第65話 新たな家族
「ど、どうかな？」
「良い！！すごくいいと思うの！！」
文字だけ見ると、このやり取りは私とアースのやり取りのように思えるけれど、実はこれは私とスカイ君のやり取りだ。昨日の朝にスカイ君と彼のお母さんであるメイラさんが屋敷に到着して、メイラさんの方は治癒師の先生の付きっ切りで
「うん！用意したかいがあったね！」
その様子を見つめていたアースは口元に手をあてながら、うれしそうな表情を浮かべている。
「まあ、いい感じで何よりだ。これからよろしく頼むぜ、スカイ」
スカイ君の横にジンさんが立ち、その頭を乱暴になでる。ジンさんもスカイ君も、どこかうれしそうな表情だ。
「それじゃエステル、ジン、後は頼んだよ」
アースは私たちにそう告げると、支度を整えはじめる。アースは今日は一人での公務のようで、これからどこかへとお出かけの様子だ。アースはてきぱきと準備を終えた後、私たちに見送られながら出発していった。
「それじゃジンさん、私はメイラさんの様子を見に行ってきますね」
「ああ、分かった」
スカイ君にまたあとでねと告げて、彼をジンさんに託して私はメイラさんのいる療養室へと向かった。もし何か必要な物があったら、早めに聞いておかないと…
彼女の部屋の扉を数回ノックし、返事を確認したのち私は部屋の中へと足を踏み入れた。
「あら、エステルさん。来てくれて、どうもありがとう」
弱弱しい声ながらも、はっきりと感謝の言葉を伝えてくれるメイラさんの姿があった。
「わ、私は何も…それよりメイラさん、なにか必要な物や足りないものはないですか？」
私のその言葉にゆっくりと首を横に振ってこたえるメイラさん。
「もう十分ですよ、皆さんにも本当に良くしていただいて…そういえば、スカイはご迷惑をおかけしていませんか？」
彼女は心配そうにそう口にした。め、迷惑どころかスカイ君はもう…
「迷惑どころか、かわいくてかわいくて仕方がないと言いますか、彼にはもはや愛おしささえ…あ」
ちょ、ちょっとばかり心の声が出てしまったかな…？そんな私の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべたメイラさんだったけど、その表情はすぐに笑顔へと戻った。
「くすくす、それならよかった…そういえばひとつ、エステルさんにお聞きしたかったことが」
「？」
突然のメイラさんからの質問に、何を聞かれるのか若干ドキドキする。
「前にお作りいただいたお料理、本当に美味しかったのですが、エステルさんは一体どこであの技術を…？」
「あー…」
…話すこと自体は全く構わないのだけれど、話が長くなっちゃうかな…でも十分時間はあるし、別に良いかっ…！
私は自身の生い立ちから、ここに来るまでのいきさつ、これまでくぐりぬけてきた死線の数々をメイラさんに嘘偽りなく話した。最初は信じられないような表情を浮かべていたメイラさんだったけど、あまりに突飛な私の経験の連続に少しずつ慣れてきたのか、段々と落ち着いた表情を浮かべてくれていった。
けれど最後には、心底申し訳なさそうな表情を浮かべながら私に言葉を発した。
「そ、そうだったのですか…お辛い話をさせてしまって、ごめんなさい…」
「いえいえ、気にしないでください！私は大丈夫ですから！」
私自身、あのつらかった思いは乗り越えられつつある…と思う。ほかならぬ、ここにいるみんなのおかげで。
そんな私の表情を見てか、メイラさんが続けて言葉をかけてくれる。
「…あなたは本当に強い女性なのね。私も見習わないと…」
「い、いえ！そんなとんでもない…！…私なんてまだまだで…」
私なんて、全然みんなの力に慣れていないし、助けられてばかりだし…
「くすくす。そういう所も含めて、ね」
「？？」
メイラさんは、頭上にはてなマークを浮かべる私を見て笑みを浮かべながら、私たちは会話を終えたのだった。
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