夏夜

@sakuchak

第1話

ねぇ、ユウ。

覚えてる?

あの頃の私達、何も持ってなかったのに本当にシアワセだったよね。




中学3年の冬。

高校受験を控え、毎日勉強に追われていた。

同じ塾にユウがいた。

中学も同じだったが、クラスが離れていたので話したこともなかった。

ユウは勉強が出来たし、中学の仲間とバンドを組んでいた。

ベースを弾いていて、とても音楽が好きだった。

私は小学生のころから陸上一筋。

短距離だ。

遠い、点数ギリギリの進学校を目指しているのも、憧れの短距離の選手がいるからだ。


接点が何もない私達が2人の時間を過ごすようになったのは1枚の手紙。


「この後ひなた公園で待ってます。ユウ」


高校の合格発表が終わり、塾で卒業パーティをしていた時だった。


3月なのにまだ寒い日だった。

夕方6時。

歩いてひなた公園に行くとユウがいた。


「あ、来てくれたんだ。もしかしたら来ないかもって思ってた。」

「あ、うん。遅かったかな。ごめんね。」

「ううん、今日は門限ギリギリまで待つつもりだったから」

ユウは笑ってた。


「.........。」


「俺さ、ずっとお前が好きだったんだ。いつも明るくていつも笑ってて、なのに走ってるとめちゃくちゃカッコよくて。タイムが出ないと泣いて、自己記録更新すると跳んで喜んで。俺、隠れ野球部だったんだけど、野球のグランドからお前が走ってるの見えるから、お前見たい時だけ練習出たりしててさ。」

また、ユウは笑った。


「高校、別方向だろ。俺、お前には会いたいんだよね、これからも。」



「.........。」


ユウは最初からまっすぐ私を見ていた。

黙ってる私を見てまた笑った。


「お前が好きなの。お前の走る姿、ずっと見てたいの。俺のそばにいて欲しいの。」


私も笑った。

嬉しかった。

なんでか泣きたかった。


「うん。」


精一杯の返事だった。

胸がいっぱいだった。

ユウの手をとった。

隣にあったユウの自転車に当たって後輪が回った。

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