第1話 君との出会い①

 ー私立玉響学園入試ー


「あれ、ない、ない……、受験票が、なーい!!」


 僕、葉山冬樹は人生最大の問題に直面していた。


 やってしまった。


 叫んだ余韻ともに、周りから滑稽こっけいだと馬鹿にした視線が突き刺さってくる。


「あいつ、終わったよな」


「倍率高いから、ライバル減って助かるぜ」


 ライバルたちの人を食うような言葉を無視しながら、どうするべきか考えた結果、見落としがないか、ただ焦る気持ちを抑えながら、今度はより念入りに確認することにした。


 普段開けないようなカバンのポケットも、制服の内ポケットも全て確認した。


 だが、僕の浅はかな期待は、儚く散った。


 僕は、来た時よりも重くなった足取りで、校門へと向かっていたその時、その隣をすれ違っていく一人の女性がいた。

 彼女の視線が僕に向くと同時に


「これ、君のだよね?」


 そういって彼女は〔受験番号1008〕と書かれた受験票を差し出した。


 突然のことで少し硬直したが、再び試験に臨めるという期待とどうして僕のだとわかったのか疑問を感じた。


「あの、見つけてくれてありがとうございます。ただ……」


「受験者は急いで受験票を持って受付を完了してください!」


 僕が言いかけたところで、受付所で待つ職員がロータリー全体に行き渡る声で発した言葉が聞こえた。


「すみません、本当にありがとうございました!」


 時間に余裕のなかった僕は、それだけ言い残して受付所まで走った。


 そして、手続きを済まして試験会場への道順を進んでいると、


 「君は絶対合格できるよ!」


 さっきの女性だろうか、透き通った綺麗な声が僕に向かってエールを送ってくれた。


 それは、今までに受けたどの応援よりも簡潔的で、でも緊張を緩めてくれるもので、僕は声のした方を向き、感謝を込めた一度の会釈とともに早足で会場へと向かった。

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