第83話 自衛隊が表に出れない理由

 「御明察ごめいさつ流石さすがですね署長しょちょう」「あぁ、まぁ~な」

 「この一点鎖線いってんさせんは大戦中、物資を運ぶ為にZCBP(S.P)年に陸軍の要請ようせいによって、とても急いで開削かいさくされた道だそうです。戦後一般に解放されましたがこのんで使った人はなく、1ページ目の地図は現在のもで」

 「廃道はいどうだからっているはずがない」


 「その通りでしょうよ、署長しょちょう

 「でぇ~、ここは田舎いなかだ。こんな大きな広域捜査本部が設置される様な事件は起きていない。廃道はいどうなんぞに入り込んで、何の捜索をするんだ」


 「署長しょちょう、それを今から話すでしぃうよ」

 「儂等わしらには、通常業務があるんだ」

 「オブザーバーになって下さいと、頼んだ覚えは俺にはありませんが」

 「ちっ、先を話せっ」


 「次のページを」

 「私もできるぅ~~~」「まもお姉様、素敵ですぅ~~~」

 皆どっちかと言うと、りくちゃんとまもちゃんしか見てないよな。


 「まもちゃん、あの」「何ですか。まもお姉様のやり様に文句でも」

 「あ、ぁ~受付ちゃん、うん、とってもいいよ。そのまま続けて」「ふんっ」


 「ちち警部補けいぶほ、先を話さんか、その草木の写真はなんだ」

 Δデルタに言われなくとも、話すでしょうよ。


 「これはA地点から民間の人間が、調査と言う名目で旧道に入った時に撮影された物です。まぁ、廃道はいどうになったからと言って、民間人の立ち入りを禁止した訳ではないので、民間人の方達に問題はありません」

 「だったら何処どこに問題があるんだね」くそっ、一々いちいち話の腰を折りよって。


 [立場をわきまえろっ、まず俺の話をけっ、のちに質問を受け付ける。警察庁長官代理の命令だ。警視正、警視、早期退職を望むなら上位階級者への命令無視を続ければいい]

 て言えば、絶対静かになると思うけど、明乃あけのちゃんに働いちゃだめ、いつも通りにしてなさい、て言われるし。やる気出してたのになぁ~~~。


 「順番に話しますから、Δデルタ署長しょちょう

 「こう言ってはなんだが、君の様な要領ようりょうの悪い者に、どう言う意図があって長官は代理ににんじたのか、理解に苦しむ」

 「わしも同じ感想だΔデルタ君。ちち警部補けいぶほ、先を」


 全部けば、質問しなくていい様に作ってるのに、口を挟むからでしょうよ。

 まぁ、そう言う感想を持ってくれたなら、思惑おもわく通りでしょうよ。

 「ここからが広域捜査本部設置の本質です。民間人にこういった所を踏み荒らされて、戦中戦後の貴重な資料が失われる事を危惧きぐする所がありましてね」


 「民間人と区別すると言う事は、官の組織か。・・・思いあたるのが一つある。防衛研究戦史研究センター、自衛隊だ」

 ほぉ~~~署長しょちょう、物知りだな。

 思ってる事が口に出ない様に気を付けよう。NTRの情報がれたら大変だ。


 「名前からすると、戦争の研究をしている所ですか署長しょちょう

 「そんなに簡単ではないんだが、ひらたく言えばそうだΔデルタ君。わしの友人に海自の事務官をつとめるやつがいてな、自衛隊にそんな所があると聞いた事がある。自衛官がここにいる、かかわりはあるのだろう」


 「はい」あっ手が上がった。話聞いてた、嬉しい。俺、高校の先生になった気分。

 「はいっ、刑事君じゃなくて刑事さん」

 「こほん、仮に署長しょちょうが言った、防衛なんたらセンターだったとした場合、自衛隊が捜査に入ればいい事で、広域捜査との関連が分かりません」


 「はいお答えします。危惧きぐしているのは署長しょちょうの言う通り防衛研究戦史研究センターです。自衛隊が直接かかわれない理由が2つあるでしょうよ。1つは一般の人達が持つ印象です」


 「印象?」

 「そうですΔデルタ署長しょちょう、ここまでの話しと、この部屋の光景こうけいを見て気付きませんか」


 「人が多いいが」「全員が迷彩服めいさいふくを着ていたら」

 「なっ、Δデルタ君。県内駐屯地から離れたこんな田舎いなかで、何も知らない者が迷彩服めいさいふくを着たこの人数の自衛官を見たら、どんな流言りゅうげん流布るふされるか分らんぞっ。下手をすればその収拾しゅうしゅう我々われわれ警察が当たる羽目はめになる」


 「知らない人の創造力は、理屈りくつ関係ないですからね。30人以上と言えば1小隊クラスでしょうよ。田舎いなかで無くとも、みんな陰謀論いんぼうろんとか好きでしょうよ」

 「ん~~~、でもう1つの理由とは何だね」


 「大戦中、軍は人を消耗品として扱っていた時代です。我が国だけでなくそう言う時代でした。そんな中、突貫とっかん工事で造られた道でしょうよ」

 「何が言いたい」

 「一番懸念けねんされるのが、工事に狩り出された人達が怪我けがをしたり、最悪死亡事故が起きても、軍の意向いこうが優先されその場に放置された可能性が無い、と、自衛隊は保証できない」


 「何かあるのか」Δデルタが食いついた。やはりαアルファから聞いているのか。


 「あくまで可能性です。あったとも、無かったとも記録が無いんです」

 「はい」「はいっ、鑑識さん」

 おっ、又手が上がった。だいたい男女比は半々見たいだけどまた女性でしょうよ。


 「仮に自衛隊さんが捜索をしている最中に、人骨を発見した場合、どうなるんです」

 「そうなれば儂等わしら管轄かんかつだ」署長しょちょうが手で俺を制した。

 「自衛隊には手をそこで止めてもらい、出た人骨の年代に関係なく警察が、経過年数、事件性、事故、自殺、死因、身元等々を調べ、少なくとも事件性が無いと判断するまで、自衛隊が再び捜査に入る事は出来ん」


 「「「「「「「「「「ぉぉぉおおお~~~」」」」」」」」」」

 「こんなのは署長しょちょうならわかって当然だ。なっ、Δデルタ君」「はぁ~まぁ」


 「はい」「はい、鑑識さんっ」

 男性はどうしたのよ。もえ~~~の君、何もないの。

 「まだ分かりません。自衛隊が直接捜査をすると非効率なのはわかりました。でも広域捜査本部設置要請は警察庁長官がしますよね、自衛隊ではなく」


 「これは俺の想像だから」全部知ってるけどね。御免ごめんね。「はい」

 「どうもこのけんを耳にした統合幕僚長とうごうばくりょうちょうが、国家公安委員会委員長こっかこうあんいいんかいいいいんちょう、今どの大臣がなってるか知らないけど、その人に頼んだらしくて、それでね、国家公安委員会こっかこうあんいいんかい招集しょうしゅうされて、警察庁の警察庁長官へテロ相当で広域捜査本部設置要請ようせいが出て、こうなった訳」


 「政治ですか。えっ、テロじゃないですね」「法の建付け上そうなっちゃのよ」

 「はぁ~い」「刑事君」やっと男子が手を上げたよ。

 「法の建付けで言うなら、警察庁長官が直接県警の指揮をるのでは」

 「その通り、今はテロじゃないからね、警察庁長官いそがしいでしょうよ」


 「どうしてちち警部補けいぶほが警察庁長官代理なんだね」

 「それを聞きたければ、俺ではなく直接聞けばいいでしょうよ。さっきから直通の電話が有ると言ってるでしょうよ、Δデルタ署長しょちょう。まぁ、俺もともと出向させられてましてね、ひまに見えたんでしょうよ」


 「合点がてんがいった。要するに自衛隊の下請したうけとして招集しょうしゅうされたんだな」

 「そんな感じですね。あっ、なのでこの旧道を子供の時に歩いた事がある、この地域では多少名前の知れた郷土史きょうどし研究をしておられる。おじいさんが同行すると聞いてますが、署長しょちょう、副署長しょちょう、どんな方か知ってますかね」


 「何っ、あのじいさんを同行させるのかっ」

 「な、何か問題でも、Δデルタ署長しょちょう

 「わしは何があっても責任は持たんぞ」


 「署長しょちょう、どう言う人物かご存知で」

 「猿の様に無限に腰を振り続ける、無類むるいの女好きだそうだ。あくまでうわさうわさ


 明乃あけのちゃんの話を冗談じょうだんと思っていたが、違うらしい。

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