悪魔の書

煌烙

プロローグ

 この世は、3つの世界によって成り立っている。


 天使たちが住み、天王てんおうが総べる天上界。

 悪魔たちが住み、魔王が統べる魔界。

 そして、人間が住み、数多の国に分かれ、統治者が何人も存在する人間界。


 この3つの世界の均衡を保つため、この世界にあってはならない禁忌の書物が魔王と天王2人の力で封印された。


 その名も『悪魔の書』と『天使の書』。


『悪魔の書』を手に入れれば世界の破滅という名の終焉と悪に染まった世界の構築を、『天使の書』を手に入れれば世界の平和なる終焉と悪なき世界の構築をする権利を得ることができ、手に入れたものは世界の創造者かつ世界を統べる王となる。


 しかし、この書物の場所は書物を封印した魔王と天王以外の誰も知らない。手掛かりはただ一つ。


『三界に干渉せし者に禁忌が持つしるべを与えん』






 なんて、話を聞いたな……。誰に聞いたんだっけ? 忘れちまったな……。


 そもそも俺は何をしてたんだっけ? 俺は家にいて、いつものように過ごしていたはずだ。


 自分の体中に纒わり付くのは、周りの音全てを消し去るくらいの雨と赤黒い何か。頭の中が真っ白で、耳は雨の音だけが捉え、目は俺に目の前の現実だけを写す。


 どうしてこうなった。

 どうしてこうならなければならなかった。

 どうして俺は_____んだ。


 全部、俺のせいで……………………。



 こういう時に、人間って神頼みするのかな。いるかも分からないけど、いるなら、神様どうか俺の中で全てを無かったことにしてくれよ。


五月蝿うるせぇな、お前」


 突如、激しい雨音の中、頭上からはっきりとした声が降ってきた。顔を上げると全身漆黒の服、艶やかで美しい髪と、それと反して死んでいるかと錯覚するくらいの青白い肌をした男が浮いていた。想像した神とは正反対の身なりをしている。でも、神様に願いを聞いてもらいたいって思ったら現れたわけだし……。


「…………かみ、さま……?」

「悪ぃな、神じゃねぇんだわ。俺はザック。悪魔だよ」

「悪魔…………って、願いを叶えてくれるのか?」

「ああ、叶えられるぜ。その代わり、それ相応の対価は頂くぜ。どうする、人間」


 この際、神だろうが悪魔だろうが何でもいい。すがれるものがあるのなら縋ってやるさ。


「俺の願いを叶えてくれ」

「いいだろう。願いを叶えるってことは必然的に俺と契約を交わすってことになる。お前の願いと名前を言え。聞いた上で俺が判断して対価をもらう」

「…………分かった」

It’s a deal契約成立だ……じゃあ、聞こうか、お前の願いと名前を」

「俺の今までの人生の記憶全てを消してくれ…………。名前は______」

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