第2話

 寛文1年  1661年 仙台城本丸西館


「曇りなき 心の月を 先だてて 浮世の闇を 照してぞ行く 」


 どこかで聞いたな?

 他の誰でもない。

 俺が呟いたみたいだ。

 確か伊達政宗の最後の言葉だっけ?

 ええと右目が見えなくて、独眼竜と言われていた人物がいたんだ。


 うん?

 右目が見えない気がする。

 何ていうか?

 何かが巻かれているんだ。


 今日は朝寝坊確実だろう。

 昨日は夜遅くまでゲームセンターで遊んで……?


 その後の記憶は?!


「政宗様。起きて下さいまし!」


 俺の記憶力は凄く悪いが、今度のは最悪だー!


「だー! 何も思い出せん!」

「政宗さまー!」

「政宗さまーー!」


 俺は布団から飛び起きて、廊下を頭を抱えて突っ走っていた。

 無理だ。

 昨日の夜のことが、どうしても思い出せない。

 後ろから可愛いお姫様と厳つい顔の重臣と思わしき人たちが追ってくる。みんな時代劇から飛び出してきたかのような服装の人たちだった。

 

 俺も必死だ。だが、向こうも必死だった。


「よお、風ノ助くん。朝から元気だね」

「あ、楠田先生くすだせんせい! おはようございます!」

 

 廊下の突き当たりにある。金色の松を模した襖を開けたのは担任の楠田先生だ。



「あ! それと、廊下は走らないように!」

「はい! って、今はそれどころじゃねえー!」

 

 俺は廊下を走りながら気が付いた。

 今となっては遥か後ろにいる。ニコニコとこちらに手を振る楠田先生に昨日の夜のことを聞けばいいんじゃないのかな? 


「政宗さまー! お待ち下さい!」

「政宗さまー!」


 俺は全速力で走りながら混乱する頭を左右に振った。


「これは夢だー! そうだ! たんに時代劇の見過ぎに違いない!」


 あ! 俺が夢の世界で伊達政宗だとしたら、片目が天然痘とかで失明していて確実に見えないんだった! 途端に柱に激突。

 

「大丈夫ですか? 政宗さま!」

 倒れた俺の顔を覗くお姫様。

 綺麗な顔だが、誰だろう?

 あ、多分。伊達政宗の長女の五郎八姫いろはひめだ。

 絵で見た記憶が? でも、変だ。長女(娘)のわりには俺と同じ歳のように見えて、同じ背格好をしている……?


 俺……老けているのかな?

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