第6-2話 誰の声も届かない場所で

 進藤と名乗った男の指示によって、セルを決める時間が始まった。運動場に着いたのが授業開始のギリギリになったこともあって、天と話す時間が無かったシア。

 先ほど一緒に出ていった友人たちと組むかもしれないと思いつつ、ダメ元で、シアは天をセルに誘おうと思っていた。


 「神代さん、一緒に――」


 しかし、啓示は彼女を思った通りの運命へは導いてくれない。もみ合いとはいかないまでも、すぐに天人であるシアと、魔力持ちである天の周囲には勧誘者たちによる人の壁ができてしまう。


 「シアさん、俺と組みましょう!」

 「どうか私と、私と!」


 彼らも生き残りと討伐成功の確率を上げるために必死だ。


 必ずしも啓示による影響が出るわけではないだろうし、今後もセルに勧誘するチャンスはある。

 何より、天人として、わがままは言えない。これも運命だろう。シアはひとまず自分の願望を置いておく。そして、折角だからと、自分を誘ってくれている彼ら彼女らと協力することにした。




 合図とともに、外地演習が始まる。


 「それじゃあ、行こっか、シアちゃん。俺は下野幸助しものこうすけ

 「んで、俺はジョン。アメリカとのハーフな。とりあえず、俺たちが〈探査〉するから、そこで待てて」

 「はい。よろしくお願いします」


 結局シアは、くじ引きによって決まった男子学生2人とセルを組むことになった。


 『とりあえず今後も外地演習あるわけだし、今回はクジでよくね?』


 そう言った彼らが、結果的にシアと組む当たりの棒を引き当てていた。2人とも身長は高く、ジョンと名乗った肌の黒い学生は外見でわかるほど鍛えられた足腰をしている。魔法以外でも頼りになりそうだと、シアは安心していた。


 「シアちゃんと組めて良かったよ。クラス別だし、あんま話せないからさ」

 「良かったら話聞かせてくれない?」


 リラックスした様子で、向こうから話しかけてくれる下野とジョン。

 啓示の影響を恐れて、これまで人付き合いを限定してきたシア。他人と何を話していいか迷いがちな彼女にとって、親し気に話してくれる2人の反応はありがたかった。


 彼らの人柄もあるのだろう。少し話すだけで、初めての外地という状況に緊張していたシアの身体から、少しずつ余計な力が抜け、自然と笑顔を見せられるようになっていった。


 外地育ちだという彼らは、慣れた様子で森の奥へと進んでいく。雑談や魔法の練習をしながら、10分ほどが経っただろうか。ざっくりと北から南にかけて続く境界線を、東に歩いてきた。そろそろ境界線から100m、もしかすると少し超えているかもしれなかった。

 しかも、折悪く、雨粒が木の葉を叩き始めていた。


 「あ、これ俺たちの連絡先ね。よかったら後で連絡ちょうだい」

 「あ、どうも……。すみません、そろそろもう一度〈探査〉をしてもいいですか? 私がするので」


 外地では定期的な〈探査〉による索敵がセオリーになっている。いくら慣れてきたとはいえ、油断するわけにはいかない。それにまっすぐ進んできたつもりだが、森で遭難する可能性もある。戻るべき境界線の位置を知っておきたい。そう思い、提案したシアを


 「先公せんこうはああ言ってたけど、このあたりに魔獣はいないよ。実は俺たち、ここから少し行った所が地元でさ」

 「まあまあ、幸助。シアちゃんが言うなら一応、やっとこうぜ」


 そう言って、最初と同じようにジョンが〈探査〉を使用する。


 「大丈夫そうだな。境界線はあっちで……って、人がいる? あっちの方で倒れてるみたいだ!」


 境界線がある方とは逆方向に、ジョンが人を見つけたと言う。


 「本当か?! 学生かもしれない! シアちゃん、助けに行こう!」


 どうやらシア以外の2人は助けに行く様子。しかし、行こうとしている場所は、確実に境界線から100m以上離れた場所。そんなところに学生がいるだろうか?

 それに、初めて外地に出たシア。

 天人ととはいえ、十全に力が使えるかはわからない。魔獣はいないと言っていたが、危険は大きいように思われた。


 「えっと、とりあえず先生に報告した方が……」

 「助ける方が先でしょ?!」

 「じゃあ、俺たちだけで行くから、シアちゃんは先生に伝えといて!」


 駆けだした下野とジョンにそう言われては、シアとしても引き下がりづらい。何より、自分の啓示が影響しているかもという負い目があった。


 「いえ、私も一緒に行きます! 急ぎましょう!」


 言って、下野たちと共に走る。

 目指す先は境界線から200m以上行った場所。先ほどから強くなっている雨は霧を作り出し、視界もかなり悪い。他の学生たちは一度境界線に戻ることだろう。


 何かあっても気づかれず、境界線付近で使われる一般人の〈探査〉もここまでは届かない。

 それらを理解していてなお、必死で後ろからついてきているだろうシアを確認して、幸助とジョンは目を見合わせて小さく笑った。


………

●次回予告(あらすじ)

 雨で視界が悪くなった森。なかなか帰ってこないセルを助けに行くよう、9期生は進藤から指示を受ける。優も救出部隊としてその作戦に参加することになる。しかし、魔力の低い自分が作戦に参加することに1人、不安を覚える優だった。

(読了目安/7分)

………

※次回からは主人公・神代優の目線で物語が続きます。

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