第2話 転生
「おんぎゃー、おんぎゃー」
気がつくと俺は泣いていた――。どこかに寝そべって、手をギュッと握って――。
力いっぱい泣き叫んでいた――。
「おんぎゃあああああ」
目も閉じて、泣くことだけに集中していた。理由はない。まるで誰かに指示されて、そうしなければならないかのように。口と喉が勝手に行動している。
…………?
………………理由はない?
何で俺泣いてるんだっけ……?
「おんぎゃ……」
その思考に至った俺は泣くのをやめて、目を開ける。
すると、目の前に女の顔があった。
視界がぼやけて見える……。明かりが……眩しい。そしてその中に……俺を上から覗き込む女がいたのだ。
この人……誰だ……?
「はぁ……やっと会えたわ……」
女は赤い髪色をしている。濃い赤だ。外国人の赤毛ではない。とんでもない髪色、だからすぐに知らない人だと分かる。
「おい、生まれたのか!」
「うん……つい今さっき……。この子が私たちの子よ」
「うわあ。何て純粋な……。天使のようだ……」
男の声がして、すぐにその男も俺の視界に入った。男のほうは黒髪の短髪である。
どちらも若い。徐々に鮮明になってきた視界で見るとよく分かる。そして、どちらもなかなかの美形だ。
両方とも知らない人間である。1度も会ったことが無い。
何で、俺はこんなところにいるんだろう……。
「ちょっと、天使じゃないでしょ。この子は魔族。そしてゆくゆくはその王となる子よ」
「半分は人間の子だろ。それにどの種族だって、やっぱ赤ちゃんは天使だよ」
「もう、失礼しちゃうわ。魔族の子を天使だなんて……でも、確かにかわいい……」
さっきから何言ってんだこいつら……。視界に遅れて少し鮮明になってきた頭で思った。
視界に映る2人はずっと意味の分からない言葉を言っている。俺のほうを見て。
赤ちゃん……魔族……天使……どの言葉もピンとこない。
「分かるかあ。お前のお父さんだぞー。それ、たかいたかーい」
「ちょっと。独り占めしないでよ」
「それそれー」
男の方が俺を抱きかかえて、頭上まで持ち上げた。軽々と持ち上げられているのが感覚で分かる。
たぶん夢だな……。ぼんやりとした頭で結論に至る。あまりにも理解できないこの状況から、それ以外に考えられるものが無かった。
さっき男のほうが生まれたとか言っていた。そして高い高いで持ち上げられているという状況。俺は成人男性じゃないらしい……。
有り得ないから、これは夢だ。
「ほれほれー」
「気をつけて。落っことさないでよね」
「そうだ。お前の名前、もう決めてあるんだ。お前の名前はシェード……シェード・ブルートーンだ。って言ってもまだ分かんないよな――」
何だそのヘンテコな名前は。何人だ。俺の名前はシェードじゃないぞ、俺の名前は佐藤た――――。
はっ――――。
その時、俺の頭に落雷が落ちたような感覚が走った――。
自分の名前を別のもので呼ばれた時に俺は大きな違和感を覚えた。反射的に俺はそんな名前じゃないと否定しようとした。
それにより自分の名前を思い出した脳が一気に覚醒して、ここで目を開ける前の記憶が溢れ出すように俺の脳裏を去来したのだ。
そうだ――。俺の名前は佐藤だ――。冴えないフリーター生活――。ずっと突っ立ってレジ打ち――。クリスマスの日にもバイトをしていて――。
そしてそして、帰り道で通り魔に刺された――。
あの痛み――。流れる血――。ぼやけていく視界――。絶望感――。
そうだった。俺はたぶん死んだんだ――。いや、たぶんじゃない――。死んだ――。
じゃあ一体この状況は何だ――――。
覚醒した脳が、自分の置かれている状況の異様さにも気づき始める。
今まではぼーっとしていて気づかなかったが、部屋も全く見知らぬものだし、内装は凄く豪華で広い。天井が高くて、そこにあるのは大きく輝くシャンデリア。
首を動かして左右を見てみると、窓もドアも見たことが無いくらいのサイズをしている。
ここはどこだ。何で俺はこんなところにいるんだ。そして、こいつらは誰だ――?
今までも抱いていた疑問がより強く脳内に響く。
起きたら泣いていて、さらに知らない美男美女に見下ろされていて、しかも中東の豪邸を思わせるような部屋にいる。レジ打ちのアルバイト生活の俺がここに辿り着いた経緯は全く記憶にないし……普通に考えたら夢。
だけど、このリアルすぎる感覚。死んだという記憶に、赤ちゃんになった姿。
まさか、これって――。
「あ……あの……」
俺が声を出した。そしてそれは、俺自身も出せると思っていないものだった。
「え!?喋った!?」
つい動かしてしまった口。脳内で戸惑いを言葉に変換したら、声になってしまった。
「お、お前。もう言葉が話せるのか……?」
俺を抱く男が表情を急変させて驚いている。
何故喋れる、まずいことをしてしまったか。そう思ったけれど、横を見ると女のほうはにっこりと笑ったままで……。
「そりゃそうよ。この子は私の子。魔族の子よ。魔族の子は人間の子よりもずっと産まれた時の知能が高いわ」
また理解し難い言葉を口にしたのだった。
詳細な事情は全くもって分からない。理解が追い付かない。
けど、状況から察するに間違いない。俺は生まれ変わったのだろう――。
2度目の人生が始まったのだ――。
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