雇われ芸術家の旅行記

いちのさつき

1日目

 他の国に行くなんて滅多にないし、記念に旅行記を書こうかと思う。


 友人からの誘いで噂の花の都にやって来た。とても色が華やかだと思う。人も建物も雰囲気も。古い時代からあるものを大事にし、新しいものも受け入れる。良い感じに混ざり合っている。


 灰色で暗くてむさ苦しいワーラルフと大違いだ。男同士の喧嘩とかで血を見るなんて日常茶飯事なのだ。都がこんなに平和で穏やかだとは。


 それでも20年ぐらい前に革命とやらで血と憎悪と暴動で溢れていたと聞いている。民衆の代表が指揮を執って大丈夫なのだろうかと不安には思っていたが、何とかなるものだなと思う。


 宿の近くにある店で夕食を取った。ワーラルフの南ということもあり、比較的暖かい。夜でもカーディガンを羽織る必要がない。暖かみのある橙色の灯りに照らされながらのディナーである。


 指導を受けたナイフとフォークの技術を使い、いただく。


 生の葉の野菜を食べたのは初めてだ。寒い季節が長い故郷だと葉物はスープにしてしまう事が多い。生だとシャキシャキしているのだと学習した。


 メインの方は毛皮を剝いで肉の塊となった鶏らしき物の中に野菜が敷き詰めたもの。男2人で分け合ってどうにか食べ切った。あれは凄かった。量が。


 好きな火酒が売ってないのが残念だが、代わりに果実酒をいただいた。果物の香りが鼻に来る。酒独特の苦みより、果物の甘味が強い。女性貴族に受けが良いのでは。そう思ったら、友は店の人に酒の購入先を聞いていた。もちろん店から出た後に買った。知ってた。


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