第3話 武器の試練
目を開けると、俺は真っ暗で何もない空間にいた。体の自由は効くので、空間の中を少し歩いてみる。すると、頭の中に直接、少し低めの女性の声が響いた。
『てめぇは何を望む?』
剣に性別なんてあるのかよく分からないが、可愛い声だな。と思っていたら急に耳鳴りと共に耳に痛みが生じた。何だと思っていると、頭の中の声が少し怒った声で告げる。
『可愛い声、だ? 俺は男だ、クソ野郎』
「そ、そうだったのか? わ、悪い……」
耳が痛すぎて頭にまで痛みが生じ、俺は思わずその場にしゃがみ込む。
いってぇ……っ、この耳鳴り、ここにいる間ずっと続くのか? それは勘弁願いたいんだが。女って思ったのが悪かったのか? てか、この剣も心読んでくるのか。気をつけねぇと。
そう思っていると、急に耳鳴りがなくなった。不思議に思っていると、頭の中の声が俺に語りかけてくる。
『ふん、まあいい。てめぇは何を望む』
「俺は、戦える力が欲しい」
『……力を欲する理由は?』
「強く、なりたい」
『強さ……何のために強さがいる。人間は争うのが嫌いじゃなかったか?』
そうなのか?と頭にハテナを浮かべていると、声が続けて問いかけてくる。
『てめぇは何のために戦う? 本当の願いは何だ?』
「本当の願い?ってのは分からねぇけど、俺は今、悪魔の書っていう訳の分からないもののせいで戦わなきゃいけなくなった。だから敵を倒せる力が欲しい」
『「……悪魔の書、ね…………」』
そう言う声が頭の中と耳で響いて二重になる。首を傾げていると、目の前から俺が試練のために柄を握った剣を持った子が歩いてきた。暗い空間の中のはずなのに、光が当たっているかのように輝く銀色の髪と、鋭く俺を睨みつけてくる赤色の瞳を持った子は俺に剣を向けて言い放った。
「やっぱ人間ってのは傲慢で、自分勝手で、最低な生き物だ」
その声は頭の中に響いていた声と同じだった。ということは彼が銀狼なのは分かった。しかし……。
見た目人間と変わらないじゃねぇか! 狼なんじゃなかったの、ザックのやつ嘘ついたな!? 狼って動物だろ!? そう思っていると、鋭い眼光で少年は俺に剣を投げ渡してきたので、それを受け取る。
「あの黒悪魔野郎、説明を省きやがったのか。相変わらずだ。……俺と戦っててめぇが勝てば、従ってやるよ」
「勝つ……? 一体どういう……わっ!?」
俺が質問をし終える前に、銀狼は一瞬で俺の間合いに入り込み剣を振るった。咄嗟に剣で攻撃を受け止めるも、すぐ後に腹に衝撃が来て俺の体が吹っ飛ぶ。
「ぐはっ……!」
「倒れてる暇はねぇぞ、人間」
こいつ、めちゃくちゃ速い……っ! どうする? 勝てるのか? 俺も何か……っ。そう考えている間にも銀狼は攻撃を続ける。
「悪魔の書なんつーものを欲しがるようなクソ野郎が、俺様を従える? 巫山戯るなよ。てめぇ、その代物がどんな物なのか分かって言ってんのか?」
「悪魔の書が禁忌の書物っていうのは聞いた……っ……けど、それ以外何も知らな……っ!」
そう伝えても、少年は攻撃を止めない。動きが速すぎて俺が全ての攻撃をかわすことはできず、肩や脚、腕は斬りつけられ、避けられたと思っても拳や蹴りが飛んでくる。俺から攻撃を与える隙もない。なら、避けられるだけ避け続けねぇと……っ。
「おいおい、避け続けられると思ってんのか? てめぇ、このままだと俺様に殺されて終わりだぜ?」
「うぐっ、かはっ……!」
俺は何度目かも分からない攻撃を食らって倒れる。こんなところで死ぬ訳にはいかないと思っているのに、体は痛みで動かない。
「人間にしちゃしぶとい奴だな……これでてめぇはあの世行きだ。…………あばよ」
そう言って銀狼が剣を振りかぶる。
この距離で避けるのは不可能だ。このままでは殺される。俺は……こんな訳の分かんねぇとこで死にたくねぇ……っ! 動け!
俺は全ての力を振り絞って銀狼に向けて剣を突き出した。
「うああああああっ!!!」
「な……っ!?」
俺の攻撃が銀狼の頬をかすったことで銀狼は俺から距離を取った。俺はふらふらしながらも立ち上がって彼に向けて剣を構える。
「はぁ……はぁ……っ。お前を、従えたい訳じゃ
ない。対等でいたい……んだ……っ」
「…………」
「俺に、力貸してくれ……っ、銀狼」
俺が銀狼の目を真っ直ぐに見てそう伝えると、彼は構えていた剣を下ろし俺に背を向けて呟いた。
「…………ジルヴェル」
「え?」
「俺の名前。呼べばてめぇへの試練は終わりだ。殺されたくなかったら早く出てけクソ野郎」
口悪いな。でも名前を呼べばいいんだよな? 俺は言われた通りに名前を呼ぶと、視界がぐわんっと揺れたと思うと、元の場所に戻っていた。ザックも俺に気づいたらしく、蜘蛛男と紺色悪魔と対峙しながら笑って俺に声をかけてくる。
「ふっ、ボロボロだが、なんとか試練はクリアしたみてぇだな」
これ、クリアしたってことなのか? あんま実感がないんだけど。試練の時に戦ったせいで体のあちこちが痛いし。
「おいおい、手にあるもの見ろって」
ちょっと心読まれるのに慣れてきたなと思いながらザックの言う通りに見ると、俺の手にはザックに渡された銀色の剣が握られていた。剣の重みを感じながら、俺は心の中でジルヴェルにありがとうと呟くと、焦ったようなザックの声が耳に入った。
「朔夜! 悠長にしてる暇ねぇぞ! 流石の俺でも手が付けらんねぇとこまで力注がれてやがるぜ……。どうする?」
敵から距離を取って隣に着地したザックと彼が対峙していた蜘蛛男を見る。俺が試練をしている間、相当時間をくってしまったのだろう、ザックの顔に若干の疲労が見える。蜘蛛男の方は理性の欠片もなくなっており、目が充血し、眷属に操られて動いている様子だ。
俺はぎゅっと剣の柄を握りしめる。何故だか分からないが酷く冷静な自分がいる。
見極めろ、今の状況を打開する方法を。
俺は隣で指示を待つ黒い悪魔に告げた。
「…………ザック、もう少しだけ踏ん張れるか?」
「ふっ、俺を誰だと思ってやがる。……策はあんのか?」
「俺があの悪魔を倒す」
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