第4話 ディナーの時間

「おいしい!!おいしいよエステル!!!」


「お、大袈裟おおげさですよっ!それにそんなに急いで召し上がらなくても、まだまだたくさんありますからっ!」


 私はさっそくディナーの準備をして、伯爵に振舞ふるまっている。メニューを考えて作っているときは内心すっごくドキドキしていた…私なんかの料理が、伯爵のお口に合うのか心配で仕方がなかったから…


「おかわりください!!」


 けれど、そんな心配は無用だったんだと思い知らされる。伯爵は文句を言うどころか、もはや涙でも流しそうな勢いで私の料理を頬張ほおばってくれている。それもまた、私が経験したことのない事だった。今まで私が用意した料理を、褒めらてもらえたことなんてあっただろうか…?心の底から嬉しそうに食べてくれる伯爵を見て、私は胸が熱くなっていくのを感じた。

 そんな食事中、伯爵が妙な言葉を口にした。


「すごい…!すごいよ…!こんなにおいしい料理は皇帝府こうていふにいた時だって食べたことないかも…」


「…皇帝府こうていふ?」


「あ」


 …しまった、と分かりやすく顔に書いてあるのが分かる。伯爵の食事の手が止まり、すっかり固まってしまっている。


「…伯爵?」


「い、いやその…実は前に皇帝府こうていふで出された料理を食べたことがあるんだ!貴族の食事会があったからね!」


「そ、そうだったんですね…」


 …明らかに何かを誤魔化しているようにしか見えない…けれど、正直今の私には全く気にならなかった。私なんかの料理をこんなにおいしいおいしいと言ってくれた上に、あの皇帝府こうていふで出された料理よりも私の料理の方が上だと言ってくれた。その言葉だけで私は、心の底から嬉しかったのだから。

 そのまま終始温かい雰囲気で食事を終え、私は素早く後片付けをし、気づいた時にはもうすでに就寝の時間を迎えていた。


「エステル、君の部屋はここがいいかと思ってるんだけど、どうかな?」


「こ、ここは…」


 確かこの部屋は、伯爵が自ら掃除をしていた部屋だ。私にはここを掃除した記憶がないから…

 遠目に見ただけでもわかるほどに、ふかふかそうなベッド。夜空がよく見える大きな窓に、きれいな机も…一つ一つの家具が、丹精たんせいを込めてピカピカにみがかれているようだった。


「い、いいのでしょうか…私なんかがこんなに贅沢ぜいたくな…」


 私の言葉に、伯爵は優しく微笑みながら答える。


「君に、使ってほしいんだ。そのために、がんばったんだから…」


 私は部屋から伯爵の顔に視線を移す。どこか少し、頬が赤くなっているような気がする。伯爵は顔を人差し指でぽりぽりとかきながら、うつむいてしまう。


「…本当に、ありがとうございます。大切に、使わせていただきますね」


 …多分、私の頬も熱を持っていたように思う。私の言葉に伯爵は返事をし、手短に就寝の挨拶を告げて去っていった。噂とは正反対のその言動に、私は少し戸惑いつつも、心にぬくもりを感じていた。

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