第10話 はじめての抱っこ

ヤバい見つかる!


隠れるところのないベッドの上の俺は咄嗟に目の前の胸元に、、柚木のパジャマの襟を目掛けてダイブした。


襟から中へ潜り込んだ俺は、胸元から鳩尾みぞおちまでするすると肌をたどって滑り落りる。

柚木は驚きながらもパジャマの上から俺のいる場所を、身体をそっと押さえながら、


「都さん、起きてる」


「早うございますね、生徒会の朝活があると伺っていましたので」


そっか、と柚木は小さく呟いてから、


「うん、悪いけど予習するからコーヒーを持って・・・あっ、やっぱり牛乳にして。パンとヨーグルトと果物も」


「おやまぁ、今朝はたくさん召し上がるんですね」


声の主は嬉しそうにドアから離れていった。


柚木がほぅとため息をついた。

俺は柚木の胸に、素肌に押し付けられるような形でじっとしながらなぜかドキドキと心臓が脈打っているのに戸惑っていた。


肌理キメの細かいすべすべのあったかい素肌。

俺もパンツ一枚だから当然肌と肌が密着している。

男同士で裸で抱き合っている形なのに何なんだこの居心地のよさは・・・。


撫でて感触を確かめたい衝動に駆られ、そぉっと手のひらを肌に添わせて動かしたその時、


「城崎、大丈夫か?」


「!!!!・・・・・・っ、うん!大丈夫!」


「びっくりしたな、すぐに都さん戻って来るから隠れていろ」


俺は柚木の胸に当てている掌を離すのを惜っしい!と思いながら、するすると腹まで滑り降りた。

パジャマの上着の裾から抜け出ると、腿を走り膝を伝い、畳に飛び降りるとベッドの下に隠れた。



城崎がベッドの下に入ったのを見てから俺は部屋の扉の鍵を外すと、暫くして都さんが盆に朝食を載せて入ってくる。


「ぼっちゃま、お食事です。あら・・・?ぼっちゃま昨夜は床で休まれたんですか?」


「あ~、ぁあ、寝返ってベッドから落ちたみたいだ」


「まぁ、ちゃんと枕までもって落ちたんですね。ぼっちゃまったら」


にこにこ笑いながら食事をテーブルの上に置いて部屋を出ていく。

都さんは目敏くて鋭いなぁ。

俺はホッと息をついてからもう一度部屋の鍵を掛け、


「おい城崎、もういいぞ」


とベッドの下で目をパチクリさせてこちらを窺っている城崎に声をかけた。


城崎はパンツ一丁でとことこ出てきて「びっくりしたー」と笑う。本当だな。


腹がペコペコの俺と柚木。

俺はテーブルの上に登って、二人で朝食を食べる。


背丈と同じくらいある大きなスプーンでヨーグルトをすくおうとして転んだ。

柚木が笑顔で俺の口元にヨーグルトを運んでくれるのを食べる。

バナナの皮を剥いてもらってパンも端から囓る。


重くて持てないコップは柚木が傾けてくれるから牛乳を飲んで一息ついた。

俺がせっせと食べている間、柚木はずっとニコニコしている。

俺、すっかり世話してもらってるけれど、何だか心地いいなぁ。

新婚さんみたい ─── なんつて。



高1で家族と離れてはじめた一人暮らしは自由で気儘だった。

不便も寂しさも今は感じないほどに慣れた。


でも誰かと食べる朝食がこんなに美味しいなんてはじめて知った。

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