分かります。


 だから、多少折り合いを付ける程度の飲料などを買いまして、帰宅しようと、しました。



 不思議なことに、コンビニを出るときに、ちょっとした違和感がありました。


 なんだかよくは、すぐには、わからないかったのですが。


 なぜか、街灯が点いていなくて、かなり、くらかったのです。


 自動車の、行き来も止まっておりました。


 自動車は、ともかくも、停電でも、したのでしょうか。


 最近も、ちょっとした停電はありました。


 長くなることは、ないのですが。



 自宅のあたりも、真っ暗です。


 でも、ぼくは、玄関先に充電式の補助ライトを四ヵ所、電池式のものも、四ヵ所、設置しています。


 天気が悪いと、充電式のほうは、すぐに消えてしまいますが、電池式の方は、生き物を感知したら、点灯するはずです。


 それが、反応しません。


 いや、それどころか、駐車場の屋根は、半分以上剥がれ落ち、家自体も、廃屋みたいなかんじです。


 『はやあ〰️〰️、こりは、なんでありましょうか。』


 ぼくは、あまりの怪しさに、足がすくむような寒気を感じつつ、ドアを開けようとしました。


 なんと、カギがかかっておりません。


 『いやあ、あれだけ、かくにんしたから、それはないよなあ。』


 強迫観念が強いぼくは、出掛けるときのカギかけは、10回は再確認しなくてはなりません。


 さらに、駐車場にある、ぼくの愛車、流星5号も、ぼろぼろの感じです。


 自宅なのに、恐る恐る、なかに入りました。


 いや、もう、めたくたです。


 床は抜け落ち、さまざまなものが散乱し、足の踏み場がありません。


 第一、やはり、電気が停まっているようです。


 『絶対に、あやしい。』


 ぼくは、スマホで、写真を撮りながら、2階のねぐらに上がりました。


 そこは、さらに、絶滅状態です。


 たしかに、それは、ぼくが持っていたものたちです。


 自宅には、違いないのです。


 

 『な、なにが、起こったの。』



 転がったままのラジオを拾い上げ、スイッチを入れましたが、反応なし。


 もちろん、テレビも、だめです。


 

 と、部屋の反対側に、なんだか、ぼあっ、としたものが、浮かんで見えたのです。


 『あんたが、犯人かあ❗』


 と、言いながら、写真も写しましたが、当然、フラッシュが光りました。


 さらに、足元に、まとわりついてきたものがありました。


 それは、くまさんや、パンダくんたち、ぬいぐるみさんたちでした。


 『しっくん、こあいよ。』


 そう、言っているようです。


 『うん。わかる。いったい、何があったの?』


 しかし、返事はありません。



 ぼくは、スマホの着信音を鳴らしました。


 ベートーベン先生の、『第5交響曲』の頭の部分です。


 喫茶店とか、病院とかで、うっかり、これが鳴ると、周囲がみな、ずっこけますが、ある種の畏怖の念も、漂うものです。


 『うん、じゃじゃじゃじゃあ〰️〰️〰️ん。』《うん、は、休符》




 すると、それと同時に、ぱっと、明かりがつきました。


 ラジオが鳴り始め、古い、なつめろが流れました。


 なにもかも、もとのままです。


 窓から見れば、街灯も、ちゃんと灯っております。


 『むう〰️〰️〰️〰️。いやいや、なんだったのかあ。』


 

 あとから、写した写真を確認したところ、たしかに、廃墟と化した我が家が写っておりました。


 しかも、あの、ぼんやりした青白いものは、明らかに、少し年取った、ぼくに違いありません。


 スクルージさんみたいに、幽霊に、なにかを、予告されたのでしょうか。


 しかも、自分の未来の、幽霊に。


 いったい、なにが、起こるのでしょうか。



 コンビニに、夜中にでかけたのを、少し悔やみました。




  ・・・・・・・・・・・・・・・


 


 


 


 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『はいおく』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る